眷属のススメ

岸 矢聖子(きし やのこ)

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初陣 ②

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捜査官は1台の白いバンと他4台の車に分乗して、国分町へ向かう。
金曜日の国分町は予想通り若者や酔客でにぎわっていた。あらかじめ地図で確認した配置で待機する。アヤメは先陣を切って突入する第1班だ。その後を2班、3班が続き最後に眷属隊が突入することになっている。

バー・ナイトメアの入る雑居ビルは敷地面積が狭い縦長の7階建。
ナイトメアは最上階の7階をワンフロア利用している。店舗の出入り口はエレベーターと通路の奥にある非常口につながる非常階段。ヴァンパイア専門店に改装されており窓の類はない。

第1突入班と眷属隊がエレベーターから。2,3班が非常階段からビルに潜入する。

「金田組の組員が対象ビルに入ります。男性4人です。」
無線が入った。
大きなキャリー型のスーツケースを二つ引いている。あの中身が血液だろうか、バンのカーテンの隙間から覗いていた俺はそう思った。

「そのまま待機してください。」

10分後、客の入りは12人。店の奥にあるカーテンで仕切られたVIPエリアに金田組の組員がいると潜入捜査官から連絡が入る。

「各班、突入地点にて合図を待て!」

いよいよ初陣だ。
第一班、総勢10名がエレベーターに乗り込む。
エレベーターに設置された監視カメラが俺たちを見下ろしている。嫌な予感がした。

その時、かすかな爆発音が聞こえる、エレベータに衝撃と揺れを感じた後、エレベーターが止まった。

「2班、3班。非常階段の破損で目的地に到達できません。捜査官3名負傷。」
無線が入る。

万事休すか、そう思われた時、エレベーターが動き出す。
「エレベーターを降りたら臨戦態勢で行け。敵に我々の動きがばれてるようだ。」
今回の任務の1班隊長の高木さんが静かにそう言った。

正直。俺は緊張でちびりそうだった。
隣に立っていた常盤さんも小さく震えている。常盤さんの蒼白な顔をみて俺の日本男児魂が顔を出す。

「♪ふんっ♪ふんふん、、。」
ん?誰かが鼻歌を歌っている。しかも、このメロディーには聞き覚えが、、、。
「♪お江戸の悪い奴らを許しちゃおけねぇ~♪」
歌っているのはアヤメだった。しかも、江戸の稲妻オープニングテーマ。顔を見ると生き生きとしている。

はぁ~。常盤さんとアヤメを足して二で割ったらちょうどいいのに、、。

そんなことを考えているうちにエレベーターはバー・ナイトメアのある7階に到着する。

チン

ベル音がして扉が開く。ヴァンパイアが大挙して待ちかまえているかと思ったら以外にもエレベーターホール前は静まり返っている。
「1班、待機位置に到着しました。、、、。ダメだ無線の交信ができない。退却か。」
高木さんがうなるようにつぶやく。
2,3班の応援には期待できない。

「えええ。行かないの?ここまで来たんだから突入でしょ。」
アヤメが不満そうに言う。

「そうですね。この内定から今日の検挙まで半年かかっています。ヴァンパイアマフィアのsucksはとても狡猾でなかなか尻尾を掴ませません。今日を逃すと次回はいつになるかわかりません。」
そう言ったのは、普段はほとんど話すことのない灰野の主。杉山さんだった。

「よし。突入しよう。眷属の皆さんは危険が無いよう後ろに下がっていろ。」

バー・ナイトメアのドアは重厚な鉄製で鍵が開いていなかったら突入は難しい。扉を壊す破城槌は2、3班が持ち込む予定だった。

最初の予定では、中にいる捜査官が中から鍵を開ける予定だったが、今となってはそれも望めないだろう。
高木さんがドアノブに手をかけるとドアはガチャっと音を立ててすんなり開いた。

「いくぞ。眷属隊は外で待機しているように。」

捜査官5人は一斉にドアの中に踏み込んだ。


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