眷属のススメ

岸 矢聖子(きし やのこ)

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シルバーショップの怪 再び

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いつもそうなように、アヤメは「ちょんまげデート」の話題には一切触れてこなかった。この「ちょんまげデート」とは常盤さんの命名だ。常盤さんに「デートじゃない」と何度も説明したが、理解は得られなかった。

そして、いよいよ「ちょんまげデート」当日、俺は頼んでいた品物の受け取りに、ジュエリーショップ・カオスを足取り重く訪れる。

「あらぁ。本田君。待ってたわ。」
前回と同様に襟首を持たれ子猫のようにリビングに運ばれる。

「そこのテーブル上に箱があるから。」

テーブルの上には真っ赤な箱が置いてある。

「あああっと。その前にこっちの作品のお披露目ターイム!」
そう言ってソファー脇の白い布をスルスルと引っ張る。

「!!!!!」

「私、本業は彫刻家なのよ。フフフ、これ、この前モデルになってもらった作品よ。」

「あの、俺、全裸になった覚えはないし、これ、なんて言うか何も身に着けてないんですけど。」

「そこは、ほらアーティストの創造性ってやつを駆使して。フフフ。でも、このお尻。見て!可愛くできたと思うけど、どうかしら。」

そう言って彼女は、彫刻のお尻をぺろりと撫でた。
俺の尻を撫でられたわけじゃないのに、悪寒が止まらないのはナゼだ!?

前回、アヤメへのプレゼントを依頼しに来た時に、プレゼントを急いで仕上げてもらう代わりにモデルを引き受けた。それがこんなことになるとは、、、。

俺が、全裸で、バラの花、、、、ありえない、、、。

「はい。作品のお披露目会はこれにて終了。じゃ、今回ご依頼を受けた方はこちらね。」

彼女が黒いマニキュアを塗った長い指で、箱を開ける。

「ああ、、、。これ、すごく良いです!俺の思ってた通り、というかそれ以上です。」

「あら、ありがとう。この前も聞いたけど。あなた、これは飾りじゃなくって実用品って言ったわよね。」

「はい。」

「それなら、これは武器ってことになるわよね。」

「そうです。」

「うちのアクセサリーは、純度99.9%の「純銀」って素材を使ってるの。これは、一般に使われているシルバー925よりは固いんだけど、銀自体が金属の中ではそれほど固い素材じゃないのよ。もちろん、食器やアクセサリーに使う分には問題ないわ。でも、武器に使うには強度がなさすぎると思うわけ。特にこの形状だと、この細長い部分の一点に力が集中したら簡単に曲がっちゃうのよ。これは武器として使用するには致命的でしょ。」

「そうですね。」

「なので、相談もなしで勝手にやっちゃって悪かったんだけど。タングステンって言う固い素材を中に仕込ませてもらったわ。これなら一点に力が集中しても簡単には曲がったりしないから。」

「だいたい、武器に向かないシルバー素材でわざわざ作るってことは、これって対ヴァンパイア用の武器なんじゃないの?」

「ええ、なんで分かったんですか?」

「分かるわよ~。このお時勢ですもの。でも、気を付けてね。だって私の可愛いお尻が4つに割れたりしたら大変。」

そう言って今度は本当に俺の尻を撫でる。

「あ、ありがとうございます。代金はいくらですか。」

「全部シルバーで作ったわけじゃないから、思ったより安くすんだわ。税込み4万800円円になりまーす。毎度ありー。あと、これはサービス。その形だと持ち歩くのに不便だから、拳銃のホルスターを真似て作ってみたの。腰に掛けて使えて、持ち歩きも楽々。」

「ありがとうございます。じゃ今日はこのへんで、、、。」

「あらぁ。もう帰っちゃうの。壊れたら責任をもって修理しますのでいつでもどうぞ。」

またモデルをさせられたら大変なので、俺は早々にジュエリーショップを後にした。

それにしても、あの、お姉さんはただもんじゃない!
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