眷属のススメ

岸 矢聖子(きし やのこ)

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ちょんまげランドへ、いざ出陣! ①

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アパートに戻り、大急ぎで着替える。

大江戸ちょんまげランド、大江戸と名前にはあるが、実際は福島県にある。
福島には江戸だけじゃなく、常夏のハワイもあるらしい。福島県民のチャレンジ精神には脱帽だ。

高速道路を使えば2時間半くらいで到着する。
冬の日暮れは早いが、向こうで遊ぶことを考えれば、早く出るにこしたことはない。

スマホが鳴る。

着信:高梨

「あ、もしもし。アヤメお嬢様の準備が出来ましたので、お迎えに来ていただけますか。」

「え?でも、まだ太陽が、、。」

俺は時計を確認する。
「14:16」

まだ日の入りにはだいぶ早い。

「一宇様、大丈夫でございますよ。」

「わかりました。すぐに向かいます。」
俺は急いで刑部家に向かった。

「一宇様、こっちです。」
高梨さんが裏門口の方で手招きしている。

俺は、裏口からガレージに入る。

「今日は、こちらの高梨カスタム完全遮光カーでお出かけください。お嬢様はもう乗っております。今のうちに迎えはちょうど日の入りごろに到着できるでしょう。一宇様のお弁当も助手席に置いてありますから、途中休憩の時にでも食べてください。」

「何から何まで、ありがとうございます。」

俺は、高梨さんに手を振り、東北道を目指し走り出す。

後ろの席はどうなっているんだろう?
アヤメは何も言わず静かだった。まだ、寝てるのかな?

常盤さんが「デート」と散々盛り上げるので、少し照れ臭かったし、この方が良いかもしれない。

仙台宮城ICから高速に乗り、一路南へ。まだ日は高い。冬の陽射しは弱々しかったが、アヤメにはこれも毒になるんだろう。

BGMにラジオをかけると昭和ポップスで有名なクリスマスソングが流れてきた。
イヤでも気分が盛り上がる。
男性歌手が優しい声で歌う、その名曲は失恋の歌だった。

途中トイレ休憩をとる。アヤメは何も話さない、

気になる。

俺は完全に日光を遮蔽するために囲われた後部座席の覆いをノックする。

「おい、アヤメ。今ちょうど半分くらいだけど、大丈夫か?」

「大丈夫よ。」

「気分悪くなったら、言えよ。」

「わかった。」

機嫌悪いのかな??
いつもは助手席に座っているアヤメがいないので、俺も調子が狂う。

さっさと現地入りすべく俺は先を急いだ。

冬の日の入りは早い、16時を過ぎた頃からあたりが薄暗くなってきた。

白河ICで高速を降りる、高速を出るとすぐに大江戸ちょんまげランドの大きな看板が現れた。
看板の指示通り車は右折する。ここからは自動運転に切りかえた。
20分ほどでちょんまげランドの大駐車場に到着する、福引所のおばさんが言っていた通り、駐車所は大混雑している。車のナンバーも福島県内だけでなく県外ナンバーも多い。大型の観光バスもちらほら停車していた。ただ、一つ、千葉県にある夢の国と決定的に違うのは、お客の年齢層が高いことと外国人が多いこと。日本の若者層は皆無のように思われた。

あたりもすっかり暗くなったので、俺はアヤメに声をかける。

「アヤメ、ちょんまげランドに着いたよ。」

「ちょ、ちょっとまって。」
アヤメがなかなか出てこない。

「早く行こうよ。」

俺がしびれを切らしたころ、中から鍵の開く音がしてアヤメが出てくる。

アヤメは、いつものアヤメと違っていた。

いつもの黒と白のゴスロリ風ファッションではなく、赤のベルベット生地に白のファーでパイピングされた可愛いワンピースを着ていた、長い黒髪も結ばずに下ろされ、その毛先は軽くカールされている。
可愛い、ものすごく可愛い。

「こ、これは。高梨さんが用意してくれて、、。着ないのは悪いかと思って、着ただけなんだから、、。本当に、、。」

「すげぇ似合ってるよ。」
俺は言った。

本心から出た言葉だった。

「バカなこと言ってないで、早く行こ。」

アヤメは俺を残して入場口へと走り出す。


入場口もたくさんの人で混雑している。俺たちはチケットを持っている人専用の入場口に並ぶ。
入場券を持っている人の列はさくさくと流れていく。
俺とアヤメは程なく夢のちょんまげランドに入場を果たす。

「うわぁ、遠山の金さんのコーナーがある!大可越前も!北町奉行所と南町奉行所が並んでるって、変よね。」
入場後のアヤメはまるで子どものようにはしゃいでいた、

「ピンポーン♪ご入場の皆様にお知らせです。17時45分より、吉原ストリートにおきまして、豪華絢爛・花魁道中おいらんどうちゅうパレードが行われます、皆様、美しい花魁おいらんのパレードをお見逃しのないようご注意ください。」

「一宇、花魁道中だって行こっ!」
既にたくさんのお土産を両手に抱えたアヤメが嬉しそうに歩いて行く。

「アヤメ、荷物、俺が持つよ。」

「ありがとう。」
そう言ってアヤメが荷物を俺に渡す。俺は少々面食らった、「眷属なら当然ね」と言われると思ったからだ。

先に花魁パレードの通り道にたどり着いたアヤメが俺に向かって手を振っている。

「ここなら、パレードが全部見える。」

パレードの沿道ではすでに、多くの人たちが花魁たちを待ちかまえている。
煌びやかな衣装を着た花魁たちが、あの独特のしゃなりしゃなりとした歩き方で現れる。
アヤメも女の子、花魁の美しさに見とれていた。

道路の向こう側にも若い日本人のカップルがいる、、、。って。赤目?と常盤さん??

奴はすでに俺を見つけ、何かを叫んでいるが、沿道の熱気に何を叫んでいるのかまでは、わからない。

俺を口汚くののしっていることは間違いないだろう。

花魁の波が引いたら、走って来て俺につかみかからんばかりの勢いだ。
もうすぐ最後の花魁がやってくる。俺はアヤメの手を引いて早めに花魁パレードの輪から抜け出した。

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