眷属のススメ

岸 矢聖子(きし やのこ)

文字の大きさ
61 / 166

彼女の行方 ④

しおりを挟む
稲葉とノエルを乗せた車が走り出す。杉山さんペアと高木ペアは、先に東洋ホテル付近でスタンバイしていた。

赤目と、常盤さんはヴァンパイアポリスに待機して通信業務と不測の事態に備える。

俺とアヤメだけが、バイクの機動性を生かし、ノエルと稲葉を追走する。

市街地に入ってからは、適度な距離をとってノエルの車を追う。
約束の、東洋ホテルに到着する。時刻は「21:56」。

ノエルの車が見える位置にバイクを止めて待機する。一つ先の角に杉山さんと灰野の車も見えた。念のため、ノエルを見失っても追跡できるようにスマホのGPS機能をオンにしてあるらしい。

「22:00」を知らせるアラームが鳴る。赤信号が青に変わり、一台の黒い車が、東洋ホテル側に車線変更してくる。レグザスだ。ノエルが車を降りレグザスに向かって手を振る。ノエルの姿がレグザスの助手席に消える。俺はエンジンをかけ、レグザスの3台後ろを走り始めた。

「本田さん。あまり対象車両に近寄らないように、注意して追走してください。GPSも機能していますから、焦らないでお願いします。」
インカムから杉山さんの指示が聞こえる。

「本田。了解しました。」

俺はペースを落とし、レグザスのテールランプが何とか見える位置で追走する。

レグザスは、どこに向かっているのか、仙台の市街地を南へ北へ、ぐるぐると回っている。
電話を一度切って掛けなおしてくるほど、用心深い男だ。追跡を回避するために、市街地を回って様子を見ているのかもしれない。

「本田さん。対象車両から離れてください、GPSで追跡します。本田さんの行先は、こちらから指示します。」

「本田、了解です。」

俺は、追走を一時中断する。
その後、定期的に行先の指示が入る。

「この武藤ってやつ、何を考えているのかしら。あっちこっち移動して、誰かに追跡されてるのを想定してるわけ?」
アヤメも同じことを考えていた。

今の時点では、レグザスの車体が見えない分、ノエルが心配だ。

「本田さん、マズイことになりました。結城さんのGPSの信号が消えました。何かあったのでなければいいのですが。ここから、彼女の居場所をソナーで探してみます。刑部さんも出来ましたよね?各自追跡してください。」

(ソナー?ってなんだ?ノエルは大丈夫なのか?)

「一宇。ここから私の指示に従って。」

「わかった。」

「次の角、左折。そのまま真っすぐ。スピード上げて。」

「了解!アヤメ。しっかり掴まってろよ。」

俺はアクセルをふかす。FJR1300がスピードを得て、安定して走り出す。
武藤のレグザスは、市街地の旋回をやめ、北に向かって走り出したようだ。

「一宇。早めに指示を出すから、可能な限りスピードを上げて!ノエルが心配。」

いつしか道は、街灯もまばらな田舎道に入る。ここなら思う存分スピードが出せる。
「一宇、T字路右折。そのまままっすぐ。」

アヤメがどうやって道順を支持しているかは、わからない。でもアヤメを信じて進むしかない。

「一宇、もうすぐ着く。減速して。」

もうすぐって、あたりは何もない山の中だ。減速して山道を進む。道の先にうっすら明かりのともったコンクリートの建物があった。

「あそこか?」

「そうよ。ライトを消して進みましょう。」

かなり建物が近づいた。これ以上バイクで進んだら、エンジン音で築かれる可能性がある、ひとまずバイクを木の陰に隠し徒歩で、建物を目指す。

建物はコンクリートの柵で覆われている。建物は病院を思わせる造りだった。
俺たちは、入り口の鉄柵を乗り越え、建物脇にある物置の陰に身を隠す。

「一宇、あれ。」
アヤメの指さす先には、ノエルを乗せたレグザスが止めてある。ノエルがここにいるのは間違いない。ノエルの事を考えるとじっとしていられない衝動に駆られる。

「これから、どうする?」

「もう少しだけ、後続の隊を待ってみる。もし、来なかったら二人で行くしかない。」

アヤメに賛成だ。二人で今すぐに行くと言われても俺はついて行っただろう。

倉庫の扉に見覚えのあるマークが描かれてあった。
「アヤメこれ。」

そこに書かれていたマークは、間違いない。コスモスグループのマークだった。こんな山の中に、コスモスグループの施設が残っていたなんて、しかも、その施設には人影があり、現在も稼働している。コスモスグループの事件はまだ終わっていなかったのか?それとも別な団体がこの施設を二次利用しているのか、、、。斎藤さんの彼女探しがとんでもないところに繋がった。

アヤメもそう考えているのだろう。持っていたスマホから、ヴァンパイアポリスに連絡を取り、現在地の報告と、赤目と常盤さんの出動を要請した。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。 最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。 本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。 第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。 どうぞ、お楽しみください。

『愛が揺れるお嬢さん妻』- かわいいひと - 〇  

設楽理沙
ライト文芸
♡~好きになった人はクールビューティーなお医者様~♡ やさしくなくて、そっけなくて。なのに時々やさしくて♡ ――――― まただ、胸が締め付けられるような・・ そうか、この気持ちは恋しいってことなんだ ――――― ヤブ医者で不愛想なアイッは年下のクールビューティー。 絶対仲良くなんてなれないって思っていたのに、 遠く遠く、限りなく遠い人だったのに、 わたしにだけ意地悪で・・なのに、 気がつけば、一番近くにいたYO。 幸せあふれる瞬間・・いつもそばで感じていたい           ◇ ◇ ◇ ◇ 💛画像はAI生成画像 自作

処理中です...