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過去からの手紙 ②
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母の指摘は正しかった。俺は涙が乾くまで、仏間にとどまり父の遺影をぼんやりと眺めた。遺影の父は優しい顔をしている。息子の俺が言うのもなんだが、結構ハンサムだと思う。
俺がリビングに戻ると、母がお茶とケーキを準備していた。
ケーキの箱の脇に小さな古い箱が置いてある。
「それで?」
「それでって?」
「あんたの父さんから、手紙を読んだ後、一宇が欲しいって言ったらこれを渡すように言われたから。」
そう言って古い箱を俺に渡す。
「お父さん。なんでも話してくれたけど、この箱については説明がなかったのよね。」
俺は黙って箱を受け取る。
箱を開けると中から銀色のチェーンに、赤い石のついたペンダントが出てくる。
「え。なにそれ?ペンダント?なんか少女趣味ね。チェーンも短いし。ちょっと待ってなさい。」
母は奥の部屋に行って、黒い革のひもを持ってきた。そしてチェーンから赤い石のペンダントトップを外し、革ひもに付け替える。
「このペンダントのデザイン自体はシンプルだから、これなら男の子が着けてもおかしくないでしょ。」
「俺嫌だよ。アクセサリーなんて。」
「何言ってんの。お父さんの形見でしょ。」
箱の中には、他に小さな紙切れが入っていて中には住所が書いてある。父が訪ねろって言ってたのはここか。
俺は紙切れを母に見つからないようにペンダントと一緒にポケットにしまう。
「なんだ、仕舞っちゃったの?親不孝な息子ね。着けてみたらいいのに。お母さん、仕事の前に夕飯の買い物に行って来るけど、あんた今夜、何食べたい?」
「夕飯は、なんでもいいよ。あとで、結城の見舞いに行こうと思うんだけど、面会時間は何時から何時まで?」
「なんでもいいよって何よ。つまんない子。面会時間は、夕方6時から午前0時までよ。じゃ、行ってくるね。」
母が出かけて行くと家は静かになった。母の家といっても、自分の家じゃない居心地の悪さがある。
俺は茶の間に寝ころび、ポケットからペンダントを出す。母の言う通りこの革紐を付けたお陰で男の俺がしてもおかしくないと思う。
直ぐに外すつもりだった。俺は、ペンダントの革紐を首にかけた。
どこかに鏡あったっけ?俺は鏡を見るために洗面所に向かおうと立ち上がった。
体がふわっと浮くような浮遊感。次の瞬間、俺は茶の間に倒れこみ茶の間の天井の板の木目を眺めていた。
意識が遠くなる。なんだよ。睡眠不足のせいか、、、、。眠い、、。
「おい。おい。勝也!何ぼーっとしてんだよ。授業終わったぜ。目ぇ覚ませよ。」
誰かに背中を叩かれ俺は起こされる。
「勝也。お前午後の授業、見事に全部寝てただろ。まぁ。俺ら、もうすぐ卒業だし、先生も見て見ぬふりしてたけどな。お前の自慢のリーゼント崩れてっぞ。早く帰ろうぜ。」
だから、勝也って誰だよ。俺は目を開く。そこは学校で、学ランを着た男たちで溢れかえっている。
「へへへ。夕べも遅くまでバイクいじってて。」
(ん?誰がしゃべってんだ?それに、この声には聞き覚えがある。勝也って名前にも、、、。)
俺は起き出して教室内に備え付けの鏡に向かう。でも、体を動かしているのは、俺じゃない。勝也と呼ばれている男だ。俺は、勝也の中に意識だけ居候している。そんな感じだ。
「あ、本当だ、せっかくセットしたのに。崩れちゃってんじゃん。」
男が、鏡の前で、変な形の櫛を出して、変な形に固めた髪を直し始める。
(だっせー。こんな髪型で良く外歩けるな。この勝也ってやつ。ん?この顔、この頬の大きなホクロ、、、。それにこの声、、、まさか。爺ちゃんか?そう言えば、じいちゃん、勝也って名前だよな。)
一体何が起こっているか分からず混乱している俺を憑依させたまま、祖父は友達と学校を後にする。
「勝也。お前、アルバイトしてたバイク屋にそのまま就職すんだべ。」
「おうよ。俺はバイクを愛しちゃってるからねぇ。」
「女にもてない言い訳にバイクを使うなよ、」
(この頃にはすでにバイクLOVEだったわけね。爺ちゃん。)
「お前はいいよなぁ。好きな事、仕事にしちゃってさ。」
「でも給料は安いから、これからは、お前らに奢ってもらわないと。」
「ふざけんな。奢らねぇよ。」
(爺ちゃんと友だちは他愛もない話をしながら楽しそうだ。俺はなんでこんなところにいるんだ?俺、お袋の家でおやじの手紙見て、ペンダント貰って、つけたら眠くなったんだよな。じゃ、これは夢か?夢ならそのうち覚めるだろう。)
「俺ら、これから俺んちでファミコンすんだけど、お前どうする?」
「あ、俺いいわ。ちょっとバイク屋に顔出して帰るから。」
「わかった。じゃあ、明日な。」
爺ちゃんと俺は、爺ちゃんのバイト先に向かう。
この道には見覚えがある。
~♪べにやべにやの翁饅頭♪食べればみーんな翁顔♪~創業300年、紅屋の翁饅頭は、創業以来変わらぬ製法で伝統を守り続けております~
ん?べにや?
ここゴールデン商店街じゃん。店舗は若干変わっているが、紅屋の店先には翁饅頭あり〼。の張り紙がしてあった。
「おやっさーん。こんちわーっす。」
爺さんが入って行ったのは「高橋モータース」だった。
「おう。勝也、来たな。残念ながら、今日はお前の仕事はねぇよ。」
「なんだよ、売れねぇバイク屋はこれだからイヤなんだよな。俺が就職したら頼むぜ。」
「悪いな、勝也。」
向こうから若い工員が爺さんに声を掛ける。その顔にも見覚えが、、、。パーツ屋のおやじ!
こんな昔からの付き合いなのかよ。
バイク屋のおじさんが淹れてくれたコーヒを飲み「じゃ、俺、帰るわ。」と言って、爺さんは家路につく。
自宅に帰っても、またバイクだった。昔、爺さんが自分が最初に乗ったバイクは、ヤマハのRZ250の中古だったと話していたことがある。爺さんの母親、つまり俺の曾婆さんらしき女性が、「早くご飯を食べろ!」と部屋の中から怒鳴っている。
その後、風呂に入って爺さんは布団に入った。俺に勉強しろと言ったことがない爺さんだったが、自分もしてなかったんだな、と妙に納得する。それにしても長い夢だ。俺も眠くなった。明日起きたら、俺はお袋の家で、変な夢を見たって笑いながら母ちゃんに話すんだろうな。
そんなことを考えながら眠りに落ちる。
俺がリビングに戻ると、母がお茶とケーキを準備していた。
ケーキの箱の脇に小さな古い箱が置いてある。
「それで?」
「それでって?」
「あんたの父さんから、手紙を読んだ後、一宇が欲しいって言ったらこれを渡すように言われたから。」
そう言って古い箱を俺に渡す。
「お父さん。なんでも話してくれたけど、この箱については説明がなかったのよね。」
俺は黙って箱を受け取る。
箱を開けると中から銀色のチェーンに、赤い石のついたペンダントが出てくる。
「え。なにそれ?ペンダント?なんか少女趣味ね。チェーンも短いし。ちょっと待ってなさい。」
母は奥の部屋に行って、黒い革のひもを持ってきた。そしてチェーンから赤い石のペンダントトップを外し、革ひもに付け替える。
「このペンダントのデザイン自体はシンプルだから、これなら男の子が着けてもおかしくないでしょ。」
「俺嫌だよ。アクセサリーなんて。」
「何言ってんの。お父さんの形見でしょ。」
箱の中には、他に小さな紙切れが入っていて中には住所が書いてある。父が訪ねろって言ってたのはここか。
俺は紙切れを母に見つからないようにペンダントと一緒にポケットにしまう。
「なんだ、仕舞っちゃったの?親不孝な息子ね。着けてみたらいいのに。お母さん、仕事の前に夕飯の買い物に行って来るけど、あんた今夜、何食べたい?」
「夕飯は、なんでもいいよ。あとで、結城の見舞いに行こうと思うんだけど、面会時間は何時から何時まで?」
「なんでもいいよって何よ。つまんない子。面会時間は、夕方6時から午前0時までよ。じゃ、行ってくるね。」
母が出かけて行くと家は静かになった。母の家といっても、自分の家じゃない居心地の悪さがある。
俺は茶の間に寝ころび、ポケットからペンダントを出す。母の言う通りこの革紐を付けたお陰で男の俺がしてもおかしくないと思う。
直ぐに外すつもりだった。俺は、ペンダントの革紐を首にかけた。
どこかに鏡あったっけ?俺は鏡を見るために洗面所に向かおうと立ち上がった。
体がふわっと浮くような浮遊感。次の瞬間、俺は茶の間に倒れこみ茶の間の天井の板の木目を眺めていた。
意識が遠くなる。なんだよ。睡眠不足のせいか、、、、。眠い、、。
「おい。おい。勝也!何ぼーっとしてんだよ。授業終わったぜ。目ぇ覚ませよ。」
誰かに背中を叩かれ俺は起こされる。
「勝也。お前午後の授業、見事に全部寝てただろ。まぁ。俺ら、もうすぐ卒業だし、先生も見て見ぬふりしてたけどな。お前の自慢のリーゼント崩れてっぞ。早く帰ろうぜ。」
だから、勝也って誰だよ。俺は目を開く。そこは学校で、学ランを着た男たちで溢れかえっている。
「へへへ。夕べも遅くまでバイクいじってて。」
(ん?誰がしゃべってんだ?それに、この声には聞き覚えがある。勝也って名前にも、、、。)
俺は起き出して教室内に備え付けの鏡に向かう。でも、体を動かしているのは、俺じゃない。勝也と呼ばれている男だ。俺は、勝也の中に意識だけ居候している。そんな感じだ。
「あ、本当だ、せっかくセットしたのに。崩れちゃってんじゃん。」
男が、鏡の前で、変な形の櫛を出して、変な形に固めた髪を直し始める。
(だっせー。こんな髪型で良く外歩けるな。この勝也ってやつ。ん?この顔、この頬の大きなホクロ、、、。それにこの声、、、まさか。爺ちゃんか?そう言えば、じいちゃん、勝也って名前だよな。)
一体何が起こっているか分からず混乱している俺を憑依させたまま、祖父は友達と学校を後にする。
「勝也。お前、アルバイトしてたバイク屋にそのまま就職すんだべ。」
「おうよ。俺はバイクを愛しちゃってるからねぇ。」
「女にもてない言い訳にバイクを使うなよ、」
(この頃にはすでにバイクLOVEだったわけね。爺ちゃん。)
「お前はいいよなぁ。好きな事、仕事にしちゃってさ。」
「でも給料は安いから、これからは、お前らに奢ってもらわないと。」
「ふざけんな。奢らねぇよ。」
(爺ちゃんと友だちは他愛もない話をしながら楽しそうだ。俺はなんでこんなところにいるんだ?俺、お袋の家でおやじの手紙見て、ペンダント貰って、つけたら眠くなったんだよな。じゃ、これは夢か?夢ならそのうち覚めるだろう。)
「俺ら、これから俺んちでファミコンすんだけど、お前どうする?」
「あ、俺いいわ。ちょっとバイク屋に顔出して帰るから。」
「わかった。じゃあ、明日な。」
爺ちゃんと俺は、爺ちゃんのバイト先に向かう。
この道には見覚えがある。
~♪べにやべにやの翁饅頭♪食べればみーんな翁顔♪~創業300年、紅屋の翁饅頭は、創業以来変わらぬ製法で伝統を守り続けております~
ん?べにや?
ここゴールデン商店街じゃん。店舗は若干変わっているが、紅屋の店先には翁饅頭あり〼。の張り紙がしてあった。
「おやっさーん。こんちわーっす。」
爺さんが入って行ったのは「高橋モータース」だった。
「おう。勝也、来たな。残念ながら、今日はお前の仕事はねぇよ。」
「なんだよ、売れねぇバイク屋はこれだからイヤなんだよな。俺が就職したら頼むぜ。」
「悪いな、勝也。」
向こうから若い工員が爺さんに声を掛ける。その顔にも見覚えが、、、。パーツ屋のおやじ!
こんな昔からの付き合いなのかよ。
バイク屋のおじさんが淹れてくれたコーヒを飲み「じゃ、俺、帰るわ。」と言って、爺さんは家路につく。
自宅に帰っても、またバイクだった。昔、爺さんが自分が最初に乗ったバイクは、ヤマハのRZ250の中古だったと話していたことがある。爺さんの母親、つまり俺の曾婆さんらしき女性が、「早くご飯を食べろ!」と部屋の中から怒鳴っている。
その後、風呂に入って爺さんは布団に入った。俺に勉強しろと言ったことがない爺さんだったが、自分もしてなかったんだな、と妙に納得する。それにしても長い夢だ。俺も眠くなった。明日起きたら、俺はお袋の家で、変な夢を見たって笑いながら母ちゃんに話すんだろうな。
そんなことを考えながら眠りに落ちる。
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