眷属のススメ

解明できない闇

俺が仕事を休んでいた2週間。司さんからもたらされた事実により、捜査が驚くほど進展していた。

中でも驚かされたのは、あの病院のような施設は、人間の赤ちゃんを製造する工場だったことだった。そこで意識のないままに妊娠状態にあったのは、すべて若いヴァンパイアの女性で、騙されてそこに連れてこられていた。

彼女たちを集めていたのは、斎藤さんの彼女だった。斎藤さんの彼女は途中でその事に気が付き、やめようとして武藤に捕まりあそこに監禁されていたらしい。彼女はすっかり自分の罪を認めて、司さんによる裁判を受けている。彼女には5年のコールドスリープが言い渡されたらしい。斎藤さんは、彼女がコールドスリープから覚めたら、結婚しようと彼女を待っている。

ヴァンパイアの女性が妊娠させられていたのは、人間の子供の受精卵だった。
ヴァンパイアの受精が難しいため、彼女たちは、受精した人間の受精卵をヴァンパイアの女性のお腹の中で育てていたことになる。
なぜ、ヴァンパイアが母体に使われたのか、それは、人間の女性はストレスに弱く、栄養補給も難しいためだった。実験的に、人間の女性が母体に使われたこともあったが、母体も子どもも死んでしまい、うまくいかなかったためヴァンパイアの女性が使われるようになった。

生まれた子どもたちは、すぐにヴァンパイアにされ、その後血液を採取されるため、ファームに移送されていた。

これで、コスモスグループで供血動物としてひどい生活を送っていた、子どもたちの素性が明らかにされた。武藤の脳内情報から新たな工場や実験施設がいくつも発見され、俺が眠っている間に解体されていた。

問題は、コスモスグループの施設を利用して誰が何をしようとしていたのかと言うことだ。司さんの話では、関わっていたのは、ここでもやはり「トキオ」と呼ばれる謎の男。

それともう一人、武藤の脳内から新たな人物が浮かび上がって来た。武藤がたった一度、トキオと共にいるその男に会っただけだった。
困ったことに、彼は名前を名乗らず、その容姿だけが記憶の中に残っている。

報告書には、例によって、司画伯の描いた謎の男のイラストが添付されていた。

だが、司さんの絵でもわかるはっきりした特徴がそこにはあった。
そのイラストの男の髪が白髪だったのだ。

イラストには司さんの字で「真っ白な白髪だよ、でも年寄りじゃない。見た目では30代くらいだと思う」と但書きが書かれていた。

白神、、。

俺がアヤメに伝えた白鬼、白神の情報で、白鬼の名前が白神剣護しらかみけんごだと分かった。でも、白神について分かったのはそこまでだった。白神家でも彼の行方について知っている者が誰もいなかった。「あいつが安芸様を殺めたせいで、白神家は長年続けた守人と共に戦う任を解かれました。そのうえ、そんな大罪に手を染めるとは、あいつは白神の面汚しです。」事情を聴きに行った捜査官に白神家の者はそんな苦しい胸の吐露した。

コスモスグループの違法な製剤事業にトキオと白神が関わっているのは間違いなさそうだ。
白神は、闇に隠れ裏から多くの悪事を行っている。白神の行動は常にヴァンパイアポリスの先を行き、決して尻尾を掴まれるようなヘマをしない。

先に、バー・ナイトメアで捕まった白神の手下についても同様だった。
彼らは、司さんの裁判を受ける前に獄中で自死していた。このまま、白神の好き勝手にはさせておけない。そんな焦りとは裏腹に、奴を探し出す手立ては何もなかった。