眷属のススメ

岸 矢聖子(きし やのこ)

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赤目ファミリー ②

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赤目の誕生会当日。黒塗りのハイヤーが俺のボロアパートに迎えに来る。

前日、アヤメから、「一番上等な洋服で来るように」と言われていたので、俺は久々にヤング洋品店の袋からそれっぽい服を見繕って着てみる。若干しわが寄っていたがまぁ、OKだろう。
ハイヤーには、見事にドレスアップしたアヤメが乗っていた。

「ちょっと、しわっぽいけど。まぁ、合格。」
アヤメの俺の服装に対する意見もおおむね俺自身の評価と同じだった。そりゃそうだ。ヤング洋品店のお姉さんの見立てた服に間違いはない。しわっぽいのは、、。俺が袋のまま保管したから、なんだよな、、。

ハイヤーは、市内を抜け山の手に向かって走る。そして、市内を一望できる高級住宅地の中でも一番素晴らしい豪邸の前で止まった。
眼下には仙台市内の夜景が一望できる。

「ほぇ~。すごい豪邸。まるで、ラ〇ホテルみたいだな。」

「しーーっ。間違っても赤目のママンの前でそんなこと言っちゃ駄目よ。」

「あらまぁ。いらっしゃい。アヤメさん。ずいぶんお久しぶりね~。今日はアヤメさんがいらっしゃるってボクちゃんから聞いてたから、おばさん楽しみにしてたのよ。おほほ。」
痩せぎすで、宝石でキラッキラに飾り立てたメガネをかけ、キャバ嬢ばりに髪の毛を盛り立てたおばさんが満面の笑みで、アヤメを迎える。

「あら、こちらはどなた様かしら?」
キラキラの眼鏡の奥の細くつりあがった眼が、宝石に負けないほど光る。

「彼は、私の眷属で本田一宇と申します。」

「本田です、よろし、、、く、、。」

俺の挨拶が済む前にキツネ目のご婦人はアヤメの腕をとって行ってしまった。

「本田さん!」

「人ごみをかき分けて常盤さんが現れた、」

「うわぁ。本田さん。今日のお洋服素敵です!」
常盤さんのこういう心遣いが、いつも俺のプライドを回復させてくれる。
そこで、気が付いたが。今日の常盤さんはピンク色のシフォンのワンピースに赤いレースのカーディガンを着ている。

「常盤さんも、ワンピースがすごく可愛いよ。」

「お世辞でも、嬉しいです。」
常盤さんが顔を赤くする。うーん、常盤さんのこういうとこが可愛いんだよなぁ。

「眷属隊の皆さん、あちらでお待ちですよ。」
常盤さんに連れられてだだっ広い庭を進むと、立食のスペースがあった。

「おう。本田君。来たね。」
山田さんが、さらに山盛りにした食べ物を口に運びながら挨拶する。

「すごいなぁ。赤目君の家は。どんだけ金持ちなんだよ。」

「本当ですよね。赤目ん家っていったい何の仕事をやってるんだろう?」

「色々手広く商売している様だよ。もともとはヴァンパイア向けの漢方医の家だったらしいよ。そこから漢方薬の製剤会社を興して、そこで開発されたヴァンパイア向けの血液入りの栄養ドリンクが大ヒット。それで財を成したらしいけど、本田君もCM見たことない?チオナミンVドリンクって。」

「えええ。知ってますよぉ。有名じゃないですか。元気ぃ!一発ぅ!ってCMですよね???そんな家のお坊ちゃまなら、わざわざヴァンパイアポリスで働かなくっても、、、。」

「はははは。そうか。本田君は知らないんだったね。赤目君がヴァンパイアポリスに入ったのは、アヤメさん狙いなんだよ。」

「へ?アヤメ?なんでアヤメがそこに出てくるんですか?」

「もともと、赤目君とアヤメさんは幼馴染なんだよ。幼稚園からずっと一緒。赤目君がアヤメさんを好きになっちゃったんだよね。そこに、赤目君のママが登場。本田君、人ってさお金が手に入ると次に何が欲しくなるか知ってるかい?」

「俺に金持ちの考えなんてわかりませんよ。生まれてこの方必要以上のお金なんか持ったことないですもん。」

「ははは。そうか、お金が手に入ると欲しくなるのはステイタスさ。そこで、赤目君と赤目君のお母さんの利害が一致したってわけ。」

「なんで、アヤメがステイタスになるんですか?」

「え?本田君、知らないで刑部家の眷属やってたの?はははは。君らしいなぁ。ヴァンパイア族にはいくつかの名家があってね。ヴァンパイア12氏族だったかな?。その12氏族がヴァンパイアの頂点を収めているんだよ。本田君も知ってるだろ、秦首相。その秦家もそうだよ。俺も全部は分からないけど、その一つが刑部なんだよ。12氏族について知りたかったら、ヴァンパイアの書籍が置いてある図書館に行けば資料があると思うよ。それで、赤目のお母さんは、刑部家と赤目家が結婚なんてことになったらものすごいステイタスを手に入れることが出来るって訳さ。」

「へぇ~。そんなもんなんですか。」

「そんなもんだよ。赤目のお母さんは、その財力を使って、ヴァンパイアポリス設立時に多額の寄付をして外部の理事と言う肩書を手に入れたんだ、そして、息子をアヤメさんと同じ部署にねじ込んだんだよ。赤目君のお母さんはやり手だよ、一宇君。うかうかしてると赤目君にアヤメさんを取られちゃうぞ。」

「取られるも何も、俺とアヤメはそう言う関係じゃないですから。」

「ふーん。君がいいならいいけどね。」

その時、生バンドの演奏が、ムード音楽から、激しいロックに変わる。
バンドコーナーを見ると演奏者は稲葉だった、、、。稲葉、結構うまいじゃん。バンドコーナーに行くと、ノエルが近づいてきた。

「慎吾ってマジあほだわ~。」

「え、なんで?俺初めて稲葉の演奏聞いたけど、結構うまいじゃん。」

「違うよ一宇。慎吾が上手なのはノエルも知ってるよ。もともとノエルは慎吾のバンドの追っかけだったんだから。」

「へぇ~。そうだったんだ、」

「ノエルがアホッって言ったのは、慎吾ったら、赤目ん家のおばはんに頼まれて、赤目とアヤメをくっつける片棒を担ごうとしてることだよ。」

「え?それって、、、。」

「もし、赤目とアヤメをくっつけることに成功したら、メジャーデビューの資金出すって言われてその気になってるんだよ。しかも、チオナミンVドリンクのCMでもタイアップしてやるなんて言われてさ、有頂天なんだから。」

いやはや。赤目の母がやり手のは本当の事のようだ。

「慎吾は実力でメジャーに行けるってノエルは信じてるんだよね。若いもんが楽しちゃいかんよ。」

ノエルが珍しくまともな事を言う。

「でも、大丈夫。ノエルは、一宇押しだからね!万が一アヤメにフラれても一宇には、ノエルがいるから。」

「だから、俺とアヤメはそんな関係じゃないってば、、。」

今気が付いた。ここには、杉山さんと灰野の姿がない。

「ところで、杉山さんと灰野は?」

「あの二人は、たぶんこの家の図書室にいると思うよ、赤目家が金にものを言わせて作った素晴らしい図書室がここにはあるらしいから。あの二人、それが無かったら今日ここには来てないよ。」
ふーん、図書質ね。12氏族関連の本もあるかもしれないな。俺はそんなことを考えながらバンドのコーナーを後にした。
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