眷属のススメ

岸 矢聖子(きし やのこ)

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赤目ファミリー ④

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赤目家の図書室は建物の2階にあるらしい。俺たちは階段で2階に向かう。その時、玄関の扉が開く音がした。

「ああああ。一宇、見つけた!こんなことろにいたのね!」
アヤメが俺を見つけてらせん階段を駆け上がって来た。やっとの思いで、ママンから逃げて来たらしく息が上がっている。

「あら、おじいさま。こんばんは。」
「アヤメちゃん、こんばんは。少し見ない間にきれいなお嬢さんになったね。」

「ありがとうございます。私も、おじいさまにはお会いしたかったんです。」
アヤメよ、その言い方は良くないぞ。

「これから本田君を連れて、図書室に行くんだけど、アヤメちゃんも一緒にどうだい?」

「是非ご一緒させてください。」
俺たちは3人連れ立って、図書室に向かった。

「この家で、唯一話せる人よ。それに、図書室ならあの人たちに見つからなくって済むわね。」
歩きながら、アヤメが俺の耳元で囁いた。
確かに、あの赤目と、ママンが図書室に用があるとは思えない。

図書室の扉を開けると、中は学校の教室くらいの広さがあり、本棚には本がぎっしりと詰まっていた。中には杉山さんと灰野が読書の真っ最中だった。

赤目のおじさんを見つけた杉山さんが静かに近づいてきて、赤目のおじさんに頭を下げる。
「本日は、ご招待ありがとうございます。」

「何か、杉山さんの興味を引くような本がありましたか?仕事柄、ここには植物関係の本が多いんですよ。」
「ありがとうございます。素晴らしい本ばかりで、時間を忘れてしまいました。」

「そうですか。今夜読み切れないものは、お貸ししますから好きなだけ持って行ってください。ここにある本を読むのは私だけです。杉山さんのような人に読んでいただけたら、本も喜ぶでしょう。それと、いつでも、ここにきて本を読んでくださいね。」

杉山さんの顔が喜びに輝く。こんな彼女の顔を見たのは初めてかもしれない。彼女の本好きは本物だ、、、。

俺たちは、図書室の奥にある小さな扉から個室に入る。
「この中にあるよ、本田君。」

おじさんは、そこに備え付けた本棚から1冊の古いアルバムを取り出す。
これですよ、そう言ってページをめくる。
「この中に彼女がいますが、どこにいるかわかりますか?」
そう言って、小学校の集合写真を指さす。

そこには、あどけない笑顔の子供たちが50人ほど写っていた。
「あああ。これですよね。」
俺はその中から、一人の少女を指さす。

「あたりです。彼女はどこにいても目立つ存在でしたからね。簡単だったかな。」

「この女の子、誰なの?」

「俺の祖母の安芸だよ。」

「じゃ、彼女が守人の、、、。」
アヤメは俺より夢中になってその写真を見ているようだった。

「他にもたくさん写っていると思うから、自由に見てください。私は、この図書室にいるお客様に美味しいお茶でも淹れてきますよ。」
そう言って、赤目のおじさんが出て行く。

「これ、どういうことなの?」

「赤目のおじいさまと一宇のおばあさんって知り合いだったの?」

「そうみたいだね。小中学校の同級生だってさ。」

「へぇ~。不思議なご縁ね。」

「それより、あなたが守人の血縁だなんて、赤目の家の人たちに知られたら面倒な事になるわ。」

「そんなもん?」

「うーん。特にママンには知られないほうが良いかもね。彼女なら養子になれって言い出しかねないわよ。」

「そうか、じゃ、おじさんに口止めしておかないと、、、。」

その時、小部屋の扉が開く。赤目のおじさんがお茶を淹れて戻って来たと思ったらそこに立っていたのは、、、。赤目と、赤目のママンだった、、、、。

「アヤメっちぃ。探したよぉ。こんなところで何してるの?しかも、本田なんかと二人っきりで。」

「そうですよ。ここは、家族のプライベートな写真が仕舞ってある部屋ですよ。勝手に入り込んで失礼じゃないですか?」

「ここには、おじさまの案内で来たんです。」
アヤメが反論した。

「さぁ、アヤメさん。パーティーに戻りましょう。あなたは、このパーティーの準主役でもあるんですから。」

「準主役ですって。おばさま何を言ってるか意味が解りませんけど。」

「だって、アヤメさんはボクちゃんの婚約者ですもの、、、。」

「えええええ。アヤメと赤目ってそう言う関係だったのか??」

「勘違いしないでよ。一宇!そんなの幼稚園の時にふざけてした約束でしょ!」

「ひどいよぉ。アヤメっちぃ。僕はあの時も今も本気だよ!」

「そうよ、約束は約束ですから。アヤメさんには是非ともこの赤目家のお嫁さんに来てもらわないと。」

「あああああ。これだからこの家に来たくなかったのよ!」
狭い室内に不穏な空気が流れる。

「だいたい、本田が来てからアヤメっちは変わっちゃったんだよ。眷属はいらないって言ってたのに、どこの馬の骨ともわからない男を眷属にしてさ。」

「あなた、本田さんと言ったかしら?眷属なら身の程をわきまえて行動なさいませ。眷属が主の結婚を邪魔するなんて、あってはならないことです!」

「おれ、そんな邪魔なんて、、、そんな気はないです、、、けど。」

「それなら、今日はお引き取りください。アヤメさんはパーティーが終わるまでいてくださらないとね。」

静かな図書室に不穏な空気が漂う。アヤメと俺はいたたまれない思いで、その場に立ち尽くした。
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