眷属のススメ

最終決戦 ⑤

白神がさらに間合いを詰める。その距離1ｍ。刀の刃先が重なる距離だ。白神の刀が俺の政宗守を跳ね上げる。俺は政宗守を跳ね上げられないように刃を引く。

「それじゃ、全然だめです。まったくなっていません。恐怖で腰が引けてるじゃありませんか。」
そう言って、白神がすごい速さで、何度も切り込んできた。
俺は、奴の刀のかわすので精いっぱいだ。

「あなたは殺しませんよ。生きていればいいんです。」
剣をかわし切れずに、俺の身体には小さな傷が無数につけられていく。

「ちょろちょろ動き回るから、無駄な怪我をするんですよ、自分と私の力の差をもう嫌というほどわかっているでしょ？諦めたらどうです？」

「諦めるわけねぇだろ。ふざけるな白神！」
俺も奴のスキを狙って刀を振る。でも、俺の腕前では奴に傷一つつけることは出来なかった。

「あなたともう少し遊んでいたい気もしますが、残念ながら時間切れです。日の出時間迫ってますからね。そろそろ終わりにしましょうか。」

白神の日本刀が俺の足を貫いた。

ぐぅ、、、。

俺は歩みを封じられた。
次に奴は、どこを狙ってくる？考えろ、考えろ。
かろうじて、やられてない方の足を軸にして俺は立ち上がる。
このままやられたら、この後どうなるんだ、、、、日本は、平和に暮らしている人間は、ヴァンパイアは、、、。

これ以上、奴の好きにさせるわけにはいかない、、、。

俺は政宗守を構える。そして、その刃を自分の首にあてた。

白神の顔色が、一瞬で変わる。
そりゃそうか。この為だけに何十年も準備してきたんだからな。

「悪いな、白神。俺にはお前は倒せそうにないわ。でもこれで、お前の計画だけは阻止できる。ばあちゃんもお前の人形にだけはなりたくねぇって言ってるしさ。」

「まて、本田一宇！」
そう叫ぶ、白神の顔に余裕の色は微塵もなかった。
卑怯な手だが、こうするしか道がない。祖母が祖父を命がけで守ったように。俺も俺の愛する者たちの未来を守る！

焦った白神が、ふらふらと不用意に俺に近づく。俺は、奴が俺を止められる位置に来る前に、自分の命を終わりにしなければならない。
刃先を首にあてた政宗守の柄を強く握りしめ、刀を一気に引きぬく。

目の前に鮮血が散る。

それは俺の血ではなかった。白神が政宗守の刃を握りすごい力で俺の首元から引き剝している。

このままでは、白神につかまって、奴の思い通りになってしまう。俺も自分の手に力を込め刃先を自分に引き戻した。
白神の顔が、俺の至近距離に迫った。
俺は白神の目を睨んだ。白神も俺の目を真っすぐ見ている。

白神の手に力が入り俺は政宗守を奪われる。
ここまでか、、、。俺は膝をつく。

「顔を上げなさい。本田一宇。もう一度、、、、貴方の目を見せてくれませんかね。」

俺は顔を上げ白神を見た。
「本当は、安芸様を殺めた時にこうするべきだったんです。」

白神、、何を言ってるんだ？お前どうしてそんなに血が流れて、、、。
白神の胸に政宗守が刺さっていた。
白神がその場に倒れる。俺は急いで白神に走り寄った。

「安芸様が、私の人形になりたくないことなど、言われなくても知っていましたよ。私はそんな自由で強い安芸様が好きだったんですから。お願いがあります、、。叶えられるはずのない願いだとはわかっています。私は裏切り者ですから、、。でも、良かったら私も安芸様と同じ、あの社に葬ってもらえませんか、、、。貴方の瞳は嫌なくらい安芸様にそっくりですよ。本、、田、、いち、、う。」

それで会話は終わった。白神はもう動かない。
俺は奴の身体をその場に置き、異次元の扉を開く。

中から、ゆずが飛び出してくる。続いてアヤメも出て来た。
「お館様。剣護を倒したのですね！」

「違うよ。俺はただ一方的にやられただけ。」
俺は正直に事実を二人に話した。

アヤメが何も話さない。

「どうした？アヤメ。まだ瘴気にあてられて具合が悪いのか？」

「何を言っておられるのですかお館様！アレでございますよ、俺が愛する女を守る！アヤメ～愛してる～！」
ゆずがニヤニヤしながら、さっき言った俺の言葉に尾ひれと背ひれをつけてマネをする。

「ゆず！」

「ゆず！」
アヤメは赤い顔をしながら、ゆずにゲンコツまでした。

俺は再び異次元の扉を開く。

「何をするの一宇？」
アヤメがようやく口を開いた。

「白神このままにしておいたら、灰になって消えちまうだろ。もうすぐ夜も明けるしさ。」
俺は、白神を異次元の中に入れる。
ゆずもそれを手伝ってくれたが、何も言わなかった。

「太陽が昇る前に、早く寺に戻ろう。」
俺たち3人は急いで寺に戻った。

寺に人影はない。白神は早くしないとみんなが戻ってくる可能性があると言っていた。彼らもいずれここに戻ってくる。疲れ切った俺たちは、女子部屋で3人川の字になって眠った。
脅威が去った安堵感から3人ともあっという間に眠りに落ちた。