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演習時の状態を分析
しおりを挟む「では、お荷物をお預かりいたします」
「はい、よろしくお願いします」
「よろしくなの!」
「ふふふ。はい、畏まりました……」
執事さん達が去った後、別の人……メイドさんが二人ほど進み出て、俺とユノの荷物を持ってくれた。
荷物を預ける際、なんとなく癖で頭を下げる俺がおかしかったのか、それとも元気なユノが微笑ましかったのか、朗らかな笑みを漏らして、メイドさん二人が部屋へ荷物を持って行ってくれる。
夕食まで少し間がありそうだし、少し疲れたから俺も部屋に行って休もうかな……と階段へ足を向けようとして、止まる。
「そういえば、モニカさん達は戻って来ていますか?」
俺が訓練をしている間、調査を行っているモニカさん達がどうしているのか気になったので、近くにいた別の使用人さんに聞いてみた。
「いえ、本日はまだ戻って来ていません」
「そうですか、わかりました。ありがとうございます」
お礼を言って、今度こそ部屋へと戻るために階段へ。
ユノはまだまだ元気だからか、使用人さん達と遊ぼうと近付いていたので、それを止めて一緒に部屋へ向かう。
……昨日も夕食前に遊んでいたし、歓迎はされているみたいだけど、連日はさすがに使用人さん達も困るだろうからね。
夕食前だし、俺達が戻って来たし、これからモニカさん達が戻って来ると考えたら、忙しいだろうし、迷惑はかけちゃいけない。
「むぅ、遊びたかったの」
「ユノは、訓練の時に散々動いただろ? 迷惑がかかるから、せめて忙しい時は止めなさい」
部屋に戻り、頬を膨らませて拗ねているユノに言い聞かせる。
次善の一手を教える時に、体を動かしていたようだから十分だろうに……演習はほとんど動いていなかったのもあって、ユノはまだ動き足りないのかもしれないけど。
「それでしたら、夕食後はいかがでしょうか? ユノ様と遊ぶのを、楽しみにしている者もおりますよ?」
俺達の荷物を運んでくれたメイドさん、まだ部屋にいたんだけど、俺達の話を聞いていたようだ。
「迷惑にならないなら、お願いしてもいいですか?」
「はい。暇を持て余していそうな者に、声をかけておきます」
暇を持て余すような人って、この大きな宿を考えたら、客数自体は多くなくてもそんな人いそうにないのに……。
もしかしたら、メイドさんの気遣いなのかもね。
ありがたく、受け取っておこう。
それなりの年齢のメイドさん、確かさっきこの宿ではメイド長を務めていると言っていたから、こういう気遣いも慣れたものなんだろうね。
「わーい、夕食の後に遊べるのー!」
「ユノ、遊べるからってやり過ぎないようにな? この人達だって、仕事があるんだし」
「わかっているの。私はリクと違ってやりすぎないの」
俺とユノでは、やり過ぎのベクトルが違い過ぎるんだけど……一応、ユノの主張は信じる事にしよう。
怪我をする事はほとんどないと思うけど、ユノが遊びに夢中になったら、付き合う人は明日以降も疲労困憊になってしまうかもしれないし。
「そうだ、皆が戻って来る前に、お風呂に入っておいた方がいいんじゃないか、ユノ? その方が、夕食も美味しく食べられるだろう?」
夕食までもう少し時間がありそうだし、訓練をしたり、演習では穴を掘って中に入ったりもしたので、ユノは服も髪も結構汚れている。
遊びたいようで、ソファーに座っていても足をバタバタさせているから、ちょうどいい。
「んー、わかった。綺麗にして来るの! リクはどうするの?」
「俺は、もう少し休んでおくよ。夕食後になるだろうけど、エルサが戻って来たら一緒に入って洗わないといけないから」
「わかったの。それじゃ、一緒に行くのー!」
「え、私ですか?」
「うん。誰かと一緒に入るのは楽しいの!」
頷いて、ピョンとソファーから飛んで立ち上がったユノ。
俺も結構汚れてはいるんだけど、お風呂好きのエルサが戻ってきたら、一緒に入る事になるだろうし、また後でだ……ユノと一緒に入るわけにもいかないしな。
頷いたユノは、メイド長さんの手を引っ張って一緒に入ろうとせがむ。
お風呂場で遊ぶつもりだな……?
俺のお世話を……と少し渋るメイド長さんには、俺からもお願いしてユノと一緒にお風呂へ付き合ってもらい、代わりにユノの部屋に荷物を持って行っていたメイドさんが来た。
メイド長さんと部屋を出て行くユノは、なんだか親子みたいだけど……とにかく、お風呂ではしゃぎ過ぎないようにだけは注意しておいた。
多分、大丈夫だろうと思う、メイド長さん、子供の扱いには慣れていそうだったし。
「さて、俺は少し休んでおこうかな。体はそんなに疲れていないけど、今日は結構動いたし」
模擬戦、演習と休憩を挟んだとはいえ、盛りだくさんの内容だったからなぁ。
ベッドに腰かけ、そのまま後ろに倒れる。
足はベッドに乗っていないけど、背中は柔らかいベッドが受け止めてくれる。
「はぁ……それにしても、あの感覚はなんだったんだろう。ユノはバーサーカーとか言っていたけど、あながち間違いじゃない気もするんだよね」
あの時は否定っぽい反応をしたけど、戦闘に集中するあまり加減を忘れるなんて。
それだけじゃなく、かかって来る兵士さん達に対処しているだけだと思っていたら、自分から向かって行っていたなんて。
「そういえば、ルジナウムでも似たような感覚になったっけ……」
あの時は確か、倒しても倒しても魔物が減らない感覚になって、無駄な動きをして体力や魔力を消耗しないように、最小限の動きで効率的に戦おうとした……んだっけ?
自分の事なのに、しかも戦っている時の事は結構覚えているんだけど、どういう風に考えたかとかまでは覚えていないような。
「……ユノが割り込まなかったら、正直危なかったよね。そもそも、割り込んだユノもよくわかってなかったし」
あのままやっていたら、兵士さん達を全て殲滅するまで動き続けたんじゃないか? という考えに捕らわれベッドに沈ませている体が少しだけ震える。
木剣だった事もあって、致命傷にまで至っている人はいなかったし、一撃で倒す事を考えていたから止めを刺す……とかまではいかなかったのが幸いした。
それでも、相当な兵士さんが大きな怪我をしたからね……演習とはいえ、兵士さん達は全力だったうえ、怪我を跡形もなく治療したからシュットラウルさんも笑っていたけど。
「自分が自分じゃなくなる感覚……いや、ちょっと違うか。自分だけになる感覚というか……」
バーサーカーか……狂戦士とも言われ、敵味方構わずただひたすら戦い続けるだけの戦士、というイメージだ。
「もしあの時、近くに味方がいたら。それが、ユノではなくモニカさん達だったら……」
自分では戦いに最適化した思考、というだけで本当に敵味方区別を付けずに戦っていた意識はないけど、もしもを考えると怖い。
ユノだから受け止められた。
モニカさん達だったらどうなっていただろう? 逃げてくれればいいんだけど……いや、もしかしたらそれすらも追いかけて攻撃するのか?
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