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魔法鎧を身に付ける候補者

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「ここにいるのが私ではなく、ヴェンツェル様なら多少はなんとかなったのかもしれませんが……」
「ヴェンツェルさん?」

 シュットラウルさんが、残り一体のヒュドラーの足止めをどうするか頭を悩ませている中、マルクスさんが悔しそうにしながら、ヴェンツェルさんの名前を出す。

 思わず聞き返してみると、ヴェンツェルさんなら単独とは言わずとも、精鋭を率いてある程度の足止めができる可能性があっただろうとの事だ。
 それも、被害を最小限に抑えたうえで。
 それというのも、ヴェンツェルさんは次善の一手や訓練などで今では、Sランク相当の実力に近いのではとの見方があるそうだ。
 俺がいない間の王城で、エアラハールさんとの模擬戦をしたりしていて、それなりに高い勝率なのも理由の一つ。

 まぁ、エアラハールさんは引退して長いので、衰えもあるだろうけど……以前は実力だけはSランク相当と言われていた人物。
 その人相手に、高めの勝率をおさめている時点でSランクに迫るのではないかと。
 それこそ、エアラハールさんとヴェンツェルさんがいて、後方から兵士さんの援護があればヒュドラーの足止めはできそうだと思った。
 ちなみにマルクスさんが悔しそうだったのは、自分がヴェンツェルさんに匹敵する程の実力ではなく、それでもここにいるからだという理由だったらしい。
 そんなに悲観しなくてもいいと思うんだけどね。

「まぁ、いない人物の事を望んで話していても、今は仕方ないのですけど……」

 と言って締めくくったマルクスさん。

「大丈夫ですよ、マルクスさん。ヴェンツェルさんがいなくても、ヒュドラーの残り一体を足止めする方法はあります」
「リク殿には、まだ新しい考えがあるのか……?」
「……本当に、リク様には驚かされます」

 まぁ、新しい考えというか、ユノとロジーナの事を提案する前に考えていた事なんだけどね。

「本当は、他の魔物と戦うように考えていたんですけど……魔法鎧、使えませんか?」
「む、成る程! あの鎧であれば、ヒュドラーの魔法もある程度耐えられる!」
「その魔法鎧というのがどのような物か、私は見ておりませんが……先程のギルドマスターの方々の評価であればあるいは……」
「確か、魔法鎧は全部で三つあるんですよね?」
「うむ、そうだな。三つもあれば……実力者が身に付ければ、ヒュドラーの足止めもなんとかなるかもしれん」

 キマイラなどの、Aランクの魔物と同等くらいの評価をされた魔法鎧が三つ……三人いればなんとかなると考えた。
 もちろん、それだけでなく後方から多少なりとも援護は必要だろうけど。
 さすがにこちらは、任せっきりにさせられない。

「こちらは討伐を考えるのではなく、完全に足止めだけで十分でしょう。ユノとロジーナが一体を相手にしている間に、俺が一体をなんとか倒す。そして……」
「魔法鎧を身に付けた三人で、足止めしていたヒュドラーをリク様が、というわけですね」
「ならば、戦える実力者が必要だな。うむ、私が身に付けようではないか!」

 俺とマルクスさんが確認をするように、二人で言葉を口に出す。
 それを見ていたシュットラウルさん、うんうんと頷きながらとんでもない事を言い出した。
 ワイバーンをボウリングの球にした時もそうだった……というか、魔法鎧を身に付けて魔物達に突撃したりもしたけど、どうしてそう前に出たがるのか。
 ヴェンツェルさんといい、この国の自らを鍛えるのが好きな人達は、皆戦闘狂かな?

「いやいやいや、シュットラウルさんは侯爵軍の指揮っていう、大事な役目がありますから!」
「侯爵様、それはいけません!」

 などなど、俺を始め皆から否定されるシュットラウルさん。

「む、うむぅ……」

 唸りながら少しだけ身を縮めて、渋々自分が戦うのを諦めてくれた。
 特に一緒に魔法鎧で戦った大隊長さんの、必死の反対がきいたのかもしれない。
 ちなみにシュットラウルさん、自分が魔法鎧を身に付けて残り二つには、アマリーラさんとリネルトさん、他に大隊長さんとマルクスさんを候補に考えていたらしい。
 皆実力者なんだろうけど、王軍のマルクスさんもサクッと候補に入れるあたり、なんだかなと思わなくもない。

「でもそうか……アマリーラさんやリネルトさんに、お願いするのもありなのか」

 マルクスさんは王軍の指揮があるから、当然駄目だとして……アマリーラさんとリネルトさんの二人なら、実力的には申し分ないし魔法鎧を身に付けて、ヒュドラーの足止めもしてくれるかもしれない。
 当然ながら、本人達に聞く以外にもシュットラウルさんに許可を取る必要はあるけど。
 なんか、アマリーラさんが特にそうで俺から色々頼んでしまっているけど、本来はシュットラウルさん直属の部下なんだし。

「む? 私は駄目でも、あの二人はいいのかリク殿?」
「いや、シュットラウルさんは指揮官ですから、前線で戦っちゃ駄目でしょう」

 少し拗ねたような口調のシュットラウルさん。
 ほとんど冗談……だと思いたいけど、シュットラウルさんは侯爵様でセンテを含めたここら一帯の領主貴族。
 いわば、総大将みたいなものだから、一番危険な前線に出てもしもの事があっちゃいけない。
 そりゃ、時と場合によっては総大将なり指揮官なりが、前に出なきゃいけない事っていうのもあるだろうけど、今は確実にそれじゃない。

「リクさんは、どなたか心当たりがるのですか?」

 苦笑しながら、いい大人が口を尖らせているのを見ていると、ヤンさんから質問された。
 シュットラウルさんはともかくとして、その質問にベリエスさんやマルクスさん、大隊長さん達の注目が集まった。
 決定じゃないけど、一応俺の中でも候補は考えてある。

「えっと、モニカさん達が承諾してくれたら、それもありかなって考えていました。リネルトさんに呼んで来てもらうよう、頼みましたし。ちょうど三人ですから」
「あぁ、成る程。実力という意味では、他より飛び抜けている……とまでは言えませんが、それでも確実に力を付けて来ていますからね。この戦いで何度も見ていますが、経験豊富な冒険者と比べても見劣りはしません」
「王都で、兵士さん達や俺と一緒によく訓練をしていますからね。三人、特にモニカさんとソフィーが頑張った結果ですよ」

 ヤンさんもセンテでの戦いで、モニカさん達の事を見ていたようだ……まぁ、冒険者をまとめて戦っていたから、当然か。
 モニカさんとソフィーは特に、エアラハールさんからの訓練を頑張っていたし、同行者になったフィネさんの影響もそれなりにあると思う。

「それにあの三人なら、お互いをよく知っていますから……」
「パーティで当たるのですから、お互いを信頼し合っているのは重要ですね」
「そういう事です」

 ユノとロジーナはともかくとして……実力が飛び抜けているから、チームワークとかはこの際関係なさそうだし。
 モニカさん達は三人で戦う事が多かったから、特に演習の時や今回のセンテでの戦いなど。
 だから協力して戦う事に慣れているため、適任かなと考えていた――。


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