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魔法ではない消失の赤い光

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「あれは世界の意思なの。魔力を繋いで世界と事実に干渉し、全てを消滅させる光なの」
「……ユノちゃん……?」

 ふと、後ろで幼く聞き覚えのある声がして、振り返ってみると……そこにはユノちゃんが結界の外を凝視していたわ。
 世界の意思って……どういう事なのか、よくわからないのだけど。
 とにかく、魔法ではないって事は確定なのね。

「リクの結界が、内部と外を完全に隔離しているの。だからこちらに光は見えても、中に入って来ないの。今この中は、隔離された別の世界と言っても過言じゃないの」
「別の世界……だったらもしかして、結界を破ったりするのは……」
「今すぐ、という意味なら止めるの。危険すら感じる間もなく、中にいる全員が一瞬で消滅するの。外にいた凍った魔物達のようになの」
「それじゃあ……」

 リクさんとの繋がりを取り戻すために、これからやろうとしている事は意味がないってわけなの?
 いえ、意味がないどころか、危険に飛び込む以上に自ら消滅するような事に……。

「でも安心するの。ほら……外の光が収まって行っているの。少し待てば世界の意思、繋がっていた魔力が切れて門が閉じるの」
「なら、今から私達がやろうとしている事は、大丈夫なのね?」
「大丈夫という保証はできないの。ただ、このまま放っておくとこの国……最悪の場合は世界から人と魔物がいなくなるの。話は聞いたの。モニカやエルサには私も同意見なの。でもだとしたら、リクは今全てを破壊し尽くし、消滅させる存在になっているの」
「全てを破壊し、消滅させる……そんな」

 それこそ、以前話に聞いた破壊神の所業じゃないのかしら?
 まさか、リクさんが破壊神なんて事、あるわけないし……。

「あのロ……じゃないのだわ。破壊神とリクが同じような存在になったって事なのだわ?」
「わからないの。でも多分違うの。ここまでの事は、破壊神も望んでいなかったはずなの。全てを破壊するにしても、その破壊神すら破壊してしまいかねない力なの。今は赤い光。けれど他にも別の光だったら……」

 首を振ってエルサちゃんに答えるユノちゃんだけど、全てがわかっているわけではない様子ね。
 最初はリクさんの妹、というちょっと信じがたい紹介だったユノちゃんだけれど……だって全然似ていないし。
 ともあれ、リクさんが言うには創造神……つまりこの世界の神という、私達では手の届かない存在のはず。
 でもその創造神様ですら、今の状況が全てわかっているわけではないという。

 別の世界として隔離されている結界の内部だからかしら?
 それとも、リクさんがその想像を越えているからかしら……?

「べ、別の光もあるのだわ?」
「エルサは知らないだろうけど、いくつかあるの。緑だったら植物が繁栄し、とりあえず文明すら飲み込むわ。青だったら一切の存在が動く事を許されない、極寒が世界を包むの。他にもあるけど……そのいくつかの光は世界と繋がり門を開け、空から降り注ぐ。幸いなのか、ちょっとだけ門が開いただけみたいだから、赤い光はセンテ周辺にしか注がれていないみたいなの」
「センテ周辺……それって、間違いなくリクさんがやっている事よね。私達を隔離して、周辺の魔物全てを排除するような……」

 門だとか世界と繋がるだとか、よくわからない事を話すユノちゃんだけど、その中でセンテ周辺にのみほとんど収まった赤い光が降り注いでいると聞いて、そこにリクさんの考えが介在しているのではないかと感じたわ。

「本当にリクが、というのはわからないの。でも、リクの意思で赤い光を呼び出し、リクの意思でセンテ周辺に降り注がせたのかもしれないし、負の感情に支配されたからかもしれないの」
「リクが負の感情に飲み込まれているから、混在していてそれがリクなのかどうかわからないって事なのだわ?」
「そんな風なものなの」

 負の感情と混ざり合ったリクさんの意思が、リクさんとして意識を保っているかどうかはわからないってところかしら。
 よくわからないけど、もしかしたらリクさんが本当にやりたいと思っていた事じゃないのかもしれないわ。
 だって、リクさんだったら魔物を倒すにしても何も残さず消滅させようなんて、考えないと思うから。
 私の知っている、出会ってからずっと見てきたリクさんは、そんな人じゃないわ。

「って、ちょっと待って。今結界の外はさっきの赤い光が降り注いだのよね。センテ周辺とはいえ、それはリクさんにもって事?」
「もちろんなの。リクを中心にしているはずなの。とは言っても、リクから満遍なく広がるわけじゃなくて、目的や意思が介在しているから、センテを包み込むようにその周辺に降り注いでいるの。でもリクにも降り注いでいるのは間違いないの。起点だから……」
「よくわからないけど、リクさんが門だっけ? それを開いたから、リクさんから赤い光を発せられている、と考えていいのよね?」
「リクが発光しているわけじゃないの。そんな愉快な事に放っていないと思うけど……でも、似たような物なの」
「だとしたら……」

 凍った魔物を全て一瞬で消し去った赤い光。
 その光にリクさんも包まれているのだとしたら……もうリクさんは消失してしまった?
 私達を包むような結界で、リクさん自身も包まれていたなら安心ではあるけれど、そうしていたらきっとこの外まで赤い光を降り注がせる事ができない気がするわ。
 何せ隔離するための結界は、エルサちゃんとの繋がりすら途切れさせるくらいなのだから。

「リ、リクさんは、既に消失している可能性もあるって事……なの?」

 それこそ、負の感情と同じように渦巻く意思や魔力などと同化して、体を失って……なんて、漠然とした考えが浮かんだ。

「それはないわ。そうだとしたら、この結界も今はもう解けているはずなの。多少、魔力の残滓で維持できたとしても、長くは続かないの。リクがまだリクとして存在している証拠なの。それからもう一つ……」

 未だ結界にくっ付いているアマリーラさんの横、私やソフィー達の視線を受けているユノちゃんが、リクさんの結界に手の平を触れさせ、外に目を向ける。
 横から見えるその表情は、何か憂いを帯びているように見えたわ。
 ユノちゃんという、幼い女の子としての表情ではないような気がするわね。

「陸男近くにはロジーナがいるはずなのだわ。ロジーナが無事な以上、リクも無事な事は間違いないのだわ。あくまで単なる人間であるロジーナが、何もなく赤い光を浴びて生きていられるわけがないの」
「だったら、だとしたら、何かの方法で耐えている。もしくは避けているってわけよね」

 つまりそれは、リクさんが消失してはいないという事でもある。

「でも、なんでロジーナちゃんが無事だって、ユノちゃんにわかるの? まさか、ここからリクさん達の様子がわかるわけじゃないし……」

 わかっていたら、もっと詳しくリクさんの状態を知っていたはずよ。
 それがわからないのに、ロジーナちゃんが無事だと確定しているかのように話すのは、少し不自然に感じたわね――。


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