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威力増強された攻撃と魔法の複合攻撃
しおりを挟む「撃ち方用意っ!!」
そんな話をしている私達の後ろで、矢を構える人達。
頭上では、エルサちゃんが黒い輪を作り出し、それを徐々に広げていた。
エルサちゃんの可視化された魔力が、全てそこへ注がれているのがわかるわね。
北と南から魔法が撃ち込まれたら、今度はエルサちゃんによる弓矢とミスリルの矢を増幅した攻撃。
中心にいる私達の後ろに、いつでも放てるように待機しており、魔法隊の後エルサちゃんが頭上に展開する輪を通す。
もちろん、その間にもクォンツァイタを持った魔法隊やフィリーナ達も、絶えず魔法を加える手筈になっているわ。
「……私も、まだまだ頑張らないと」
「大丈夫、フィリーナ?」
「疲れた、なんて言っていられる状況じゃないわ。ここで全力を尽くさないと、後でアルネに怒られそうだし。まぁ、カイツはいいけど私は倒れないくらいにしておくは。クォンツァイタもある事だからね」
そう言って、再び弓を持つフィリーナ……すぐにまた、魔法隊での攻撃が再開されるので、そのための集中を始めたようね。
でもカイツさんは倒れてもいいんだ、フィリーナなりの冗談かもしれないけれど。
「だわぁ……! いつでも来いなのだわ!!」
「弓矢隊、ミスリル隊、放てぇ!!」
頭上だからよくわからないけれど、巨大化した輪はおそらく数十人が余裕をもって通れるくらいのように見える。
その輪を作り終えて、エルサちゃんの合図で後方から輪へと向けて放たれる弓矢とミスリルの矢。
ミスリルの矢は、放つというより投げるだけど……まぁ、大きな違いはないか。
「ぶちかますのだわぁ!!」
エルサちゃんの叫びと共に、輪を通過した矢がかろうじて目で追えるかどうか、というとんでもない速度を伴って、改めて射出された。
魔法隊の魔法よりも数は少なく、一度に百で弓矢とミスリスの矢で半々といったところかしら。
けれどそれは強く、フィリーナやカイツさんの放った魔法よりもすさまじい勢いと威力を持って、結界へ向かう。
再び、剣と剣がかち合った時のような音……いえ、振り下ろされた剣を剣が受け止めた時のような音かしら?
大きな違いはないけれど、微かな違いを感じさせる音が次々と私達へと届く。
「手を休めるな! 二射、放てぇ!」
続いて二射目。
音が鳴りやむ事はなく、連続で放たれる矢は輪を通し、結界へと殺到する。
「まだまだ行くわよ……! マルチプル・サイクロンペネトレイター!!」
「なぜ私はここにきてしまったのか……! ストームブラストォ!!」
二射に続いて三射、四射と続く中、フィリーナとカイツさんが再び魔法を放つ。
何度何度も、無数に響く結界へ矢が当たる音、そこへ先程と同じフィリーナ達の魔法。
「全力を注ぎ込め! エルフ二人に負けたとあっては、王国軍兵士の名折れだ!! 放てぇ!!」
「冒険者と胸を張って名乗るためには、あの魔法よりも成果を出せ! 放つのだ!!」
さらに響くは北の魔法隊を束ねる母さんの声と、南の魔法隊を束ねているベリエスさんの声。
二人共無茶を言っているなぁ……クォンツァイタを持ったエルフのフィリーナ達よりもなんて。
でも確かに、北と南でそれぞれ百人単位の人が集まっている魔法隊だから、たった二人のエルフには負けていられないかもしれないわね。
個人としてはともかく……そしてその鼓舞は魔法隊だけでなく、突撃の指示を待つ兵士さん達にも響いたようで、私の所にも熱量のような何かを感じさせるものが届いているような気がした。
今か今かと、突撃の命令が下されるその時待っているのね。
気持ちはわからなくもないわ。
私もそうだし、ソフィーやフィネさんも状況を真剣な目で見つめながら、手に持つ武器を握る力をついつい強めてしまっているもの。
でも今は、逸る気持ちはいざ自分の番になった時に取っておかなくちゃ。
「放てぇ!!……あと二射で、矢が尽きます!!」
「うむ……」
もう何射目か、弓矢とミスリルの矢が放たれていた。
そんな中、号令を出していた兵士からの報告が叫ばれる。
状況を見守っていたシュットラウル様……頭二つ分くらい高い位置で全体を見渡せるように、小さめの櫓の上で重々しく頷くのがわかった。
「次善隊、突撃準備!」
「はっ! 次善隊、突撃準備!! 各自武器を構え!!」
シュットラウル様からの指示を、マルクスさんが復唱。
魔法と矢が織りなす炸裂音、耳障りな剣がぶつかるような音が響く中、私達の前で待機していた次善隊……次善の一手を使うためだけの部隊が、それぞれの武器を改めて握りしめ、いつでも突撃ができるように構えた。
同じく、シュットラウル様がいる櫓の下、マルクスさんも二つの剣を持つ。
片手にはショートソード、もう片方の手には短剣……マインゴーシュと呼ばれる、攻撃を受け止め、受け流すための大きなガードが付いている特殊な剣を握りしめていた。
マルクスさんはこの二つの剣を用いるのね。
以前クレメン子爵領へ一緒に行った際には、持っていなかったように思う……まぁあの時はリクさんがいたし、同行者という位置だったから、必要がなかったのかもしれないけど。
一応武装はしていて、剣は腰から下げてもいたわね。
「マルクス殿、突撃のタイミングは任せる。王軍の兵士が多いからな、マルクス殿の号令の方が良いだろう」
「重要な役目をお任せ下さり、光栄です……」
櫓の上からマルクスさんに声を掛けるシュットラウル様。
二つの剣を握って、ジッと結界を見つめるマルクスさんが少しだけ微笑んだ……次善の一手は先に王軍の人達にユノちゃんが教えていたため、使える人、習熟度の高い人が多かった。
それでなくても、元々の人数も多かったため、次善隊は王軍が七割くらいを占めているのだったかしら。
だから、シュットラウル様もマルクスさんの号令を任せたんだろう。
あと、マルクスさんも次善隊に加わって突撃するので、頃合いは自分で見計らった方がという考えもあったのかもしれないわ。
そんなマルクスさんが見つめる先は、兵士達がいて結界まで視線は届かないけれど、それでも突撃する頃合いを見計らっているようだわ。
もしかしたら五感で感じられる情報で、周囲の状況などを把握しているのかもしれないわね。
「……スゥ……フゥ……次善隊、結界へ向けて突撃ぃ!! 頭上の魔法、そして矢には構うな! そして恐れるな! 絶対に我々には当たらないっ!!」
「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」
目を閉じて深呼吸をするマルクスさん、うるさいくらいに響く魔法と矢が結界にぶつかる音。
一瞬、ほんの一瞬だけ……ほんの少し音が小さくなった瞬間、その間隙を見定めて目を見開き、大きく号令を出した。
そして、次善隊とマルクスさんがそれぞれの武器を掲げ、結界へ向けて突撃を開始。
ここから結界までは、大よそ百歩程度……魔法や矢に十分な威力を乗せ、味方への影響を与えないための距離だけれど、それを駆け抜ける次善隊。
次善隊は、次善の一手の習熟度の高い兵士達を集めた部隊。
次善の一手を使える人の数が多過ぎたので、習熟度の高さで少し選別をした兵士達が、一点突破ではなく広い範囲で結界に攻撃を加える事になっているわ。
エルサちゃん曰く、次善の一手であれば結界に多少なりとも影響を及ぼす事ができるので、全く関係ない 場所でも攻撃を加える事に意味はあるみたい。
まぁ、できれば集中した方がいいから、魔法や矢での攻撃を加えた場所の近くを攻撃するわけだけど――。
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