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モニカの疑問と違和感から確信

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「そ、そんな事をしたらだわ! 魔物だけじゃなく動植物、人も含めて全ての生き物が対象になってしまうのだわ!」
「仕方ないよね、人が魔物まで使っていたんだから。人も魔物と同じでいいんじゃないかな? 本当はモニカさん達だけは隔離結界の中で、安全に過ごしてもらいたかったんだけど……あの中なら大丈夫だし。でも、出てきたんだから仕方ないかな」

 リクさんの言葉に驚いて、叫ぶエルサちゃん。
 私は、背中に冷たいものが流れるのを感じた……いえ、それどころか総毛立つような、全身を恐怖が駆け巡った。
 それと共に、一つの確信を得たわ……確証はまだないけれど。

「……あなた、リクさんじゃないわね?」

 リクさんは絶対にそんな事は言わない。
 魔物に対しては多少容赦ない部分があるけれど、人に対しては優しい人だから。
 初めて人を手にかけた時……不可抗力だったみたいだけど、それでも思い悩んでいた優しいリクさん。
 私だけでなく、自分以外が傷付く事に心を痛めるリクさん。

 センテの負傷者を治療していた数日間、表面上は平気な風を装っていたけれど、とっても辛そうにしていたリクさん。
 多少自己犠牲的な部分はあって、人のために、誰かを助けるために頑張ろうとするリクさん。
 そんなリクさんが、魔物だけでなく人も関係なく力を吸い取って……なんて考えるわけがないわ!
 王都にいる陛下や親しい人達、私やソフィー、父さん母さん達のように、仲間とも言える人達をリクさんは「仕方ない」の一言で済ませてしまうような人じゃ、決してないはずよ!

「何を言っているのかな、モニカさん? どこからどう見ても俺は俺、リクだよ? そうじゃなかったら一体なんだって言うのかな?」

 微笑んで腕を広げるリクさん。
 リクさんじゃない、と思うとそのしぐさすらも空々しく別物のように思えてくるわ。
 確かに見た目は間違いなくリクさんその物なのだけれど。

「いえ、違うわ。リクさんじゃない。リクさんは魔物はともかくとしても、人を全て巻き込もうなんて言わないもの。思わぬ失敗をして、近くにいる私達をヒヤヒヤさせる事はあるけど……でも、実際に危険な目に遭った事は……少ししかないわ」
「モニカ、そこはないと言い切るべきだと思うのだわ。確かにないと言えないけどだわ」

 最後に少しだけ自信なさそうに呟いた私の言葉に、エルサちゃんが溜め息交じりに言った。
 だって、リクさんを騙る相手に対して嘘を言う事なんてできないんだもの、仕方ないじゃない。
 嘘の相手に嘘を吐きつけるのは、悪手だと思うし。

「で、でも! リクさんは失敗をするにしても、周囲にはできる限り配慮をしようとしていたわ。それが、どんな事情や考えだからって、絶対に仕方ないからで関係ない人を巻き込んだりしないもの!」

 確かに魔物をけしかける事で、多くの被害を出した帝国は許せないわ。
 はっきりとはしないけど、状況からほぼやっているのは帝国なのだろうし、許せない相手は間違っていないわね。
 そんな帝国でも、絶対に無関係で悪くない人だっている。
 それこそ、帝国だけでなくこのアテトリア王国の人達だってそうよ。

 私達を含めて、センテの人達を巻き込まないように隔離結界で守るのはともかくとしても、他にも多くの人達がいる。
 それらの人達を全て巻き込むなんて、リクさんなら絶対に言わないわ!
 これだけは、誰に言われてもずっと近くでリクさんを見て来たのだもの、そんな事をしないって、使用とは考えないって信じているもの!

「そうやって考えて、加減をして来たからこそ今があるんだよ。人を襲う魔物、そんな魔物を利用する人。センテに集まった魔物は殲滅したけど、元を叩かないといつまでも同じ事が起こるよ? だから、俺はこうして……」
「だとしても! それはリクさんが一人で全てどうにかする事じゃないわ! リクさんなら皆と協力して、困ったような表情を浮かべながらも、考えてできるだけ被害が出ないように、その後の影響を少なくするようにするはずなのよ!」

 リクさんを偽る相手の言葉を遮って、叫ぶ私。
 リクさんなら絶対どんな状況でも諦めたりしないわ。
 落ち込んだり、苦しんだりする事があっても、私達や他の人達がもうだめだと絶望するような状況でも、苦笑しながらどうすればいいかを考える人なの。
 それは、リクさんがやろうと思えば一人でどうにかできるから、というのもあるのかもしれないけど……決して、諦めて仕方ないからと全部を捨ててしまうなんて事はないはず。

「……確かに、おかしいのだわ」
「エルサちゃん?」

 私が目の前の人物をリクさんと認めないと、睨みつけている間に……途中私へのツッコミもあったけれど、その間中ジッと相手を見つめていたエルサちゃんが、ふと言葉を漏らした。
 エルサちゃんも、何かに気付いたのかしら?

「モニカの言う事もわかるのだわ。リクらしくない、その一言に尽きるのだけどだわ。でも、確かに目の前にいる人物リクなのだわ」
「でも……!」

 エルサちゃんはおかしいと、らしくないとも言ったのに、それでも私の言葉を否定して、リクさんだと認めるような事を言う。
 驚き、言葉を募ろうとした私を見上げるエルサちゃん。

「話を最後まで聞くのだわ、モニカ」
「……わかったわ」
「何を話す必要があるのかな? エルサも俺がリクだと認めたんじゃないか」

 落ち着いた声音で、私の目をじっと見つめるエルサちゃんに気圧され、頷く。
 リクさんを騙る人物は、呆れたように言っているけど……そういう言葉を出すのもリクさんらしくない。

「リクとは契約で繋がっているのだわ。それは、隔離結界から出た時にまた繋がっているのだわ。そしてその相手は間違いなく、目の前にいる人物なのだわ。だから、リクなのは間違いないのだわ」

 エルサちゃんとリクさんの契約……魔力的な繋がりなんだと思うけど、深い部分で繋がっているようでちょっと羨ましく思ってしまう。
 だってそれがあれば、リクさんと常に繋がっていられるって事だから。
 ……でも、本当に私にその繋がりがあった場合、隔離結界の中に閉じ込められて繋がりが途切れてしまったらエルサちゃん以上に取り乱してしまっていたかもしれないわね。

「でも、そのリクともここまで近いのに、私に魔力が流れて来ないのだわ。繋がりはあるのに、魔力だけでなく意識や記憶などもなのだわ。普段は魔力もそうだけど色々と流れて来るのにだわ。こうして目の前にいるリクは、弱っているわけでも流れる程の魔力がないというわけでもないのだわ」
「魔力や意識、記憶……」

 リクさんから流れて来る魔力を受けて、いつもエルサちゃんは嬉しそうにしているわ。
 隠そうとしているけど、表情に出てしまっているから……それは、恍惚とまではいわないけれど、なんというか王城でお風呂に入っている時の人のような感じね。
 それも羨ましいと思うと同時に、意識や記憶とかも流れて来るのね……やっぱり羨ましい、なんて今エルサちゃんに嫉妬している場合じゃなかったわ。
 反省、反省――。


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