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リネルトさんなりの理由

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「全獣人どころか全人類、この国だけでなく世界のどこを探してもリク様以上の方はおられないと、私は確信しています。この理由が、アマリーラ様も私も、リク様にお仕えする一番大きな理由なのは間違いありません」
「は、はぁ……」

 さすがに、自分自身で世界のだれよりもなんて自惚れたりはしないけど、エルサとの契約や魔力量も含めて、尋常ならざる力を持ってしまっている、というくらいの自覚はある。
 ……正確に言えば、まだ実感はそこまでなかったりもするんだけど、ヒュドラーやレムレースを倒した事も関係しているんだろう。

 剣のおかげというのも大きかったりはするけど、ある程度自分への自信にはなってくれている。
 街一つなんて簡単に破壊し尽くしそうな、場合によったら国すら滅ぼしかねない程の、強力な魔物を複数倒したわけだからね。

「そしてもう一つは、帝国の皇帝にあります」
「帝国の……というと、さっきの話の?」
「はい。いくら力をもっていても、それに溺れるような愚者に獣人は従いません。一部の者は、それでも力に魅せられてしまうかもしれませんが……」

 リネルトさんが話すのは、さっきレッタさんから聞いたクズ皇帝に関する話だ。
 魔力量や、ドラゴンと強制的に契約している可能性を踏まえて、リネルトさんなりに危機感を覚えたらしい。
 このまま放っておくと、アテトリア王国だけでなく獣人の国、それどころか各国にいる獣人にまで被害が及ぶ可能性がある事が考えられる。
 それどころか、現状でも帝国にいるはずの獣人を犠牲にしているのはレッタさんから聞いたし、さらに多くの獣人が巻き込まれる可能性だってある。

「ですがそんな帝国……いえ、愚皇帝に対抗できるのはリク様以外にいない、との事でした」

 愚皇帝……愚者の皇帝という意味なんだろうけど、ついにリネルトさんすらクズ皇帝に対してそういう認識、呼び方になっちゃったか。

「まぁ……一応、ユノやロジーナ、それからレッタさんも協力してくれれば、俺限定というわけではないけど」

 ただそのユノ達は俺の近くにいる。
 これから先帝国とどうなるかはわからないけど、衝突する事は目に見えているしなんとかして止めなければいけないのは間違いない。
 だからこそ、いずれ他の獣人すら巻き込みかねない相手を放っておくくらいなら、俺に協力してなんとかした方が……と考えたみたいだ。

「性急に動こうとするアマリーラ様はともかく、いずれ私もリク様にお仕えできれば……と考えてはいました。ですが、先程の話を聞いて考えを改めました」

 リネルトさんとしては、アマリーラさんみたいに今すぐとまでは言わなくとも、いずれとは考えていたらしい。
 それが、レッタさんとの話で早くに協力して帝国を、クズ皇帝に対処するべきだと考えなおしたとの事だ。

「でも、もしここで俺が頷いたとしても、シュットラウルさんに雇われているから……それは、リネルトさんがそう言ってアマリーラさんが止めたので、わかっていますよね?」
「もちろんです。ですが、何事もやり方次第。抜け道というものはあるものです。直情的なアマリーラ様にはできない方法も、世の中にはあるものです」

 そう言って口角を上げつつ、俺を見るリネルトさん。
 悪巧みをしているような表情にも見えて、背筋を冷たい物が流れる気がした。

「……本当に、そんな方法があるなら。あと、配下の末席とかではなく、仲間として一緒にとかなら……いいのかなぁ?」

 リネルトさんに圧されたのもあるけど、帝国に対するためには多くの人の協力が必要なのは間違いない。
 魔力量では勝っていても、俺は今魔法が使えないんだから。
 そのためには、配下はともかく国とはまた違った動きをする仲間が必要だ……とはさっきの話の間で考えていた。

 それこそ、帝国とたたかうけど基本的に向こう側が投入した冒険者や、魔物に対抗するため、マティルデさんから勧められているクランとかね。
 ただ、ここでリネルトさんのお願いに頷いていいのか不安にもなってしまって、最後はちょっと情けなくも首を傾げてしまったけど。

「リク様がそれをお望みであれば。了承頂きありがとうございます。リク様のご意思に沿うよう、粉骨砕身尽くさせて頂きます」
「……それは、仲間とはちょっと違うんじゃない?」

 放っておくと、アマリーラさんもそうだけど永遠の忠誠をとか言いかねない雰囲気だ。
 いや、それに近い事は言っているような気もするけど、ただそれは部下とか配下とかで、仲間とは違う気がする。
 そんな俺の疑問を余所に、満面の笑みながら凄みを感じる雰囲気で立ち上がるリネルトさん。

「ではまず、階下を黙らせるとしましょう」
「黙らせるって……」
「少々物騒な言い方になりましたか……んんっ! そうですねぇ、ちょーっとだけアマリーラ様を説得して、侯爵様を納得させる……のは、また後ですかねぇ。とにかく、行ってきますよぉ」
「は、はい。ヨ、ヨロシクお願いします……?」

 咳払いをし、いつもと同じホンワカな雰囲気を間延びした口調に戻したリネルトさん、尻尾をグルグル回すように振りながら、俺に一礼して宿の階段を降りて行った。
 アマリーラさんへの説得とか、シュットラウルさんを納得させるとか、方法が気になるところだけど……あまり気にしない方がいい気がした。
 君子危うきに近寄らずだ。
 俺は君子じゃないし、散々危険には首を突っ込んできたけども。

 ちなみに、シュットラウルさんの説得が後回しにされたのは、これからレッタさんと話さなきゃいけないからだろうね。
 俺とは違って、国の人間として……まぁシュットラウルさん自身が直接話す必要があるのかは微妙だけど、シュットラウルさんだからね。

「離せ、離すんだリネルト! 私は……!」
「は~い、少し落ち着きましょうねぇ、アマリーラ様~」

 リネルトさんとの話が終わった後、階段を降りて押し問答……のようにも見える、シュットラウルさん、執事さん、アマリーラさんのやり取りにリネルトさんが乱入。
 というより、リネルトさんがアマリーラさんの片腕をガッシリと抱き込むようにして掴み、そのまま連れて行く。
 戦い方を見ていると、女性としては大きめの体を持つリネルトさんが速度重視、小柄なアマリーラさんが力任せに大剣をぶん回す形なのに、こういう時はリネルトさんの方が力が強いんだな。
 まぁアマリーラさんも抵抗はしているけど、本気で振りほどこうとしていないからかもしれないけど。
 
「……ふぅ、ようやく落ち着く事ができるな」
「ははは……」

 溜め息を吐くシュットラウルさんに苦笑する。
 視界の端では、同じく執事さんも大きく息を吐いていたから、本当にずっとアマリーラさんから詰め寄られていたというか、お願いされていたんだろう。
 階段を降りて来る前から、ずっと声は聞こえていたからわかってはいたけど。

「して、リク殿。あちらの様子はどうだった?」

 階段の上へと視線をやりつつ、問いかけて来るシュットラウルさん。
 レッタさんの様子を聞きたいんだろう――。


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