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不穏な報せ

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「うむ。昨夜王都よりの報せが届いてな。何やら王都全体できな臭い動きがあるようだ」
「王都でですか?」

 追加の連絡って事だろう。
 こちらも向こうも、毎日伝令など連絡を出していて、それが昨日ヴェンツェルさんと話した後に王都からのがこちらに届いたとかかな。
 それにしても、王都全体とは穏やかじゃない気が……。

「急ぎの報せだったため、詳細はわからないが……不届き者が王都に複数侵入しているらしい。それから、王都より南西側の村や街などで、原因不明の破壊工作が行われているともあった。それもあって、現在王都では厳戒態勢を敷いているとな。私やマルクスにも、至急戻るよう要請されている」
「原因不明の破壊工作……南西という事は、やっぱり帝国でしょうか?」

 もしかして、エレノールさんから聞いたマティルデさんができるだけ早く、俺に戻って来て欲しいと伝えられたのと関係があるんだろうか?
 いや、タイミング的に全く関係していないというのは考えられないか。

「証拠がないから断言はできないが、状況的にはそうだろう。王国の内部でそういった動きはないようだし、他の国がとは現状考えにくい。絶対ないとは言い切れないが……」
「そうですか。でも原因不明ってどういう事なんでしょう? 破壊工作をされてそこを調べたら、少しくらいはわかるんじゃないですか? それこそ、帝国だとしたら魔物が襲ってきたとか」

 帝国であれば、これまでの事を考えれば魔物に村や街を襲わせると考えられる。
 だったら、原因不明ではなく魔物の襲撃にあったとすぐわかりそうなものだけど……。
 もしくは、「破壊工作」と言っている事から、クラウリアさんやツヴァイのいた組織が裏で何かやった可能性もあるか。
 レッタさんは、ツヴァイ達のように魔力貸与された人はもう帝国に残っておらず、アテトリア王国に何かしてくる事はないだろうとは言っていたけど。

 でもそれは、あくまで魔力貸与された人物の事。
 組織の人間がスパイみたいに入り込んでいたりもするから……ブハギムノングの鉱山内でエクスプロジオンオーガを復元して研究していたモリーツさんとか、それを監視していたイオスなどのように、個人の魔力などはともかく工作員がいるみたいだからね。
 ツヴァイの研究所を潰した時も、ワイバーンの鎧を奪ったのがいたわけだし。
 クラウリアさんは組織から逃げ出して、その部下も一緒だったけど……あんな風に、魔力貸与された人物が組織の全てじゃない。

 だからもしかすると、そういった組織の誰かや裏ギルドなどに関わっている何者かが、工作を始めたとかかもしれない。
 やりたくないし、やろうとも思わないけど、戦争でぶつかる事を想定している相手に対して、内部から工作するのは手段としては、当然とも言えるし。
 魔物を集めてけしかけて来たのも、それの一部なわけだからね。

「魔物が襲ってきたのなら、そういう報告になるだろう。だが、そうではないからな……何かこれまでとは別の事をしてきている、と考えた方が良さそうだ」
「そう、ですね」

 おそらく、ヴェンツェルさんも俺と同じような事を考えたんだろう。
 ツヴァイの研究所の時は一緒にいたし、ブハギムノングやルジナウムでの事は当然知っている、それに加えてクラウリアさんの事もだ。
 レッタさんのあれこれも既に話してあるから、似たような考えになるのは当然か。

「場所的には帝国の可能性が濃厚だ……いや、感情やこれまでを考えれば確定と言いたいくらいだ。元々、頃合いを見て撤収し王都へ帰還するつもりだったが、少し早める事にした。まぁ、マルクスの方は少し後になりそうだが……そこらは侯爵殿とも話し合わねばな」
「シュットラウルさんなら、そういう事情ならこちらは任せておけ! くらいは言いそうですけどね」

 でもまだまだセンテも大変だからなぁ。
 姉さんに忠誠を誓っていて、国のために動こうとするシュットラウルさんだから、無理に引き留める事もないだろうと思う。

「俺も、明日出発は変わりませんが、できるだけ早く王都に戻るようにします」
「そうだな。早く戻って陛下を安心させて欲しい。それとだ、ワイバーンを連れていくのだろう?」
「え、まぁはい。そうですね」

 王都にワイバーンの受け入れ態勢が整ったみたいだから、ワイバーン達は一緒に連れていく予定になっている。
 こちらでは必要なくなった、というわけではないけどいなくてもなんとかなるくらいまでになったし、戦力というか運用を考えるなら王都に行った方が活用できるだろうからね。
 ワイバーン達も、それで了承してくれている。

「であれば、私の部下から幾人かを連れて行ってもらえないか?」
「ヴェンツェルさんの部下をですか? それは構いませんけど」
「こちらでの兵があぶれている状況でな。余裕があれば訓練を課しているだけの状況だ。今は少しでも戦力を王都に向かわせたいのだ。さすがにワイバーンの数から考えて少数になるだろうが、それでもな」
「そうですね……」

 ワイバーンの総数はリーバーを入れて、大体三十……正確には三十四体だったかな。
 一体に二人を乗せられるとして、最大で六十八人ってところかな?
 無理をすれば三人乗れるかもしれないけど、重量でワイバーンが疲れやすくなり、王都まで移動する時間が延びる可能性もある。
 早く戻りたいのに、それだと本末転倒だからなぁ。

 それに荷物とかもあるだろうし……あ、ルギネさん達も連れて行くからもう少し少数になるか?
 まぁルギネさん達は、俺達と一緒にエルサの背中に乗ればいいか。
 荷物も……だとすると……。

「そうですね、五十人前後……無理をすれば六十から七十人くらい運べると思います」
「私の予想より多いな。ふむ、では……」
「わかりました。――エルサも、それでいいか?」
「ふわぁ……だわ。仕方ないから使われてやるのだわ~」

 ワイバーンの運搬能力も考えて、ヴェンツェルさんと打ち合わせをして連れて行ける兵士数を決める。
 荷物に関しては重い物も多いので、ルギネさん達と一緒にあくびをしながら眠そうに頷くエルサに乗せる事になった。
 特に武装系の荷物……鎧とか武器とかだな。
 重い物を身に着けてワイバーンに乗ると、長距離移動で疲れがでしまうだろうからね。

 というわけで、ワイバーンに乗って早期王都期間を目指すヴェンツェルさんの部下は、四十人に決まった。
 それ以上は、移動時間に影響ができたり、ワイバーンに無理をさせてしまう可能性があるからね。
 俺が最初考えた数より少ないけど、それだけ俺が考えていなかった色々な負担があるって事だ。
 空を飛べるだけで、人や物の運搬としては馬と考え方が似ているから、俺には不慣れだった……重さを気にせず、ほぼ疲れ知らずのエルサは基準にはできないし。

「では、今夜にでも早急に選抜し、明日センテに向かわせよう。私も同行したいが、さすがに千人規模の王軍を指揮できる者がいないとな」
「そうですね、わかりました」

 そうして、緊急の打ち合わせ場所となった獅子亭休憩室で、諸々の事をヴェンツェルさんと決めていった――。


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