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使用人さん達の居住区へ

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「それじゃ、行こうかモニカさん。――エルサはどうする?」
「ここで待っているのだわー。夕食まで省エネなのだわ」
「省エネって……言いたい事はわかるけど、それ俺以外には通じないだろうに……まぁ、わかったよ」
「行ってらっしゃいなのだわ~」

 お風呂上がりの満足感からか、ユノ達が寝ているベッドの上でゴロゴロしていたエルサに聞くと、顔すらこちらに向けず、尻尾だけ手を振るように動かしてそう言った。
 怠け者みたいになってしまっているけど、まぁ省エネとエルサが言ったように、お腹が空いてしまうから夕食まで動きたくないってところだろう。
 ……必要かはわからないけど、定期的にエルサに運動させて不足を解消させないといけないかな? いやでも、昨日とかは俺達を乗せて空を飛んでくれたし。
 本当に運動不足の解消が必要かどうかは、後でエルサと相談だな……怠け癖が付いていないといいけど。

「リク様、こちらです……」
「はい」

 エルサや寝ているユノ達を部屋に置いて、ヒルダさんの案内で少しだけ歩く。
 俺に用意されていた部屋とは階が違って、いくつかの部屋が並んでいる場所のようだ……多分だけど、王城内の使用人さんとかの下働きの人達がいる部屋、かな?
 並んでいる扉の感覚から、それぞれの部屋はあまり広くなさそうに見えるし、侍女さんやメイドさん、それに執事さんや料理人さんっぽい人達が、出入りしたりしていて、お城の兵士さんなどはほぼ見かけないし。
 開けっ放しの扉からチラリと見えた部屋の中は、簡素な家具などがあり、ベッドが二つあった事から相部屋っぽいな。

 なんとなく、寮の部屋というのが思い浮かんだ。
 広さは大体十畳程度だろうか……使用人さんの部屋、というので思い浮かぶよりも広く感じる。
 見えた部屋に置かれた物が少なかったからかもしれないけど。
 ともあれ想像通り、使用人さん達が住まう部屋が並んでいる場所ってところだろう。

 部屋の物は、住む人に酔って違うのかもね。
 物を多く置く人もいれば、簡素で少ない方がいいと言う人もいるだろうし。
 ただ何故か、ヒルダさんを見かけた人たちは顔を引きつらせ、俺やモニカさんを見てホッと息を吐きつつ、道を開けつつ頭を下げていたけど。
 俺達はともかく、ヒルダさんを見て顔を引きつらせるなんて……もしかすると、ヒルダさんは部下というか新人さんとかに厳しいのかもしれない、なんて思った。

「こちらになります」

 そうして使用人さんたちの住む部屋が並んでいる場所を奥へと進み、一つの扉の前でヒルダさんが止まる。
 その扉は特にこれといった特徴のない簡素なものだけど両開きの二枚扉で、これまでの片開きの一枚扉とは違った。
 奥まった場所にあるだけでなく、並んでいる感覚が狭かった他の扉ともさらに違い、間隔が開けられているのがわかる。

「ここは……?」
「王城に努める使用人達の、休憩室のような場所でしょうか。規定されているわけではありませんが、使用人達が集まる場所として作られましたが、いつの間にかそのように使われていたようです。大体いつも、暇になった使用人が数人はいますね」
「成る程……」

 使用人さん達が使う、ラウンジってところだろう。
 部屋で休むとかではなく、広い場所などで他の使用人さん達とワイワイ話をして過ごすとか、そんな使い方をされているっぽいな。
 ヒルダさんが使われていたよう……と言っているので、使い方に関してはヒルダさんがこの王城で働き始めるよりも前から、そうした使い方がされていたんだろうと思われる。

「ここに集めておりますので……リク様を連れて来ました、入りますよ」
「は、はい!!」

 扉をノックしつつ声をかけるヒルダさん。
 部屋の中からは、緊張しているとすぐにわかる声が聞こえて来た。
 俺相手なんだから、緊張しなくてもいいんだけどなぁ……と思うけど、そうもいかないんだろうね。
 こちらがどう思っていても、向こうがどう考えるかだし。

「失礼します……」

 ヒルダさんが扉を開け、中に通される。
 部屋はラウンジという言葉を思い浮かべた通り、テーブルと机がいくつかと水差しやカップなど置いてあり、くつろげる空間になっているようだ。
 さすがにお茶とかは、ここではなく別の場所で淹れて持ってくるようになっているみたいだけど、広々としているので部屋でくつろぐよりもこちらで、と考える人もいるんだろうなと納得。
 ただ、その部屋の中央で数人……えっと、八人程のヒルダさんとは少し違う、他のメイドさん達と同じような服装の女性達が全て、深々と頭を下げていた。

 服装がヒルダさんと違うのは、あくまでヒルダさんは侍女であり、メイドさんとは違うという事なんだろう……もしかしたら、本来の姉さんというか女王陛下付きというので、役職とか地位の違いがあったりするのかもしれないけど。
 とにかく、ずっと頭を下げたまま微動だにしない女性達の方だ。

「えーっと……?」
「リク様に対する謝意を示したいという現れでしょう」
「そ、そうですか……」

 どうしようかと迷って、思わずヒルダさんの方に顔を向けると、冷静にそう返された。
 感謝したい、という気持ちは確かに伝わってくる気がするけど……微動だにせず、ただ頭を下げられているだけってどうすれば。
 って、ん? よく見れば、八人の中の数人の手足のどこかが震えているような……。
 緊張からか、態勢がきついのかはわからないけど、とにかく頭を上げて欲しいところだ。

「リクさんリクさん、多分あの人達はリクさんの言葉を待っているんだと思うわ。リクさんの許しがなければ、話す事も無礼だと考えてるのかも」
「そう、なんですか……?」
「基礎は叩き込みましたから。目上の者……この場合はリク様など、仕える方の前ではまず発言が許されるかどうか、をよく考えるように教育しています」
「は、はぁ……」

 まぁ、使用人としてはあまり前面に出ず控えめで、状況に応じてだとは思うけど自由にお喋りしないように、というのはわからなくもない。
 ただヒルダさんは、結構自由に発言しているような気がするけど……それで俺が気分を悪くしたりしないのは当然で、全く気にはしていないんだけどね。
 ……姉さんがリラックスモードになるように、特に部屋では緩やかな雰囲気な事が多いからかもしれないけど。
 ちなみにヒルダさんは「基礎的な教育を終えたばかりなので、それを忠実に守っているのでしょう。新人にはよくありますし、私もそうでした」と呟いていた。

 新人だから基本に忠実に、相手からの言葉を待っているってところか。
 ただ、頭を下げ続けている態勢は厳しそうなので、早く解放してあげないと。

「それじゃ……えっと……頭を上げて下さい。あと、あまり気にしなくていいので、声を出して話しても大丈夫ですよ?」
「「「「「か、畏まりました!」」」」」

 八人の女性達がほとんど声を揃えて、一斉に頭を上げる。
 声が揃ったのは、多分偶然だろうなぁ。
 ともあれ、顔を上げた女性達は野盗に捕まっていた事からの悲壮感などは一切なく、緊張で硬い表情ではあるけど、皆顔色などはいいので良かったと安心できた。
 緊張しすぎてか、顔から血の気が引いて白くなっている人もいるみたいだけど――。

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