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アメリさんの話はハーロルトさん中心
しおりを挟む「そ、そ、それは……私もそのアメリさんと同じく、リク様と接せよという……リク様のお願い、いえ命令という事でよろしいのでしょうか?」
戸惑いながらも、こちらを窺うアマリーラさん……ちょっと予想外の反応だ。
てっきり、そんな事はできませんと固辞すると思っていたんだけどなぁ。
俺もアメリさんも、ほとんど冗談のつもりだったし……まぁ、できればそうしてくれた方が気軽というのもあったけど、これまでの事を思うとアマリーラさんがそうするとは思えないからね。
「いやさすがに、命令ってわけじゃありませんけど……」
命令して友人のようにとか、タメ口で接するようになっても、それはなんというかちょっと違う気がするからね。
お願い程度ならまだしも、強制する事でもないんだし。
「で、では、これまで通りに。これが、私の自然であり、リク様に対しては本能から従うようになっておりますので」
「本能って……」
獣人にあると言われている、強さに対する考え方のようなものかな。
本能というのは言い過ぎな気がしたけど、リネルトさんは特に何にも言わず、むしろ頷いていたので獣人というのはそういうものなのかもしれない。
後でリネルトさんに聞いた話だけど、戦うを生業とする獣人は、特に本能の部分が鋭く、そのおかげで危険を察知して戦い続けても生き延びられるらしい……絶対ではないけど。
さらに、単純な戦いでの強さに重きを置く事が多く、アマリーラさんは特にそれが顕著なため、行っている事は間違いではないとかなんとか。
「ま、まぁなんにせよ、とりあえず出発しましょうか。ここでこうしてずっと話しているわけにもいかないので」
そう促して、荷物を持ち直し、俺以外の三人を促して改めて城下町へと向かう。
ちなみに持っている荷物は、俺とアマリーラさん、リネルトさんでそれぞれ分けて、アルケニーの足とワイバーンの皮が入っている。
それなりに大きな荷物になっているけど、ララさんにお願いするためのワイバーンの皮と、大事な調理器具の素材だ。
アマリーラさんが俺の分を持つと言ってくれたんだけど、誰かに物を持たせるだけ持たせて、自分は手ぶらというのは気になるので、そこは三人でそれぞれ持つ事にした。
一応、剣とか財布とか、町に出るにあたってちょっとした物は持っているから完全な手ぶらとまでは言えないけどね。
「私は、あのままリク君達と話しているのでもいいんだけど、楽しいから。ハーロルトの家にこもっていたら、あまり他の人と話す機会がないのよねぇ。ずっと同じ人と話すばかりで……それはそれで楽しいのだけど、向こうからしたら私は客人だし」
楽しいけど少し退屈だったというか、ずっと家にこもりっぱなしで鬱屈した気分もあったのは間違いないようで、なんとなく晴れ晴れとしている雰囲気のアメリさん。
「客人? もしかして、ハーロルトさんの家って他にも人がいるんですか? あ、ハーロルトさんの家族とか……」
「違うわよぉ。ハーロルトの家族は、皆私のもといた村で暮らしているわ。ハーロルトの仕事の関係以上呼び寄せてと言うわけにはいかなかったんでしょうね。役職なんかは、両親にも言っていないみたいだし」
まぁ、情報部隊の隊長で、密偵みたいな事もしているようだから、あまり大っぴらに話せない事も多いんだろう。
アメリさんも、王城に来てからハーロルトさんと再会するまでは、聞かされていなかったようだからね。
俺と関わって、姉さんとも関わって、しばらく王都にいる事になってようやく、明かされたらしいし。
「そうなんですか……だったら、家にいる他の人っていうのは……?」
「使用人よ。村にいた頃では考えられないくらい、大きな家……もうお屋敷と言ってもいいんじゃないかしら? そんな所に住んでいるもんだから、一人二人では管理できないのよ。だから使用人を雇っていて、その人達が話し相手に放ってくれるんだけど……やっぱり客人としてでなんとなく、一歩引いているような感じなのよねぇ」
「まぁ、使用人さんというのならそういうのも簡単に想像が付きますね」
そんな大きなお屋敷に住んでいるのか、ハーロルトさん。
軍で言うとトップのヴェンツェルさんの次くらいの地位と言えるだろうから、おかしくないかもしれないけど。
そんなハーロルトさんは、軍のトップである将軍のヴェンツェルさんが隙あらば訓練や、書類仕事から逃げ出すのを、首根っこを摑まえて連れ戻す……という光景は、中々な物だったんだなぁ。
ちょっと色々と大丈夫かな? と心配になったりはするけど、ある意味で帝国の事がなければこの国は平和だった事の証でもあるのかもしれない。
「そうそう、ハーロルトったら凄く高給取りなのよね! 大きなお屋敷に使用人だけじゃなくて、離れて暮らす家族にもお金を送っているのよ。それで、私が村を離れる前は悠々自適に暮らしていたわ。まぁ、贅沢はしていなかったし、お金が有り余っていても贅沢な生活ができるような村でもなかったから、悠々自適というよりは、慎ましく暮らしていると言う方が正しいんでしょうけど」
「へぇ~、そうなんですね……」
ハーロルトさん、親孝行しているんだなぁ。
使用人さんを雇う余裕があるんだから、両親への仕送りなんかはできて不思議じゃない。
役職に関してもあるけど、騎士爵も持っていて本人は貴族でもあるし。
ちなみに、爵位によって国から褒賞という形で定期的にお金がもらえるらしい。
それは、領地を持つ貴族も本人のみの騎士爵も変わりないけど、爵位によって金額が変わるとか。
だからこそ、国への貢献などで爵位を上げようとする人もいるとか……場合によっては、騎士爵から陞爵(しょうしゃく)する事もあるらしいし。
ヴェンツェルさんのように、家系で代々受け継いだわけではないのに騎士爵を拝命して、ちょっと特殊な位置づけの人だっている。
あと、働かなくても収入があると言う意味ではあるけど、国への貢献など様々な義務があるらしいので、単純に気楽に得られるというわけではないんだろうと思う。
「そういうわけでね、ハーロルトはもっと贅沢しているのかと思ったけど、そうでもないみたいなの」
俺が考えている間も、隣を歩くアメリさんのトークは続いていた。
大体はハーロルトさんに関する話だったけど、それだけ本人が留守にしている現状がさみしいと感じているからだろうか。
「確かに、ハーロルトさんは贅沢しているようには見えませんね」
質実剛健というか、真面目なハーロルトさんが羽振りよくしている様子は、あまり想像できない。
ヴェンツェルさんも、真面目かどうかは首をかしげるけど、質実剛健という言葉が似合いそうではある。
そう考えると、この国の現在重要な役職に就いている人達は、そういう感じの人が多いな……マルクスさんもそうだし。
女王陛下である姉さんが、そういう人達を重要視して多く選んでいる可能性はありそうだ。
姉さん自身、俺の部屋で見せる姿は時にヒルダさんから叱られる事もあるけど、実際は結構堅実に、石橋をたたいて渡るくらいの人だったりするからね――。
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