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危険を感じる臭いの元へ

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「言葉にするのは難しいのですが……暗い何かを感じる臭さです。こちらに向いているものでもないので、このまま離れる事も可能です」
「暗い何か、ですか」

 なとなく、ジメジメした薄暗い場所で嗅ぐ臭いを想像したけど、ともあれその暗い何かのせいで臭いとアマリーラさん達が感じるのかもしれない。

「危険な臭さ、と言い換えてもいかもしれませんねぇ。こう、触れたらいけないような。そんな感じですぅ」
「うーん……」

 リネルトさんの補足を聞いて、さらに悩む。
 もし何かあるとして、俺達に向いていないのなら刺激しない方がいいとも考えられるけど……。
 でも、アマリーラさん達はその臭いが危険なものだろうと感じているみたいだし、このまま放っておいていいとも思えない。
 とりあえず様子見だけでもしておいた方がいいかもしれない……けど。

「どうしましょうか……アマリーラさん達が気になる程だし、見ておいた方がいいかなとは思いますけど……」
「ん、私?」

 悩みながら、チラリと見るのはアメリさん。
 俺の視線に気付いて首を傾げる……けど、エルサにお菓子を上げる手は止まらない。

「もしかすると、何か危険な事があるかもしれませんし、アメリさんを巻き込んでいいのかなって」

 俺やアマリーラさん達は、それなりに心得があるし多少危険があってもなんとかなる。
 けどアメリさんは一応一般人というか非戦闘員だ。
 ん愛花があったらハーロルトさんに申し訳が立たないし……。

「気遣ってくれてありがとう、リクさん。私だって、ハーロルトの所でただ黙ってお世話されていたわけじゃないわ。少々の危険なら大丈夫よ。まぁ、リク君に助けてもらった時のように、オーガ数体とかだと話は別だけど……」
「まぁさすがに町中でオーガ数体はいないでしょうけど……」

 オーガなんかがいたら、他の誰かに発見されて大きな騒ぎになっているだろうし、そもそも魔物が町に入らないよう見張りの兵士さんだっているからね。
 アマリーラさん達も魔物とは言っていないし、それとは違うんだろうけど。

「何かがあっても、リク君が王城に戻るまで見守るのが今日の私の役目だからついて行くわ。武器は忘れてしまったけど……」

 そう言って、少し情けない感じで笑いつつ、腰のあたりで片手をひらひらとさせるアメリさん。
 もう片方の手は、残りのお菓子をエルサにあげている……もう少しで完食だ。

「……わかりました。どんな危険があるのか……そもそも危険かどうかもわからないので、決して俺達の前には出ないで下さいね?」
「えぇ、リク君にしっかり守られるわ。戻ってきたらハーロルトに自慢しましょう」
「それが自慢になるかわかりませんけど……」

 俺に守られるって、自慢になるんだろうか?
 というのはともかく、危険な目には合わせないよう気を引き締める。
 アメリさんは武器を持っていないが、俺やアマリーラさんは念のため武器はちゃんと腰に下げている。
 俺は森でのレムレースと遭遇した経験もあって、白い剣だ。

 服装などは戦いに出るような物ではないけど、とりあえず武器があれば何かが襲ってきても大丈夫だろう、多分。
 アマリーラさんはさすがに目立ちすぎるので大剣は持っていないけど、一般的なショートソードを腰に下げているし、リネルトさんも同じ物を二本、左右の腰に下げている。

「アメリ殿は、リネルトが。決して前に出ぬよう。もし戦闘になったら、私やリク様には近付かぬよう」
「了解したわ」
「リク様とアマリーラさんが暴れたらぁ、私もも守り切れないどころか巻き込まれますからねぇ」
「暴れたりはしませんけど……まぁそうですね」

 森での俺やアマリーラさんの動きを考えると、暴れるという表現はあながち間違っていないけど……さすがに町中で、移動の邪魔だからって建物を薙ぎ倒して進むなんて暴れ方はしないしできない。
 アマリーラさんも大剣じゃないしね。
 とはいえ、力加減が課題の俺の近くにいると巻き込まれるかも、というのは確かなのでリネルトさんに同意して頷いておく。
 なんらかの危険がではなく、俺がアメリさんを気付付けてしまうような事だけは避けないといけないからね。

「それじゃ、行ってみましょう」
「えぇ。ちょうど、エルサちゃんにあげるお菓子もなくなったわ」
「……もっちゃもっちゃ。もっと欲しいのだわ~」
「はぁ……んんっ! アマリーラさん、あちらでいいんですよね?」
「は、はい」

 気を引き締めて行こうと思ったけど、エルサの気の抜ける声で中々締まらない雰囲気だけど、気を取り直してアマリーラさん達が感じた臭いの方へと向かった。

「ん~、ここまで来ても、やっぱり俺には変な臭いとかは感じないですね……」
「私もよ。美味しそう匂いは感じるんだけどね」

 表通りから一本ズレた道に入る。
 裏通りという言葉が正しいそこは、表通りに向かっている各商店の建物の裏側で、人が全然いない。
 商店の中には飲食店もあるので、アメリさんが言うような置いそうな匂いというのは俺でも確かに感じるけど……アマリーラさん達の言うような臭いは感じない。
 まぁ、色んな食べ物の匂いが混じっていたりするので、人によっては臭いと感じる事もあるかな? と思うくらいだ。

「確実に近づいています。あちらの方から……」

 臭いの元へと案内をしてくれるアマリーラさんは、迷う事なく道の先を指し示す。
 やっぱり、俺やアメリさんのような人間と違って獣人の嗅覚の鋭さは、特別みたいだね。
 人間の匂いなどが充満しているとさっき言っていたのも、俺達にはわからないうえに、強い匂いを発する食べ物っぽいのもあるのに……その中で迷わず臭いの元が判別できるんだなぁ。
 なんて感心しながら、警戒しつつゆっくりと進んだ先で……。

「何かの物が臭いを発しているのだと思っていましたが……どうやら人のようです。紛れていてここまで近付かないとわかりませんでしたが、人間のようです」
「人間……リネルトさん、アメリさんをお願いします」
「了解しましたぁ」
「気を付けてね、リク君」
「はい」

 裏通りを進んだ先、他の道にも繋がっていて続いている場所……特に何かがあるわけでもない道の途中で、アマリーラさんが言う臭いの元を発見。
 元アマリーラさんと俺が並んで先頭に立ち、後ろをアメリさんとリネルトさんが付いてくる形だったけど、何があるかわからないので念のためアメリさんとリネルトさんを少し下げる。

「宿なしか何かでしょうか……?」
「かも、しれないですね。見た目だけで判断するのは避けたいけど……」

 ジリジリと、ポツンと立っている臭いの元らしい人間の所へ近づく。
 他に道を通っている人はいない今が近付くチャンスかもしれないね……誰かを巻き込む可能性はないわけだし。
 その人間は、動かずただジッとその場に立って俯いているだけで、それだけで怪しい人物とも言える状態だ。
 こちらには背を向けている状態だけど、後ろから見る限り伸ばし放題のボサボサで、一切整えられていない髪の毛はしばらく洗っていないように思えた――。


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