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3巻
3-9
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ワイムスの敗北宣言により素材採取勝負は俺の勝利となり、ギルドから大々的に発表された。
俺を指名依頼してくれているやつらは喜んでくれたようだ。賭け金の行方がどうなったかは知らないが、ギルドマスターに一喝されてうやむやにされたとかなんとか。
祭りにかこつけて騒いでいたベルカイム市民も翌日には日常を取り戻し、採取勝負大会なんてなかったかのように日々は過ぎていった。
盗賊に遭遇したことは、ワイムスからギルドに報告が行った。ギルドマスターは、まさかそこまで危険な目に遭っていると知らなかった、と珍しく頭を下げてきた。盗賊どころじゃなくガロノードバッファローも出てきたんだけど、モンスターについては心配していなかったと言われ、俺の腕をどんだけ買っているのだと呆れた。
盗賊については正直に報告。ダンゼライ所属の竜騎士がやってきて、二人を連れていったと。これまた嘘はついていない。それだけじゃないだろうと追及されたが、まさか安らかな睡眠を与えましたとは言えずに黙っておくことに。
報酬に関してはダンゼライに戻った竜騎士に一任しているため、あっちでなんとかするだろうとのこと。エウロパに報告されるのは半年後だけどな。
俺は蒼黒の団に戻り、クレイに説教されつつプニさんの我儘に翻弄され、ビーの全身を風呂で磨きまくるいつもの毎日。
クレイのAランクの依頼を手伝い、地味依頼をこなし、指名依頼を片付けていた。
ワイムスは性根を叩きなおされ、グリットの指導のもと文字の読み書きを教わっているらしい。エリルーも一緒になって毎日頑張っているのだと。まだまだ反抗的だし憎まれ口は止まないらしいが、それでも逃げ出すことなく勉強を続けているのだとか。
タンスの角に小指をぶつける痛さは想像するだけで恐ろしいからな。脅しが効いたのかはわからないが、このまま頑張ってほしい。
チェルシーさんには七色ウールで編んだひざ掛けをあげる予定だ。なんとペンドラスス工房の看板猫娘、リブさんが編み物の名人らしく、立候補してくれた。報酬は七色ウールでいいと言われ、ふわふわの塊をまとめてあげたら喜んでくれた。可愛い。
ルセウヴァッハ領はそろそろ晩夏。街道の小麦畑が黄金色の海に変わる。
「え?」
肉厚のパンにバターと目玉焼きと醤油という朝食を楽しんでいた俺に、ギルドからの招集命令。俺の食事を邪魔する者は何人たりとも許しはしないと思いつつも、黙って従ってしまう、所詮は社畜。ワイムスに偉そうなことを言った俺が、上の命令を無視するわけにもいかない。
「で、あるからしてお前はこれからFBランクになる」
「は?」
「ピュー?」
呼び出されたギルドマスターの執務室で、突然言われた謎の言葉。
えふびーランクってなんぞそれ。
フェイスブッ……
「マスター、説明が足りないようです」
「おっ? そうなのか? いやしかし、オールラウンダー認定は誰もが知っていることだろうが」
「少なくともタケルは知らないかと」
呆れ顔のウェイドに説明を促されたギルドマスターは、巨体を揺らしてのっしのしと近寄ってきた。
ローブの下で俺の腹に巻きついているビーに緊張が走る。爪立てんな。
「これは説明を聞く前に、俺が質問したほうが早かったり?」
「そうだな。タケル、わかんねぇことはまず聞いてくれ」
言われ……
「フェイスブッ……FBランクってなんでしょか」
初めて聞くランクについて教えてもらうことにした。
FBランクというのは、通称オールラウンダー認定者と言われ、下は最低ランクのF依頼から、上は高ランクのB依頼まで幅広く受注することができる冒険者のことを言うらしい。通常、高ランク冒険者にランクの低い依頼をすると依頼料が割高になるのだが、オールラウンダーはそれがない。
冒険者の中でもオールラウンダー認定を受けられる者は稀であり、各ギルドの采配で決められる特別なランク。ちなみにFAランクは存在しないという。
そもそもギルドは国から完全に独立した組織。ギルドという小さな国のようなものだ。エウロパはアルツェリオ王国に所属しているが、国や王からの指示や命令に一切従う必要のない特権がある。その代わり、冒険者から徴収した税を各国各領に納める義務がある。所属している国に重大な危機があれば、所属冒険者を派遣する義務もある。しかし、第三者の介入を許さない。
そのため、俺のオールラウンダー認定もギルドの独断。王様や領主の許可は必要ない。
「ええと、つまり……俺は地味依頼もBランク依頼も……その中間ランク依頼も受けられるってわけ?」
「そうだ。テメェがさんざんランクアップしないと言うていたからな。それならば、ランクFのままランクBまでの依頼を受注できるようにしてやれと」
うわあ。
なんていうかうわあ。
それってつまり、俺の仕事が数十倍にも増える可能性があるってことだろうか。
それよりも、そんな都合のいいランクが存在していたことに吃驚だ。
「お前の仕事に対する姿勢が依頼主の中にも伝わったようでな。アイツが最低ランクに留まっているのが自分たちのせいならば、追加料金を支払っても構わぬからタケルのランクアップをしてくれと嘆願された」
まじか。
ワイムスに絡まれたとき大通りで仕事について話したが、あのときのことが伝わっていたのか。わざわざ宣伝したわけではない。しかし、結果としてそうなってしまったようだ。
「依頼主のことを考えてランクアップしねぇ冒険者なんて他にいねぇんだよ。言っておくがな、シリウスのザンボからも、しつけぇくれぇテメェのランクアップを懇願されていたんだ」
「ザンボさんまで!?」
「あのやろう、テメェの腕をFランクのままくすぶらせておくギルドこそ問題なんじゃねえか、とまでぬかしやがった」
まさか、俺の我儘でギルドに迷惑がかかっているとは。
おまけに、ドワーフ王国の受付主任まで巻き込んで。
「オールラウンダー認定冒険者は依頼料について依頼主と直接交渉できる。これなら今まで通りの金額で受注できるだろう。ギルドに一定の税を納めて、あとは自由にしやがれ」
「そんなことできるのか」
「それだけ信頼されているってことだ。オールラウンダー認定冒険者は世界に数十人しかいねぇ。テメェはアルツェリオ王国内で三人目だ。テメェの我儘を叶えるにはこの手しかねぇと思ってな」
それって、ランクS冒険者よりも数が少ないってことじゃないか。
最低ランクからBランクまでの依頼を受注できる冒険者。そんなのギルドからよっぽど信頼されていなければなれない。
「テメェは採取専門家だが、ランクAが率いるチームの一員だ。特別措置ってことで今回の采配となった。採取専門家でオールラウンダー認定者はお前だけだ。これは俺の独断じゃねぇぞ。エウロパ職員の同意と民の願い、それからルセウヴァッハ卿の推薦もある」
領主まで!
「どうする、タケル。テメェのことを考えていやがるやつらの気持ちを裏切って、ランクFのままでいるか。それとも、誰もが願う結果を選ぶか」
そんなこと言われて、ランクFのままでいいと言い張る度胸は俺にはない。
少なくともベルカイムは気に入っている。チームの本拠地はここでいいんじゃないかと思えるほど、この町が好きだ。
俺はチームに所属している身だから、俺の判断一つでチームの存続すら危うくなるかもしれない。クレイやプニさんなら俺がどんな決断をしても受け入れてくれるだろうが、もうそんな問題ではないんだ。
「ギルドマスター、ウェイドさん、本当にいいわけ?」
「何がだ」
「俺って得体が知れないやつだろ? 出身地だって正直言って誤魔化しているし。ほら、俺をそんな特別な冒険者にして、あとで困ったことになったりとか」
「黙りやがれ!!」
ガッと怒りを露わにしたギルドマスターの威圧で、強風が吹き抜けたかのような感覚に陥った。ウェイドは慣れたもので両耳を塞いで目を閉じている。正面から罵声を浴びた俺の顔には、マスターの飛び散ったツバ。うへえ。
俺は腹に深く刺さったビーの爪に、静かに耐えていた。
「俺を舐めんじゃねぇ! テメェの厄介事の一つや二つ、払い落とせなくて何がギルドマスターだ!」
「舐めてはいないんですけど」
「テメェの得体が知れねぇのは、今にはじまったこっちゃねぇだろうが!」
「ええまあそうですね、はいそうです、あ痛ッ!」
「誰しも触れられたくねぇもんはあるもんだ。そんなちっけぇことで、このエウロパが傾くとでも思ってやがったら、ぶっ叩くぞ」
「ぶっ叩いてから言うな……」
「ピュイィ」
巨人族の小突きは常人の全力殴りに匹敵する。クレイのひっぱたきにも似たギルドマスターのゲンコツに頭を抱え、睨み上げた。
「俺は所属会社……じゃない、世話になっているところになるべく迷惑がかからないようにって」
「ケツの穴のちいせぇことぬかすな!」
「やだお下品」
「うるせぇ! テメェの迷惑なんざ、他の冒険者どもに比べりゃガキのままごとなんだよ!」
ギルドマスターが再度拳を振り下ろすが、今度はそれを余裕でかわす。
出てきて対抗しようと暴れるビーをなんとか宥め、さてどうするかと考えていると……
「マスター、頭ごなしに叱りつけてどうするんですか。マスターが怒鳴りつけたところで、この男が従順になるもんか。タケルも、もう俺たちに遠慮なんかすんじゃねぇ」
ウェイドに言われ、ああと気づく。
遠慮なんてしているつもりはなかった。だが、やっぱり不安ではあった。
俺の力のせいで誰かに迷惑がかかるのは御免だし、俺の知らないところで誰かが困ったことになるのも嫌だ。
この考えがギルドへの遠慮だとしたら、遠慮しまくってたな。
「遠慮というか、面倒なことになるのがめんどくさい」
「ああ、わかっている。アンタの口癖だからな、それは。ギルドは所属冒険者の自由を重んじる。アンタが嫌がる仕事はなるべく……引き受けなくていいし、アンタが余計なことに気を回す必要もない。そうでしょう? マスター」
興奮して顔を真っ赤にしていたギルドマスターが、次第に落ち着いていく。そして巨大な椅子にどすんと腰掛け、長く長く息を吐き出した。
「タケル、テメェがどんなヤツでもかまやしねぇ。テメェの達者な口は正直ムカつくが、テメェの冒険者としての腕は一流だ。だからその腕をエウロパに貸せ。今以上に」
真剣に言われ、俺はただ黙って頷いた。
13 展開・局面打開
「これがFBランクのギルドリング」
「ほう、なるほどな」
「ピュイィ」
ベルカイム屋台村の食事場所にある、いつもの定位置。
机の上に置かれた白金のギルドリング。美しい細工が刻まれたそのリングは、アルツェリオ王国内でたった三つしか作られていない。
使用された小さな青い宝石は魔石であり、所有主以外がこれに触れると身体に電撃が走るという危険仕様。なんとこのリングを見せれば、無担保で大金を借りることができるのだ。どんだけ信用されているんだ。
冒険者といえば問題児ぞろいの人間であるから、オールラウンダー認定というのは余程のことがない限り与えられることがない。つまり、アルツェリオ王国内で認定されているオールラウンダーたちは信頼され、腕も良いと、ギルドが認めたお墨付きの冒険者だということだ。
俺にそこまでの価値があるのかはわからないが、信頼性については自信がある。嘘も誤魔化しもしないからな。
「オールラウンダー冒険者は、保証人がおらずとも信用できると認められた冒険者のことを言う。このギルドリングは、俺のAランクリングよりも貴重なのだ」
「なんだか畏れ多いな。俺よりもクレイにあげればいいのに」
「俺はもともと竜騎士であるからして、冒険者登録したときにはCランクであったのだ。お前と違って率先してランクアップ審査を受けたしな。ギルドもオールラウンダーにする必要はないと踏んだのであろう」
信頼されるのはありがたいことだが、ギルドお墨付きっていうのは少々荷が重い。
義務とか責任とか増えると、いくら自由人冒険者でも動きにくくなる。
「お前は加護を受けし者であるのですよ? お前の秘めたる力はわたくしを凌駕するほど。普通のつまらぬ人間であろうとしても無駄なことです」
白金のギルドリングをつまらなそうに見下すプニさんは、俺お手製の水餃子に舌鼓を打っている。ちなみに、今日の昼飯は水餃子スープです。急遽このメニューになったのは、ワイムスのせいである。
ワイムスはあれ以来トゲトゲしさを少しだけ控え、淡々と依頼をこなしつつ文字の読み書きを教わっている。時々俺にこの本読んでくれ、なんて頼んでくるようになったのだから、見事な進歩としか言えない。エリルーのほうが飲み込みが早いらしくて、負けるものかと切磋琢磨しているようだ。
で、そのワイムス。俺が作った水餃子をまた食べたいと口を滑らせた。クレイの怖い顔が真剣に「俺は食べたことがないぞ」と言い出し、ビーはずるいずるいとピーピー抗議し、プニさんは「今すぐにお作りなさい」と命令。そんな経緯で、作らされたというわけである。
「普通のつまらん人間で十分なんだよ」
「ピューイ?」
余りある魔力のおかげで、この世界でなんとか暮らしていける。もしもこの魔力がなく、ビーと出逢うことがなかったら、俺はもっと早くに死んでいたかもしれない。
だから日々何事にも感謝しなければならないのだ。当たり前なことに慣れてしまうと、傲慢になりがちだ。それだけは気をつけないと。
人が抱く欲というのは際限がない。
豊かな暮らしをしたい。美味しいものを腹いっぱい食べたい。綺麗な服が着たい。他の人が持っていないものを持ちたい。
そうして行きつく先は、不老不死だの永遠の美だの。
俺はかなりの幸せ者だと自負している。毎日三食うまい飯が食えて、風呂に入れて、温かな布団で眠れる。頼りになる仲間がいて、頼りにしてくれるやつらがいる。贅沢だよな。
多すぎる欲というのは身を亡ぼす。あれもこれもと欲をかかないよう、平凡な日常に感謝して日々を着実に生きていきたい。
ただでさえ人間離れした力を持っているんだから。
「オールラウンダー認定冒険者であることを誇りに思えばよかろう。お前は余計なことをごちゃごちゃと考える悪い癖がある。与えられたものを素直に喜べ」
「いや、喜んではいるんです、これでも」
新入社員から突然部長クラスに昇進した気持ちなんて、きっと誰にもわからないだろう。
もちろん管理職とかそういう面倒なことはないが、それでもやはり珍しいランクということで、注目はされるだろう。現にギルドからダダ漏れた俺のFB認定情報は狭くないベルカイムを駆け巡り、いろいろな人からお祝いの言葉をもらってしまった。
それだけギルドが、エウロパが俺を信じ、俺の能力を買ってくれているということだろう。
これは素直に喜ぶべきなんだが、面倒なことを全部任されるような予感がするんだよなあ。とりあえずアイツにやらせておけ、みたいな。
「栄誉の旦那! タケルさん! 大変っす! モンスターが出たっす!」
ほらあ。
屋台街にギルド職員で小人族のスッスが第一報を伝えたのが正午。
すぐに「ギルドに行くぞ」とやる気満々で立ち上がったクレイに付いていくと、ギルド前には腕に覚えのある冒険者たちが集まっていた。
突発的なモンスターの襲撃を退けるのに協力すると報奨金が出る。それ目当てなのだろう。
「おう、タケルじゃねぇか。お前も呼ばれたのか?」
顔見知りのランクD冒険者に声をかけられ、頷く。
「スッスに呼ばれた。モンスターが出たってことしかわかっていないんだけど、具体的にどんな?」
「ははっ、あの小人、慌てやがったな。モンスターってもフォレストワームなんだよ」
フォレストワーム?
って、なんぞや?
知らないモンスターはクレイに聞け。教えてクレイ先生。
「ふむ、このような場所に現れるとは珍しいな」
「凶悪なモンスターなわけ?」
「深き森に現れる温和なモンスターでな。その姿はおぞましく巨大なのだが、人を襲うことはまずない」
モンスターといっても、全部が凶悪で肉食というわけではないのか。温和なモンスターというのがどういうものなのか見てみたい気もする。
「で、なんでこんなに慌てているの?」
「フォレストワームは乾いた大地を肥沃にする特殊な糞を出すのだ。その糞を田畑に撒けば収穫量が跳ね上がる」
「えっ、それじゃあ」
みんなもしかして、うんこ狙い?
どうりで、ランクF冒険者もやる気満々でスコップ持っているわけだ。
でも、うんこ採取はアリクイでじゅうぶんだからなあ。
「クレイ、この依頼受けるわけ?」
「糞はランクCに該当するぞ? お前はいらぬのか?」
「うんこは遠慮したいのだけど」
突発的なモンスターの出現は指名依頼を出すことができない。なので、俺に採取してこいという依頼は出ないだろう。それに、これだけ他にも冒険者が集まっている中で、俺が俺がと出ていったら確実に恨まれる。お前は引っ込んでいろって言われる。
「斥侯が戻ったぞ! トバイロンの森に出たフォレストワームは、真っすぐドルト街道を目指しているようだ!」
大門警備隊の一人が、血相を変えてギルドに飛び込んできた。
ドルト街道は、数ある街道の中でも一番通行量の多い道であり、遠くアルツェリオの王都まで続いている。
「おいおい、森を出ようとしていやがるのか? そんなフォレストワームは聞いたことねぇぞ」
「大丈夫なのか? 魔素の影響で暴走しているんじゃないだろうな」
冒険者たちに不安が走る。
うんこ採取だけならまだしも、暴走したモンスターの対処までは聞いていないとばかりに尻込みしはじめた。
そして一通りざわついたあと、それぞれの視線が一点に集まる。
栄誉の竜王に。
「栄誉の旦那、すまねぇが、様子を見てきてもらえねぇか?」
静まり返ったギルド内に、ウェイドの声が響く。
この場にいるランクA冒険者はクレイのみ。他の高位ランク冒険者はベルカイムを離れ依頼に従事している。昼までのんびりとしているランクA冒険者はクレイぐらいだ。暇人ってわけじゃないぞ。ガツガツしなくても生活できる余裕があるだけ。
「任されよう。害を為すような個体であるならば、始末するが良いか」
「貴重なモンスターだが仕方がない。街道の安全を優先してくれ」
「任されよう」
さて、俺は後方支援でもするかなと思っていると、警備隊員がまた一人飛び込んできた。
「駄目だ! 勢いが止まらねぇ! ありゃあ、確実にドルト街道を目指しているぞ!」
呑気なうんこ採取だと思っていたら、あっという間に町の危機。冒険者たちは一斉に外に出て、各々戦闘態勢を整えている。ランクが強さがなどと言っていられない。
ゴブリンに襲撃されたとき以来の緊張がベルカイムに走った。
人通りのある街道にまでモンスターが現れるのは稀。それこそ単体で出てくることは滅多にない。現れたとしても群れで、繁殖のためや縄張り拡張のため、決まった季節に現れる。今回のように突発的にモンスターが現れるのはちょっとおかしいらしい。
「タケル、行くぞ!」
「はいはい」
「ピュイ」
ギルドを飛び出した俺たちはベルカイムの大門を出て、数人のランクC~B冒険者を伴ってドルト街道を北上。トバイロンの森にはもともとランクCモンスターが出没するということを知らなかった俺は、普通に奥まで入って採取していたけど、今はそんなことどうでもいい。
わたくしの背に! と、キラキラお目めで訴えていたプニさんには自重してもらい、ひたすら走る。しばらくして、クレイの足の速さになんとか付いてくる冒険者たちと、斥侯の警備隊員らと合流した。
「おおお! 栄誉の旦那か! 助かった!」
「フォレストワームだと聞いた。大きさは」
「すっげぇでかいんだ! こう、ブロニ大木くらいあるんだ!」
ブロニ大木とは主に建築材に使われる杉のような樹木。とてつもなく、でかい。
「すぐそこまで……! あああ! 見えた!」
深い森の奥から木々をなぎ倒す嫌な音が聞こえてくる。
街道を背に、俺たちは警戒態勢。
「タケル」
「わかっている。クレイのでかい槍だと木が邪魔になるから、槍術より体術のほうが小回りが利く。速度上昇と軽量かければいいだろ」
「頼んだ」
「ピュイイ!」
「ビーは炎禁止。派手な風精霊術も控えておけ。プニさんは」
「わたくしは馬ですよ? 馬が戦いに参加するのですか?」
そんな偉そうに言わなくても……
プニさんは他の冒険者と共に見学させ、近づいてくる巨大な何かを待ち構える。
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