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遺産 七
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「妹の方はたいしたことないね。恵理ともあんまり似てないね。似ているのは髪型ぐらいじゃん。でも、おんなじセミロングでも、恵理の方がずっと似合ってるし。こういう顔立ちの子って、あんま髪長くしても似合わないのにね。私みたいにショートの方がいいのに」
ここでまた私は片方の眉だけをしかめて微苦笑した。
「咲子ちゃんは今、高二。都内の公立高校に通ってるの」
「ふうん。……はっきり言って野暮ったいね。これなら、絶対恵理の方が勝ってるよ」
そう言いながら、実は自分より綺麗かどうかと値踏みしているのだ。美菜にとっては、同年代の男は、獲物になるかどうか、女は、自分より綺麗かそうでないかしか関心がないのだ。彼女の顔がちかづくと、煙草のにおいがして私は内心眉をしかめるが、顔には出さないようにした。
多分お酒だって、絶対飲んでいるんだろうな。一応寮内では二十歳過ぎている生徒でも飲酒喫煙は禁止だけれど、そんなものは彼女だけでなく半数以上の寮生には問題にはならない。飲酒、喫煙、不純異性交遊――死語だよね、これって――も平気でやってしまい、常識や礼儀をまったく無視したことを言う彼女みたいなタイプは、ほんのすこしまえ、それこそ高校生のころの私なら一番嫌いで苦手で、ぜったい近寄りたくないタイプの生徒だ。
実際、高校のころはそういう生徒たちとはなるべくかかわらないようにしていたし、向こうも私みたいなタイプは嫌っていた。そういった子たちのなかでも一番嫌いな子がいて、これがけっこう勉強できる子で、彼女も聖アグネスを志望しており、彼女に負けたくがないために、私は高校生活の後半をひたすら勉強にいそしんだのだ。
その甲斐あって、どうにか推薦入学を果たした。彼女は推薦は得られなかったけれど、一般入試で合格したようだが、幸いなことに入寮せず、学部がちがうので顔を見ることはない。
それが大学に入学して、彼女ともよく似た、苦手なタイプの典型のような美菜と、こうやって寮で隣同士になり、なんとなく話をするようになり、今みたいに日曜の午後を一緒にコーヒーをすすって過ごすようになっている。
不思議な気がするけれど、つきあってみて意外と彼女に好意を感じてしまう一番の理由は、この率直さと正直さじゃないかと気づいた。
講師や寮長相手にも、私だったら言えないことを平気で言いたいほうだい言い、平然とたてつく彼女を見ていると、はらはらする一方で、奇妙な痛快さを感じてしまうのだ。
「ねぇ、友哉君て、どんな子?」
「いい子よ。ちょっとオタクだけれど」
「へー? 何オタク? ゲームとか? アイドル?」
私は首をふった。
「本が好きなの。読書マニア」
「恵理といっしょじゃん」
「うーん。私が好きなのは小説だけれど、どっちかっていうと友哉君は歴史関係ものみたいなのが好きみたい。家がちょうど図書館の近くでね、子どものころから暇さえあれば本ばっかり読んでたの。わたしが遊びに行っても、部屋のなかで本読んでたもの。で、しょうがないから、私も彼の比較的読みやすい本を借りて、二人で黙々と読書して過ごしてた」
ここでまた私は片方の眉だけをしかめて微苦笑した。
「咲子ちゃんは今、高二。都内の公立高校に通ってるの」
「ふうん。……はっきり言って野暮ったいね。これなら、絶対恵理の方が勝ってるよ」
そう言いながら、実は自分より綺麗かどうかと値踏みしているのだ。美菜にとっては、同年代の男は、獲物になるかどうか、女は、自分より綺麗かそうでないかしか関心がないのだ。彼女の顔がちかづくと、煙草のにおいがして私は内心眉をしかめるが、顔には出さないようにした。
多分お酒だって、絶対飲んでいるんだろうな。一応寮内では二十歳過ぎている生徒でも飲酒喫煙は禁止だけれど、そんなものは彼女だけでなく半数以上の寮生には問題にはならない。飲酒、喫煙、不純異性交遊――死語だよね、これって――も平気でやってしまい、常識や礼儀をまったく無視したことを言う彼女みたいなタイプは、ほんのすこしまえ、それこそ高校生のころの私なら一番嫌いで苦手で、ぜったい近寄りたくないタイプの生徒だ。
実際、高校のころはそういう生徒たちとはなるべくかかわらないようにしていたし、向こうも私みたいなタイプは嫌っていた。そういった子たちのなかでも一番嫌いな子がいて、これがけっこう勉強できる子で、彼女も聖アグネスを志望しており、彼女に負けたくがないために、私は高校生活の後半をひたすら勉強にいそしんだのだ。
その甲斐あって、どうにか推薦入学を果たした。彼女は推薦は得られなかったけれど、一般入試で合格したようだが、幸いなことに入寮せず、学部がちがうので顔を見ることはない。
それが大学に入学して、彼女ともよく似た、苦手なタイプの典型のような美菜と、こうやって寮で隣同士になり、なんとなく話をするようになり、今みたいに日曜の午後を一緒にコーヒーをすすって過ごすようになっている。
不思議な気がするけれど、つきあってみて意外と彼女に好意を感じてしまう一番の理由は、この率直さと正直さじゃないかと気づいた。
講師や寮長相手にも、私だったら言えないことを平気で言いたいほうだい言い、平然とたてつく彼女を見ていると、はらはらする一方で、奇妙な痛快さを感じてしまうのだ。
「ねぇ、友哉君て、どんな子?」
「いい子よ。ちょっとオタクだけれど」
「へー? 何オタク? ゲームとか? アイドル?」
私は首をふった。
「本が好きなの。読書マニア」
「恵理といっしょじゃん」
「うーん。私が好きなのは小説だけれど、どっちかっていうと友哉君は歴史関係ものみたいなのが好きみたい。家がちょうど図書館の近くでね、子どものころから暇さえあれば本ばっかり読んでたの。わたしが遊びに行っても、部屋のなかで本読んでたもの。で、しょうがないから、私も彼の比較的読みやすい本を借りて、二人で黙々と読書して過ごしてた」
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