8 / 141
遺産 八
しおりを挟む
おかげで私もまたかなり本の虫になってしまったけれど。
スマホの写真を見たまま話を聞いていた美菜が、少しがっかりしたように茶色くぬっている眉の両端をさげた。
「スポーツとかやんないの? 歌とか興味ないのかな?」
「スポーツは……子どもの頃はサッカーとかやっていたけど。あっ、高校のときは剣道部に入ってた」
「おお。武道好き。ちょっとかっこいいじゃん」
けれど試合に出たとかいう話は聞かなかった。いい子だけれど、あんまり女の子にもてるタイプじゃない。見栄えは悪くないんだけれど、正直言って、野暮ったくて、本当にオタクな文系少年だ。
けれど、そういうところが私とも似ていて、地方ではそこそこ有名な大学に入って、勉強もスポーツも器用にやりこなして、スポーツカーを乗りまわしているというような派手好きな母方の舟木家のいとこ達とくらべると、一緒にいてずっと安心できる。親戚じゅうのなかでは一番気が合う相手だろう。
不思議なことに、美菜の目が妙に熱っぽくなってきて、私は内心ちょっとあせってスマホを返してもらった。
「美菜には彼氏がいるじゃん。あっそうだ、シュークリーム食べる?」
シンクの側の小型の冷蔵庫からシュークリームを出そうと立ちあがった私に、背後から美菜が声をかけてきた。
「ねぇ、これ、開けていい?」
それが書き物机のことだとわかって、私は冷蔵庫を開けながら返事をした。
「いいよ。空だけどね」
書き物机は一昨日に届けられたばかりで、昨日やっと包装を外したばかりなのだ。まだ開けてもいない。
引き出しをあけしめする音にも特に気をひかれず、私はお気に入りの洋菓子店で買ったシュークリームの紙箱を取り出していた。
「あれぇ……、これ、開かないよ」
「え?」
引き出しは三段ある。美菜は最後の引き出しで手こずっているようだ。
「そんなことないでしょう」
そう言いながらも、祖母の家でこの机を見たとき、引き出しを開けたろうかと記憶をさぐってみた。そういえば……。
たしかに一番上の引き出しは開けてみたが、二段目と三段目までは開けなかった。まだ自分のものになったわけではなかったから、すこし気がひけたのだ。
スマホの写真を見たまま話を聞いていた美菜が、少しがっかりしたように茶色くぬっている眉の両端をさげた。
「スポーツとかやんないの? 歌とか興味ないのかな?」
「スポーツは……子どもの頃はサッカーとかやっていたけど。あっ、高校のときは剣道部に入ってた」
「おお。武道好き。ちょっとかっこいいじゃん」
けれど試合に出たとかいう話は聞かなかった。いい子だけれど、あんまり女の子にもてるタイプじゃない。見栄えは悪くないんだけれど、正直言って、野暮ったくて、本当にオタクな文系少年だ。
けれど、そういうところが私とも似ていて、地方ではそこそこ有名な大学に入って、勉強もスポーツも器用にやりこなして、スポーツカーを乗りまわしているというような派手好きな母方の舟木家のいとこ達とくらべると、一緒にいてずっと安心できる。親戚じゅうのなかでは一番気が合う相手だろう。
不思議なことに、美菜の目が妙に熱っぽくなってきて、私は内心ちょっとあせってスマホを返してもらった。
「美菜には彼氏がいるじゃん。あっそうだ、シュークリーム食べる?」
シンクの側の小型の冷蔵庫からシュークリームを出そうと立ちあがった私に、背後から美菜が声をかけてきた。
「ねぇ、これ、開けていい?」
それが書き物机のことだとわかって、私は冷蔵庫を開けながら返事をした。
「いいよ。空だけどね」
書き物机は一昨日に届けられたばかりで、昨日やっと包装を外したばかりなのだ。まだ開けてもいない。
引き出しをあけしめする音にも特に気をひかれず、私はお気に入りの洋菓子店で買ったシュークリームの紙箱を取り出していた。
「あれぇ……、これ、開かないよ」
「え?」
引き出しは三段ある。美菜は最後の引き出しで手こずっているようだ。
「そんなことないでしょう」
そう言いながらも、祖母の家でこの机を見たとき、引き出しを開けたろうかと記憶をさぐってみた。そういえば……。
たしかに一番上の引き出しは開けてみたが、二段目と三段目までは開けなかった。まだ自分のものになったわけではなかったから、すこし気がひけたのだ。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる