闇より来たりし者

平坂 静音

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秘文 三

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 ハングル語が使われるようになる以前の、昔の朝鮮で使われていた漢字漢文を読める学生っているだろうか?  そもそも、朝鮮で使われていた漢字漢文は、中国で使われていた漢字漢文と同じなのだろうか? そこらへんについての知識は私には皆無だ。 
「うーん」
 私は紙束をまえにして腕をくんで座りこんだ。
 いくら最近韓国語や中国語を習う学生が増えたとはいえ、これはとうてい学生が読めるレベルのものではないと思う。
「読みたいよねぇ……」
 美菜が好奇心いっぱいの熱い目を紙束にそそぐ。私だって読みたい。何が書いてあるか知りたい。そもそも、私の祖母の家にあったものなのだから。
 まさかとは思うけれど、本当に宝のありかなんかが書かれてあったりして。
 そんな馬鹿ことを考えてみたが、よくよく考えれば、何故、こんなものが祖母の書き物机の中にあるのだろう?
「ねぇ、その、伯母さんとかに連絡してみたら? ……イヤ?」
 私は苦い顔をしてしまっていた。……嫌だ。
 宝の地図とはいえなくとも、何かすごいことが書かれているかもしれない。伯母に知らせて、下手に興味でももたれて、返して欲しいなんて言われたらこまる。
 もしかしたら、歴史的にとても価値あるものかも。なんだか、推理小説やドラマで秘密の文書や日記を見つけた主人公の気分だ。
 ああ、読めないのがもどかしいた。
 あの、英詩をうまく訳せない、苛々するような、もやもやした気分。書店の洋書コーナーで、とても好みの装丁の洋書を見つけても、そのぶあつさに、今の自分の英語力では読みこなせないと諦めなくてはいけない、あのやるせない気分におそわれた。言葉の壁に夢と憧れをはばまれて歯痒くなるあの瞬間。
 しかもこれは、難解さで言うなら英語どころの問題じゃない。
「駄目もとで、中国語の先生に訊いてみる?」
「うーん。そうね。でも、とりあえずは、写真に撮っておこうか」
「私も撮っていい?」
 一瞬、迷ったけれど、私はしぶしぶ承諾した。二人でそれぞれスマホに文面を写した。幸い、奇跡的なほど保存状態が良かったので、コピー機でコピーをとることも可能そうだ。
「すぐコピーとってくるわ」
「待って、恵理、私も行く」

 ありがたいことに、寮内の一階には学園が経営するちいさなコンビニがあり、コピー機がある。二階の東端の寮生用の図書室にもコピー機はおかれてある。寮の図書室は、学園の図書室にくらべれば規模はちいさいけれど、勉強やしらべものには便利で私はよく利用していた。
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