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家の秘密 二
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『……あのね、お祖母ちゃんのことについて、知らせておいた方がいいかも』
急に母の口調が変わった。声音に、奇妙な翳りが感じられて、私はドキッとした。
『あのね……、本当はお葬式のときに言うつもりだったんだけれど。まぁ、別に今さら言うほどのことでもないかと思うんだけれどね……』
「え、なに?」
母のいつにない固い声音に、首の背後が妙にむず痒くなる。なんだろう?
『あのね、恵理、お祖母ちゃんはね、お祖母ちゃんじゃなくて……、正しく言うと、あなたにとって、ひいお祖母ちゃんなの』
私は絶句した。
「嘘……?」
しばし携帯電話のむこうの母も無言になってしまった。
『あのね……』
母は言いづらそうだ。
『お母さんは、おもてむきはお祖母ちゃんが四十過ぎて生んだ娘ということになっているけれどね、本当は……娘じゃなくて孫なの』
私は馬鹿みたいに口をぽかんとあけていた。
「そ、そうだったの?」
『実を言うとね、若くして亡くなったお祖母ちゃんの娘、つまりお母さんの本当のお母さん、あなたの本当のお祖母ちゃんは……ああ、ちょっとややこしいわね。つまり、私を生んでくれた人はね、ある事情があって、結婚せずに私を生んだの。いわゆる未婚の母ね』
「シングルー・マザーね」
私は他人事のように軽く言った。なんとなく、話が突拍子もなくて、自分のこととは思えないのだ。
『……当時は世間もうるさいし、とくに田舎はねぇ……。それで、おもてむきはお祖母ちゃんお祖父ちゃんの娘として籍に入れられたの。で、祖父母をお父さん、お母さんと呼び、本当なら伯父に当たる人たちを、お兄さんと呼んで育ったのよ。本当にそう信じていて、何ひとつ疑うことなく過ごしていたわ』
母の言葉の語尾に、かすかな哀感がにじむ。
「……そ、それで、私の本当のお祖母ちゃんは、どうしたの?」
『亡くなったわよ。病気でずっと入院していたらしくて、私は全然おぼえていないんだけれど。たしか、私が三つになったかならなかった頃だったと思うわ……。冷たいようだけれど、』
母はそこでため息をひとつ電話のむこうで吐いたようだ。
『私ね、その人に関しては全然思い出もなくて、なにも感じないの。子どものころは、ただ私には歳のはなれたお姉さんがいて、気の毒に若くして亡くなったんだわ、ぐらいにしか思っていなかったわね。その事実を知らされたのは、結婚して実家を出ることが決まったときよ』
急に母の口調が変わった。声音に、奇妙な翳りが感じられて、私はドキッとした。
『あのね……、本当はお葬式のときに言うつもりだったんだけれど。まぁ、別に今さら言うほどのことでもないかと思うんだけれどね……』
「え、なに?」
母のいつにない固い声音に、首の背後が妙にむず痒くなる。なんだろう?
『あのね、恵理、お祖母ちゃんはね、お祖母ちゃんじゃなくて……、正しく言うと、あなたにとって、ひいお祖母ちゃんなの』
私は絶句した。
「嘘……?」
しばし携帯電話のむこうの母も無言になってしまった。
『あのね……』
母は言いづらそうだ。
『お母さんは、おもてむきはお祖母ちゃんが四十過ぎて生んだ娘ということになっているけれどね、本当は……娘じゃなくて孫なの』
私は馬鹿みたいに口をぽかんとあけていた。
「そ、そうだったの?」
『実を言うとね、若くして亡くなったお祖母ちゃんの娘、つまりお母さんの本当のお母さん、あなたの本当のお祖母ちゃんは……ああ、ちょっとややこしいわね。つまり、私を生んでくれた人はね、ある事情があって、結婚せずに私を生んだの。いわゆる未婚の母ね』
「シングルー・マザーね」
私は他人事のように軽く言った。なんとなく、話が突拍子もなくて、自分のこととは思えないのだ。
『……当時は世間もうるさいし、とくに田舎はねぇ……。それで、おもてむきはお祖母ちゃんお祖父ちゃんの娘として籍に入れられたの。で、祖父母をお父さん、お母さんと呼び、本当なら伯父に当たる人たちを、お兄さんと呼んで育ったのよ。本当にそう信じていて、何ひとつ疑うことなく過ごしていたわ』
母の言葉の語尾に、かすかな哀感がにじむ。
「……そ、それで、私の本当のお祖母ちゃんは、どうしたの?」
『亡くなったわよ。病気でずっと入院していたらしくて、私は全然おぼえていないんだけれど。たしか、私が三つになったかならなかった頃だったと思うわ……。冷たいようだけれど、』
母はそこでため息をひとつ電話のむこうで吐いたようだ。
『私ね、その人に関しては全然思い出もなくて、なにも感じないの。子どものころは、ただ私には歳のはなれたお姉さんがいて、気の毒に若くして亡くなったんだわ、ぐらいにしか思っていなかったわね。その事実を知らされたのは、結婚して実家を出ることが決まったときよ』
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