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新妻 五
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「男って、誰からだい? ここの男は所帯もちか爺ばっかりだぞ。しかも皆貧乏人ときている」
「だから、決まっているじゃない。旦那様よ」
男は、今度は声に出して笑った。
「おまえさん、考えすぎだよ。もしかしたらサリナは最近、トヨールでも飼っているんじゃないかい?」
「ふざけないでよ。あの子最近、みょうに色気づいてきて洒落てきたじゃない。男ができたに決まっているわ。絶対、つきとめてやるんだから。もし相手が旦那様だったら……、そうね、第一奥様じゃ話にならないから、第二奥様にすぐお知らせしなきゃ」
「第三奥様には?」
「あんなの、物の数にもはいらないわよ。呉家の厄介者じゃない。呉家はとんだ無駄飯食らいをしょいこんだもんだ、って言われてるんだから」
私はどうにか怒りを押さえて自室にもどった。腹立ちもひどいが、だがサリナの悪口よりも、料理人の男の言葉が私の気を強くひいた。
(トヨールでも飼ってるんじゃないか)
そうだ。今、わかった。
あれは、トヨールだったのだ。
子どものときから胃袋を下げて宙をまう吸血鬼ポンティアナや、悪戯好きな小鬼トヨールの伝説は乳母からよく聞かされた。
子どもにとっては、それらは決して幻影や昔語りではなく、風のつよい日には窓の外にポンティアナがいるのではないかと恐れたり、小銭がなくなると、それはトヨールにとられたのだと子ども同士ささやいたりしたものだ。
勿論、それらの伝説上の妖しは、ある程度大人になると遠い存在になっていくもので、迷信深い人でなければ、冗談半分で言うぐらいのものだが、私は確信を持って内心でつぶやいた。
そうだ、あれは……サリナが持っていった泥にまみれた塊は、トヨールの……雛だったのだ。
「だから、決まっているじゃない。旦那様よ」
男は、今度は声に出して笑った。
「おまえさん、考えすぎだよ。もしかしたらサリナは最近、トヨールでも飼っているんじゃないかい?」
「ふざけないでよ。あの子最近、みょうに色気づいてきて洒落てきたじゃない。男ができたに決まっているわ。絶対、つきとめてやるんだから。もし相手が旦那様だったら……、そうね、第一奥様じゃ話にならないから、第二奥様にすぐお知らせしなきゃ」
「第三奥様には?」
「あんなの、物の数にもはいらないわよ。呉家の厄介者じゃない。呉家はとんだ無駄飯食らいをしょいこんだもんだ、って言われてるんだから」
私はどうにか怒りを押さえて自室にもどった。腹立ちもひどいが、だがサリナの悪口よりも、料理人の男の言葉が私の気を強くひいた。
(トヨールでも飼ってるんじゃないか)
そうだ。今、わかった。
あれは、トヨールだったのだ。
子どものときから胃袋を下げて宙をまう吸血鬼ポンティアナや、悪戯好きな小鬼トヨールの伝説は乳母からよく聞かされた。
子どもにとっては、それらは決して幻影や昔語りではなく、風のつよい日には窓の外にポンティアナがいるのではないかと恐れたり、小銭がなくなると、それはトヨールにとられたのだと子ども同士ささやいたりしたものだ。
勿論、それらの伝説上の妖しは、ある程度大人になると遠い存在になっていくもので、迷信深い人でなければ、冗談半分で言うぐらいのものだが、私は確信を持って内心でつぶやいた。
そうだ、あれは……サリナが持っていった泥にまみれた塊は、トヨールの……雛だったのだ。
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