闇より来たりし者

平坂 静音

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洗礼 二

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 そして、それを珠鳳に強引に頼まれたサリナに売りわたし、サリナはそれを珠鳳にわたし、そうして珠鳳が手に入れたものが……どういう経緯でか、ミヨ、つまり私の曽祖母の手に入ったのだ。
 なんだか首筋が寒くなった。
 その後、珠鳳は自殺しているのだ。
「このトヨールは血塗られたものなのです」
 アレックスが低く、ささやいた。
「いえ、トヨールというものは全て血にまみれて作り出されるものです。まず、最初に死産や流産した赤ん坊の遺体や胎盤をつかって作られる。ときには、文中にもあったようにトヨール目当てに赤ん坊の遺体を掘り出したり、どこかから盗んできたり、なかには、お腹にいるときからすでにトヨールを作るための雛にしようとたくらむ女もいたでしょう。そしてボモーの技によって出来たトヨールにさらに命を吹きこみ、自分のしもべとしての絆を得るため、血をあたえる。鶏の血を使う場合もあるが、ときには自らの生き血をあたえることもある。その方が、トヨールとの繋がりがいっそう強くなるからです」
 ミヨのように……、とアレックスはつけたした。
「これは、私の推量で、根拠はないのですが、このトヨールはミヨから血の洗礼を受けた時点で、ミヨのものになってしまったのかもしれません」
 ミヨの……、お祖母ちゃんのものになった……。
 頭のなかでそう言ってみて、私は背筋がますますひんやりしていく気がした。
「そしてミヨの心に沿うように動き、珠鳳が引き出しに密封した後も、魔力でもってミヨのもとに向かい、ミヨの意向にそって、机ごとミヨの手元に入るようにたくらんだのかもしれません。トヨルール自身が」
 そんな、馬鹿なぁ……という言葉が出ない。
「呉家は事業に失敗して、珠鳳が亡くなってからすぐ主人も病死し、破産した家の借金の返済のため家財道具はすべて売却されたようです。そのとき、例の机も売り出され、ミヨが買ったようです。だが、そこに私は奇妙な目に見えないものの力を感じます。決して偶然ではなく、トヨールを欲しいと思うミヨと、ミヨの元に行きたいと願うトヨールの気持ちが一致したために起こりえたのではないかと」
 私は肯定も反論もできず、ただ、黙って聞いていた。
「言っていて、自分でも非現実的だとは思うのですが、そもそもトヨール自体が現在の科学や合理主義的な視点で見れば、まったくのお伽噺みたいなものですからね。妖怪や幽霊をまったく信じない人から見たら、トヨールなんていうものは、未開の国の無知な人間や、女子おんなこどもの他愛もない空想だと断言されてもしかたない。私だって、自分の祖父がボモーでなければ、また母に霊感があることを身近で知っていなければ、一笑に付したでしょう。だが……」
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