闇より来たりし者

平坂 静音

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因果 四

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 えーと、まず、どうやら、友之お祖父ちゃんは、長崎の舟木の家で働いていたという。
 それだけでも驚くことだけれど、お祖父ちゃんは、そこでお屋敷のお嬢さんである、私のお母さんのお母さん、つまりお祖母ちゃんを好きになって、なんというのか、夜這いみたいなことをしたらしい。レイプでは……ないよね。そうじゃないって信じたい。
 そして、生まれたのが、私のお母さん?
「それって……変じゃない?」
 だって、友之お祖父ちゃんは、お父さんのお父さん、つまり私にとっては父方の祖父になるはずなんだから。
吉久よしひさ伯父さん、つまり恵理ちゃんのお父さんは、お祖母ちゃんの連れ子だったんだ」
「へ?」
 私はまた目を見開いて、張りつめた肩の力をぬいた。
 一瞬、死ぬほど慌ててしまった。
「そ、そうだったの?」
「吉久伯父さんが二歳のときに、実父は亡くなって、旅館で中居の仕事をしていたお祖母ちゃんは、そこで下働きをしていた友之祖父ちゃんと知り合い、結婚したんだ。そして、僕の父である知久ともひさが生まれた」
 なんだかややこしい話で、私は頭がこんがらがってしまった。
「と、ということは、つまり、それが本当なら……、友哉君は舟木の家と繋がりがあるってこと? お母さんからしたら、えーと、母親違いの弟の子ってことになって、だから、つまりうちのお母さんと友哉君のお父さんは異母姉弟ってことになるの? で、友哉君のお父さんの知久叔父さんとうちのお父さんは異父兄弟?」
 私は混乱する頭を必死におさえて考えてみた。
「じゃ、私たちは、両親のどっちの縁から言っても、いとこってことになるの?」
 うん……。友哉君は小声でつぶやきうなずいた。
「そ、そんなすごい偶然ってある? 長崎から東京へ出てきて結婚した相手の連れ子が、かつて自分が好きになって子どもを生ませた女性、えっと、だから……つまり自分の娘と結婚するなんて。離婚したとはいえ、義理の息子と実の娘が結婚したってことでしょう? そんなすごい偶然てあるの?」
 半信半疑で私は言ってみたが、かえってきた友哉君の言葉にまたびっくりしてしまった。
「偶然じゃないんだ。忘れてないかい? 吉久伯父さんと、美沙みさ伯母さんは見合いで結婚したんだよ」
 あ……。私は文字通り鳩が豆鉄砲くらったような顔をしていた。
「その見合いを斡旋したのは、舟木の、もう亡くなったけれど、恵理ちゃんのお祖母ちゃん、正確に言うとひいお祖母ちゃんなんだよ」
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