闇より来たりし者

平坂 静音

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因果 五

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 そうだった。
「……じゃあ、お祖母ちゃんは、すべてて知っていて、それでお母さんと、お父さんを結びつけたの?」
 友哉君はうーん……と言って、眉をしかめた。そうすると、ひどく大人びて見える。
 特にハンサムっていうわけでも、かっこいいってわけでもないけれど、一瞬見せる大人の顔に私はちょっと気を引かれてしまった。
「僕はその舟木のお祖母さんに会ったことがないから、どういう人かわからないし、たしかなことは言えないけれど……つまり、こういうことじゃないかな。かつて娘と愛し合って子どもを成したけれども、結婚させてやれなかった男の義理の息子と、男の実の娘でもある自分の孫娘を結婚させることで、縁を繋げたかったのかも。舟木のお祖母さんは、友之祖父ちゃんが東京へ出てきてからも、仕事やお金のことで、時々援助してくれていたらしい。そもそも故郷を出るときにお金を用立ててくれて、最初の仕事先である旅館を紹介してくれたのは、舟木のお祖母ちゃんだったそうだからね」
「それも、友之お祖父ちゃんから聞いたの?」
「うん。友之祖父ちゃん、それについては舟木のお祖母ちゃんに感謝していた。世間が何と言おうが、あの人は優しい人だ、って」
 それは……嬉しい。でも、やっぱりお祖母ちゃんは世間からはかなり冷たい女だと、思われていたみたい。 
「子どものとき……うろ覚えなんだけれど……僕は小学生四年生ぐらいにはになってたかなぁ……?」
 やや頼りなさそうに目線をさまよわせ、友哉君は記憶を引きずりだそうとしているようだ。
「しかも、友之祖父ちゃんは、認知症が始まっていたころで……、当時の僕は祖父ちゃんの話を作り話かお伽話とぎばなしみたいに思っていたんだけれど……今でもどうにか覚えているよ」
 友哉君はたどたどしげに、友之お祖父ちゃんの口調を真似るようにして話してくれた。
 友之お祖父ちゃんという人が友哉君に伝えた話というのは、こういうものだった。

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