14 / 26
一章 第一部
一章 第一部 凄惨
しおりを挟む
「嘘…… だろ?」
明かりに照らされた『それ』を見て、僕の足は完全に止まってしまった。
猛烈な血のにおいは先ほどから感じておいたが、アヌビスにあんなかっこいいことを言った手前、我慢していたのだ。
しかし、そうしていられるのも、もう限界だった。
『それ』は、現実とは思えない、そんな物体だった。
「大、丈夫ですか…… 時雨さん…… 私にあんなかっこいいことをいってくださったんですから、もっと頑張ってくださいよ……」
僕を叱咤するアヌビスの声も、心なしか震えていた。
しかし、それを責めることはできない。
今、僕たちの目の前にあるのは、人の…… いや、この世界の人、つまり魔人の死体の山だった。
僕が気ほど小さな山だと思っていたテントたちの後ろにあったもの。
それは何百という魔人の死体の山だったのだ。
血のにおいはする。だが腐臭はしない。
つまり、あまり殺されてから時間がたっているわけではないだろう。
そして僕は、はっと一つのことに気がついた。
……柊や乃綾が、もしこの山の一部になっているとしたら?
「アヌビス! 柊と乃綾は!? 大丈夫かどうか分かるか!?」
柄にもなく大きな声を出してしまう。
しかし、そのときの僕はとても取り乱していた。
アヌビスの肩を掴み、乱暴に揺さぶる。
「なあ! 柊と乃綾はどうなんだよ! 何で下向いてるんだ! お前は神なんだろ! 分かるよな! なぁ!」
「……わかりません」
……思考が、真っ白になった。
いや、それはそれで良かったのかもしれない。
僕はアヌビスの肩から力なく腕を下ろし、そしてその場に膝をつく。
「こんな…… ことって……」
柊と乃綾のことも心配だが、一瞬思考が停止したおかげで、少し冷静になれた。
柊と乃綾がこの山の一部になっているとは限らない。そうだろう?
それに、これだけの死体だ。全員が真っ赤に染まっているのが炎に照らされていることで分かる。
この中から捜し物をするのは、不可能に近かった。
「……声の、主を探しましょう…… まだ誰か生きて……」
「やめろ!!!」
いるかもしれない、そう続けようとしたアヌビスの言葉は誰かが発した大声によって妨げられた。
「!? 今の…… 声は……?」
「あっちからです! 行きましょう!」
慌てるアヌビスに再度手を引っ張られて、僕は死体の山の隣を通過した。
「……止まります」
アヌビスの声に、僕は走る速度を少しずつ緩めていった。
どれだけ大きな声だったのか。
いや、距離的にはそこまで長くないのだろうが、この辺りには自然にできた石の塔みたいなものが多く、ぐねぐねと進んだから、とても長く走ったように感じる。
沢山ある岩の塔の一つにアヌビスは隠れ、僕もそれを真似た。
テント置き場から少し離れた場所。そこにぽつんと一つの松明と、二つの人影があった。
一人は何故かうずくまり、もう一人は何かを右手に持ち、掲げながらうずくまっている方に何かしゃべ りかけているようだった。
さて、あいつは何を持って…… い、る……?
じっと目をこらすと、それの形は容易に分かった。
しかし、脳が認識することを拒否している。
隣にいるアヌビスを見ると、青ざめた顔で口を押さえていた。
……認識するしかない。
その片方が持っているのは人の顔だった。
おそらく女性。いや、長い髪の男という線も考えられる。
「な、なあアヌビス…… デュラハンって、そこら中にごろごろいたりするの?」
震える全身をなんとかなだめようと、僕はアヌビスにおそるおそる聞いた。
まあ、答えは分かっているのだが。
「そんな…… デュラハンなんて希少種、大陸に一人いたらいい方ですよ……」
……やはりか。
片方の人影が持っているのは、正真証明、刈り取ったばかりの生首だった。
明かりに照らされた『それ』を見て、僕の足は完全に止まってしまった。
猛烈な血のにおいは先ほどから感じておいたが、アヌビスにあんなかっこいいことを言った手前、我慢していたのだ。
しかし、そうしていられるのも、もう限界だった。
『それ』は、現実とは思えない、そんな物体だった。
「大、丈夫ですか…… 時雨さん…… 私にあんなかっこいいことをいってくださったんですから、もっと頑張ってくださいよ……」
僕を叱咤するアヌビスの声も、心なしか震えていた。
しかし、それを責めることはできない。
今、僕たちの目の前にあるのは、人の…… いや、この世界の人、つまり魔人の死体の山だった。
僕が気ほど小さな山だと思っていたテントたちの後ろにあったもの。
それは何百という魔人の死体の山だったのだ。
血のにおいはする。だが腐臭はしない。
つまり、あまり殺されてから時間がたっているわけではないだろう。
そして僕は、はっと一つのことに気がついた。
……柊や乃綾が、もしこの山の一部になっているとしたら?
「アヌビス! 柊と乃綾は!? 大丈夫かどうか分かるか!?」
柄にもなく大きな声を出してしまう。
しかし、そのときの僕はとても取り乱していた。
アヌビスの肩を掴み、乱暴に揺さぶる。
「なあ! 柊と乃綾はどうなんだよ! 何で下向いてるんだ! お前は神なんだろ! 分かるよな! なぁ!」
「……わかりません」
……思考が、真っ白になった。
いや、それはそれで良かったのかもしれない。
僕はアヌビスの肩から力なく腕を下ろし、そしてその場に膝をつく。
「こんな…… ことって……」
柊と乃綾のことも心配だが、一瞬思考が停止したおかげで、少し冷静になれた。
柊と乃綾がこの山の一部になっているとは限らない。そうだろう?
それに、これだけの死体だ。全員が真っ赤に染まっているのが炎に照らされていることで分かる。
この中から捜し物をするのは、不可能に近かった。
「……声の、主を探しましょう…… まだ誰か生きて……」
「やめろ!!!」
いるかもしれない、そう続けようとしたアヌビスの言葉は誰かが発した大声によって妨げられた。
「!? 今の…… 声は……?」
「あっちからです! 行きましょう!」
慌てるアヌビスに再度手を引っ張られて、僕は死体の山の隣を通過した。
「……止まります」
アヌビスの声に、僕は走る速度を少しずつ緩めていった。
どれだけ大きな声だったのか。
いや、距離的にはそこまで長くないのだろうが、この辺りには自然にできた石の塔みたいなものが多く、ぐねぐねと進んだから、とても長く走ったように感じる。
沢山ある岩の塔の一つにアヌビスは隠れ、僕もそれを真似た。
テント置き場から少し離れた場所。そこにぽつんと一つの松明と、二つの人影があった。
一人は何故かうずくまり、もう一人は何かを右手に持ち、掲げながらうずくまっている方に何かしゃべ りかけているようだった。
さて、あいつは何を持って…… い、る……?
じっと目をこらすと、それの形は容易に分かった。
しかし、脳が認識することを拒否している。
隣にいるアヌビスを見ると、青ざめた顔で口を押さえていた。
……認識するしかない。
その片方が持っているのは人の顔だった。
おそらく女性。いや、長い髪の男という線も考えられる。
「な、なあアヌビス…… デュラハンって、そこら中にごろごろいたりするの?」
震える全身をなんとかなだめようと、僕はアヌビスにおそるおそる聞いた。
まあ、答えは分かっているのだが。
「そんな…… デュラハンなんて希少種、大陸に一人いたらいい方ですよ……」
……やはりか。
片方の人影が持っているのは、正真証明、刈り取ったばかりの生首だった。
0
あなたにおすすめの小説
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流
犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。
しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。
遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。
彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。
転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。
そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。
人は、娯楽で癒されます。
動物や従魔たちには、何もありません。
私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
元救急医クラリスの異世界診療録 ―今度こそ、自分本位に生き抜きます―
やまだ
ファンタジー
朝、昼、夜を超えてまた朝と昼を働いたあの日、救急医高梨は死んでしまった。比喩ではなく、死んだのだ。
次に目覚めたのは、魔法が存在する異世界・パストリア王国。
クラリスという少女として、救急医は“二度目の人生”を始めることになった。
この世界では、一人ひとりに魔法がひとつだけ授けられる。
クラリスが与えられたのは、《消去》の力――なんだそれ。
「今度こそ、過労死しない!」
そう決意したのに、見過ごせない。困っている人がいると、放っておけない。
街の診療所から始まった小さな行動は、やがて王城へ届き、王族までも巻き込む騒動に。
そして、ちょっと推してる王子にまで、なぜか気に入られてしまい……?
命を救う覚悟と、前世からの後悔を胸に――
クラリス、二度目の人生は“自分のために”生き抜きます。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる