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彼の時間 …10
しおりを挟む今日は、私の所属する総務課でも、ちょっと遅めの歓迎会が予定されている。
新しく入った新入社員は男女二名で、でも、私は受付勤務のためあまり接触がない。それでも、今日は、今泉さんも参加するという事と、後、幹太が駅まで迎えに来てくれるという事で、私もその歓迎会に参加する事にした。
「寧々ちゃん、彼は何時頃、迎えに来てくれるって?」
仕事を終え、更衣室で着替えをしている時に、今泉さんがそう聞いてきた。
「一応、九時頃って言ってあります」
「待ち合わせ場所は?」
今泉さんも幹太と同じで、私に関しては異常な程に心配性だ。
「北口のカフェの前で」
「了解!」
私が夜の闇が苦手だという事も、夜になると左目が機能しなくなるという事も、今泉さんは全部分かっている。もう一人の心配性の幹太が私の歓迎会への参加を許してくれたのも、今泉さんがいてくれるからだった。
「もう、了解って…
心配しないでも、大丈夫ですよ」
私はそう言って笑った。
歓迎会は、駅前に新しくオープンした洋風居酒屋を貸し切って盛大に行われた。その場所にはもちろん麻生さんもいて、私の隣は麻生さんと今泉さんでしっかり守られている。
「乾杯!」
まずはビールで乾杯をして、その後、この店の特製カクテルが女性にだけサービスで振る舞われた。そのカクテルは、私の大好きなストロベリー風味のカクテルで、ついつい二杯も飲んでしまった。お酒は強い方だと思っていたけれど、思いのほかカクテルのリキュールが強過ぎて、頭の中がグルグルと回っている。
そんな中、また新入社員の子達が、私のグラスにビールを注ぎに来る。とりあえず口をつけて半分ほど飲む。それを何度か繰り返している内に、飲み会の最後の方にはかなりヤバいくらいに酔っぱらって、私の目は完全に座っていた。
「寧々ちゃん、ほら、帰るよ」
歓迎会もお開きになり、元気な人達は二次会へ流れ込む。
でも、私は、今泉さんにもたれかかり、一次会で帰る事を皆に告げた。
「今泉さん、大丈夫? 僕も一緒に行こうか?」
私を抱えている今泉さんに、麻生さんがそう声をかけてきた。
「あ、うん。でも、大丈夫」
今泉さんはそう言いながらも、今泉さんにもたれかかる私を必死に抱きかかえている。
「いいよ。僕も一緒に行くよ。
二次会には少し遅れて行くって言ってあるし」
「あ、そうですか…」
私は二人のやりとりをぼんやりと見ていた。ぼんやりと見るだけで、その会話に割って入る元気はない。
二次会に移動する皆を見送って、私達は幹太の待つ北口のカフェへ向かって歩き出す。
その間に、今泉さんは寧々ちゃんの彼がそこに来ていると、麻生さんに説明していた。
麻生さんがどんな顔をしていたのか、私は分からない。朦朧とする中で歩くのだけで精一杯だったから。
「ほら、寧々ちゃん、着いたよ」
そう教えてくれたのは麻生さんだった。
今泉さんはカフェの中で待っている幹太を呼びに行っている。今泉さんの事だから、波風が立たないように、幹太に上手く伝えてくれているはず。私はそんな事を考えながら、麻生さんの肩にもたれ二人を待っていた。
「寧々、大丈夫か?」
あ、幹太の声だ。私のその声がする方へ手を伸ばした。
「初めまして、僕は、寧々さんと同じ総務課で働いている麻生と言います」
麻生さんは私の体を幹太に預けながら、そう自己紹介をした。
「あ、鈴木幹太と言います」
幹太がそう言うと、麻生さんは丁寧に頭を下げている。
「あの、こんな事を僕が聞くのもどうかと思うんですけど…
寧々さんの左目の事はご存知ですか…?」
私はぼんやりとした中で、麻生さんに知ってますと言おうとした。言おうとしたけれど、酔いが回っているせいで上手く言葉が出て来ない。
「知ってます」
幹太の声は小さかった。あ~、幹太は一体どういう顔をしているのだろう…
「それなら、安心しました。
余計なお世話だと思うのなら、そう思って下さい。
寧々ちゃんは、夜は苦手です。僕達には何も言わないけれど、夜になると全ての事に慎重になるし、臆病になる。
雨の日も元気じゃない。でも、干渉される事を嫌う寧々ちゃんだから、僕達は遠くから見守るだけで…
寧々ちゃんをよろしくお願いします。
僕も今泉さんも、寧々ちゃんの幸せをいつも願っています。
こんな風にしゃしゃり出て、本当にごめんなさい。
でも、寧々ちゃんの彼氏となる人には伝えておきたくて…」
私の中で麻生さんの声は子守歌のように響いていた。
麻生さんは本当にいい人…
私の事を陰ながらいつも応援してくれている。
「寧々ちゃん、私も麻生さんも帰るからね。
明日は金曜日で仕事だけど、大丈夫かな」
今泉さんの声も何となく耳に入ってくるくらいで、私の頭は半分睡眠状態らしい。今泉さんと幹太が何か喋っているけれど、その会話の中身はさっぱり分からなかった。
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