君の左目

便葉

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必ず、いつか …1

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高校三年生の春、というより、卒業したからもう高校生じゃないんだけど、「寧々を忘れない会」のメンバーは、今日はあの運動公園の桜並木の下で待ち合わせをした。
今日をもって、この毎年集まっていた「寧々を忘れない会」は解散する。優樹菜も雅也も隆志も、もちろん俺も、卒業と同時にこの街を離れていくから。

「最後の「寧々を忘れない会」は、皆で花見をしよう

桜にはまだちょっと時期が早いけど、私達の中で重荷になっているあの公園で、皆で寧々を思って笑いたいなって思ってま~す」

優樹菜からグループラインでそう回ってきて、俺もそうだなって思った。優樹菜の統率力が抜群なのか、俺達は律儀に、毎年四人で集まった。別に寧々の話をするわけでもなく、高校で四人ともバラバラになったせいで、話す話題には事欠かなかった。

でも、お開きの前になると必ず誰かが、寧々元気かな…?と言い出す。寧々の情報は、こんなに時間が経っているのに俺達の耳には何も入って来ていない。誰かが絶対に俺達の耳に入れないように操作してると、俺はそう思い込んでいる。
俺以外の三人は、あまりその事については深く考えてないようだけど、俺の寧々に会いたい気持ちは何も変わる事はなくて、だから、どうにかして寧々の居場所を自分で捜し出そうと心に決めていた。


「幹太、遅いよ~~」

美容師の専門学校に通う事になっている優樹菜は、ちょっと化粧もして俺達よりはるかに大人っぽいし可愛かった。ボクシングで花開いた雅也はスポーツ推薦で関西の大学に、賢い隆志は東京の大学に行く事になっている。

「幹太、合格、おめでとう~~
幹太の合格発表が一番遅かったもんね。
ま、国立だからしょうがないか」

隆志はそう言いながら、俺に缶ジュースを渡した。

「皆、揃ったから、とりあえず乾杯しよう~~」

優樹菜は本当に嬉しそうだ。あの小学六年生の春に、優樹菜が言い出したこのイベントは、俺達四人にとっては、とても大切なものになっていた。
寧々に会いたいけど会えない。寧々の元気な姿を見たいけど見れない。そんなジレンマを抱えながらも、この集まりで何だか心が癒された。俺達は寧々の事は忘れていない、それだけが、寧々のために俺達ができるたった一つの事だった…

俺達は、これからの新しい生活の話や、希望や夢の話を一通り話した。半分大人になった俺達は、この小さな街を離れそれぞれの居場所を求めて巣立って行く。東京の大学に行く隆志が俺にこんな事を言った。

「幹太、俺、東京に行ったら寧々を捜すよ。
幹太のためにも、いや俺達四人のためにも、寧々を捜し出して寧々が元気に頑張ってるってこの目で確かめる」

風の噂は寧々の色々な話を運んで来た。目が見えなくなったとか、下半身不随になったとか、酷い時にはもう死んでしまったとか。
俺の寧々への想いをこの三人は自分の事のように受け止めている。それがこそばゆかったり、嬉しかったり、俺の気持ちは複雑だった。

「…うん、何か、寧々の事が分かったらすぐに教えてほしい。
元気にしてるか、マジで気になるから…」

寧々を忘れない会は、こうやって最後の役目を果たした。これからは自分の心の中で寧々を思い出せばいい。いつか、必ず会える日を信じて…

雅也と隆志は、この後に用事があるらしく先に帰って行った。
まだ七分咲きの桜の下で、俺は優樹菜と久しぶりに二人で話した。
中学三年生の春の集まりの日、俺は優樹菜にこっぴどく叱られた事がある。幹太は何でも一人で背負い過ぎだって、私達が側にいる事がちゃんと見えてる?って。
俺は何だかふとその事を思い出して、ちょっと笑った。

「…幹太、これから先、どうするの?」

「これから先?」

「寧々の事だよ…」

俺は、あ~と言って頭上に見える桜の花を見上げた。時間は確実に流れている。だって、あの頃は怖くて近寄れなかったこの公園にさえ、今はこんな風に花見に来れるくらいだから。でも、時間の流れと俺の気持ちは比例してない。それは、誰よりも自分が一番に分かっていた。

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