君の左目

便葉

文字の大きさ
56 / 69

彼の未来 …4

しおりを挟む



幹太はまだ難しい顔をしている。どうしたものかと未だ迷っているみたいに。

「私は、親の承諾がなくても、幹太と結婚したいって思ってる…
でも、幹太は、きっと嫌でしょ…?
ちゃんと、私の親にも認めてもらいたいと思ってる。

だったら、私にも協力させてほしい。
私が一番よく知ってる人達なんだから…」

幹太はやっと笑顔を見せた。でも、その笑顔は、何だかため息の後に出てくる切ない笑みと一緒だった。

「子供の頃の俺は、寧々の両親が本当に憎かった。
寧々に謝りたいって心から思ってるのに、寧々がどこに居るのかも分からないし、寧々が元気にしてるのかさえ分からない。
寧々の両親が、俺の事を憎んでる事は、子供ながらに分かってた。

でも、今なら、寧々の両親の気持ちが分かるんだ…
あんな大きな事故に遭って、左目の視力を失くしてしまった。幸いな事に、寧々本人はその頃の記憶を失くしてしまってる。

もし、俺と寧々が結婚して、二人に娘が出来て、そんな目にその子が遭ったとしたら、俺だって同じことをしてたかもしれない。
その子をそれ以上傷つけたくないって思うのは、普通の事だよ。

俺は…
俺にできる事は、ただ謝る事だけだと思ってる…
お母さん達の大切な娘の左目を奪ってしまったのは、間違いなく俺なんだから」

私は大粒の涙を目に浮かべて、幹太の事を睨んだ。

「また言った…
自分を責めるみたいな事は言わないって約束したじゃん…」

私は悔しくて涙が止まらない。私の左目が見えなくなったのは、誰のせいでもないのに…

「俺は、どうでもいいんだ…
俺は、寧々と死ぬまで一緒にいたい…
でも、寧々のご両親から、寧々の事を奪ってまでなんて考えてない。
校長先生が教えてくれたんだ。
人生には何事もタイミングがあるって。
十五年かかったけど、俺にとっては、今が、そのタイミングだと思ってる。
誠心誠意心を込めて、寧々のご両親に謝るための…」

幹太は、泣きじゃくる私を自分の胸に引き寄せた。

「寧々がそんなに泣く事はないよ。
俺は考えてみれば、小学生の頃からこの時のために準備してきたのかもしれない。
校長先生に、上手い事騙されたのかもしれないけど、あの時の校長先生の言葉はずっと俺を支えてくれたと思ってる。

だから、きっと大丈夫…
校長先生がそう断言してくれたからさ」

私は幹太の胸に顔を押し付けたままで、もう一度幹太に聞いてみた。

「幹太、私の方からも、お母さん達に話していいでしょ?
その方が絶対にいいから…
娘の私が言うから、間違いないよ…」

幹太はフッと笑って私の髪にキスをした。
「無理すんなよ…」って、優しく囁きながら。

そして、ゴールデンウィークも終盤に入った祝日のある日、幹太は朝早くから仕事へ出掛けた。今日は、幹太と同じ担当の先輩が家族サービスのために休みを取っているらしく、そのため、幹太の帰りはかなり遅くなるという事だった。

「千葉に泊まってきていいんだからな」

今日、私が日帰りで両親の元へ行く事を知っている幹太は、出掛け際にそう言った。

「ううん、帰って来る。
あまり遅くならないようにするから」

幹太は玄関先で私に優しくキスをした。

「じゃ、遅くなったら俺に連絡する事。
どっか近くの駅で待ち合わせして、一緒に帰ろう」

私は笑顔で頷いた。夜の街を一人で歩かせたくない心配性の幹太の一面が、今では素直に嬉しかった。
私は幹太を見送った後、支度を済ませてすぐに家を出た。お母さんには午前中に着くと伝えている。毎年、ゴールデンウィークにはよくある日常。この時期に、私が千葉の家を訪れる事は珍しい事ではない。
快速電車から普通電車に乗り換えた辺りから、海と畑の風景が交互に続く。
私はぼんやりとその風景を見ながら、今日、何をどう伝えようかとずっと考えていた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

【完結】時計台の約束

とっくり
恋愛
あの日、彼は約束の場所に現れなかった。 それは裏切りではなく、永遠の別れの始まりだった――。 孤児院で出会い、時を経て再び交わった二人の絆は、すれ違いと痛みの中で静かに崩れていく。 偽りの事故が奪ったのは、未来への希望さえも。 それでも、彼を想い続ける少女の胸には、小さな命と共に新しい未来が灯る。 中世異世界を舞台に紡がれる、愛と喪失の切ない物語。 ※短編から長編に変更いたしました。

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

熱い風の果てへ

朝陽ゆりね
ライト文芸
沙良は母が遺した絵を求めてエジプトにやってきた。 カルナック神殿で一服中に池に落ちてしまう。 必死で泳いで這い上がるが、なんだか周囲の様子がおかしい。 そこで出会った青年は自らの名をラムセスと名乗る。 まさか―― そのまさかは的中する。 ここは第18王朝末期の古代エジプトだった。 ※本作はすでに販売終了した作品を改稿したものです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...