君の左目

便葉

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彼の未来 …4

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幹太はまだ難しい顔をしている。どうしたものかと未だ迷っているみたいに。

「私は、親の承諾がなくても、幹太と結婚したいって思ってる…
でも、幹太は、きっと嫌でしょ…?
ちゃんと、私の親にも認めてもらいたいと思ってる。

だったら、私にも協力させてほしい。
私が一番よく知ってる人達なんだから…」

幹太はやっと笑顔を見せた。でも、その笑顔は、何だかため息の後に出てくる切ない笑みと一緒だった。

「子供の頃の俺は、寧々の両親が本当に憎かった。
寧々に謝りたいって心から思ってるのに、寧々がどこに居るのかも分からないし、寧々が元気にしてるのかさえ分からない。
寧々の両親が、俺の事を憎んでる事は、子供ながらに分かってた。

でも、今なら、寧々の両親の気持ちが分かるんだ…
あんな大きな事故に遭って、左目の視力を失くしてしまった。幸いな事に、寧々本人はその頃の記憶を失くしてしまってる。

もし、俺と寧々が結婚して、二人に娘が出来て、そんな目にその子が遭ったとしたら、俺だって同じことをしてたかもしれない。
その子をそれ以上傷つけたくないって思うのは、普通の事だよ。

俺は…
俺にできる事は、ただ謝る事だけだと思ってる…
お母さん達の大切な娘の左目を奪ってしまったのは、間違いなく俺なんだから」

私は大粒の涙を目に浮かべて、幹太の事を睨んだ。

「また言った…
自分を責めるみたいな事は言わないって約束したじゃん…」

私は悔しくて涙が止まらない。私の左目が見えなくなったのは、誰のせいでもないのに…

「俺は、どうでもいいんだ…
俺は、寧々と死ぬまで一緒にいたい…
でも、寧々のご両親から、寧々の事を奪ってまでなんて考えてない。
校長先生が教えてくれたんだ。
人生には何事もタイミングがあるって。
十五年かかったけど、俺にとっては、今が、そのタイミングだと思ってる。
誠心誠意心を込めて、寧々のご両親に謝るための…」

幹太は、泣きじゃくる私を自分の胸に引き寄せた。

「寧々がそんなに泣く事はないよ。
俺は考えてみれば、小学生の頃からこの時のために準備してきたのかもしれない。
校長先生に、上手い事騙されたのかもしれないけど、あの時の校長先生の言葉はずっと俺を支えてくれたと思ってる。

だから、きっと大丈夫…
校長先生がそう断言してくれたからさ」

私は幹太の胸に顔を押し付けたままで、もう一度幹太に聞いてみた。

「幹太、私の方からも、お母さん達に話していいでしょ?
その方が絶対にいいから…
娘の私が言うから、間違いないよ…」

幹太はフッと笑って私の髪にキスをした。
「無理すんなよ…」って、優しく囁きながら。

そして、ゴールデンウィークも終盤に入った祝日のある日、幹太は朝早くから仕事へ出掛けた。今日は、幹太と同じ担当の先輩が家族サービスのために休みを取っているらしく、そのため、幹太の帰りはかなり遅くなるという事だった。

「千葉に泊まってきていいんだからな」

今日、私が日帰りで両親の元へ行く事を知っている幹太は、出掛け際にそう言った。

「ううん、帰って来る。
あまり遅くならないようにするから」

幹太は玄関先で私に優しくキスをした。

「じゃ、遅くなったら俺に連絡する事。
どっか近くの駅で待ち合わせして、一緒に帰ろう」

私は笑顔で頷いた。夜の街を一人で歩かせたくない心配性の幹太の一面が、今では素直に嬉しかった。
私は幹太を見送った後、支度を済ませてすぐに家を出た。お母さんには午前中に着くと伝えている。毎年、ゴールデンウィークにはよくある日常。この時期に、私が千葉の家を訪れる事は珍しい事ではない。
快速電車から普通電車に乗り換えた辺りから、海と畑の風景が交互に続く。
私はぼんやりとその風景を見ながら、今日、何をどう伝えようかとずっと考えていた。

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