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彼の未来 …5
しおりを挟むとにかく、この間、旅行で買ってきたお土産を渡そう。
そこからどういう風に会話が進んでいくのか、それはもうその場の雰囲気に任せるしかない。私がはっきりと伝える事は、幹太と結婚するという事。それだけは何があっても譲れない。だから、私達の未来を温かく見守ってほしいと強くお願いするつもりでいる。
「寧々、いらっしゃい」
駅へ着くと、お母さんの運転で、夫婦仲良く私を迎えに来てくれていた。
私は緊張のためか何だか二人によそよそしい。
そんな私の事を気付いているのかいないのか、お母さんは颯爽と車を走らせた。
家に着くと、リビングのテーブルの上にはお母さんの十八番が置いてある。
私は、そのお菓子を見て胸がギュッと痛くなった。幹太も大好きなお母さんの十八番… そして、私はもう一度覚悟を決めた。私達は何も悪い事はしていない。幹太は最高にいい人で、そんな最高にいい人に愛されている私は幸せ者だという事を、二人にちゃんと分かってもらいたい。
「今日はね、あんまり時間がないんだ…
夜ご飯はいらない、夕方には帰るつもりだから」
お父さんが寂しそうに私を見る。私はそんなお父さんから目を逸らした。
「お昼は、じゃあ、どこかに食べに行く?
家で食べてもいいように、準備はしてあるけど」
お母さんは早口でそう言った。
私はそんなお母さんを見て、いつもの笑みを浮かべた。
「家でいいよ。
お母さんの料理が食べたい」
料理好きなお母さんは待ってましたとばかりに、昼食の準備を始めた。時計はもう朝の十一時をとうに回っている。
私はソファに座り、以前より年を取った二人をそっと眺めた。二人を見ていたら、急に涙がこみ上げてきた。
幼い頃の私のあの事故は、ここにいる二人を死ぬほど苦しめた。まだ、十歳の輝かしい未来が待っている、大切な娘の左目の視力を失くした。その時の二人の気持ちを考えると、胸が詰まって息ができなくなる。
私は小さく深呼吸をした。だからこそ私が幸せになる事に価値がある。私の幸せな姿を見せる事が、きっと、二人への恩返しになる。
私は自分にそう言い聞かせた。幹太のためにも、そしてここにいる両親のためにも、私がしっかりしなければ全てが前へ進めない。
早めの昼食を済ませた私達は、ソファに場所を移してお茶をする事にした。お父さんがコーヒーを淹れるため席を立った時、私も旅行で買ってきたお土産の箱をテーブルに置いた。
「この間、旅行してきたお土産……
お団子だから、一緒に食べよう」
私のその箱を差し出す手が震えている。お母さんは紙袋からその団子の入った箱を取り出した。
「え? どこに行ってきたの?」
お母さんの目が一瞬で見開いた。だって、それは誰もが分かるその土地の有名な団子のお菓子で、その土地に住んだ事のあるお母さんなら、なおさら分かるはず。
「お、お父さん、これ…」
お母さんはそう言って椅子に座り込んだ。
お父さんはその箱をチラッと見て、すぐに私を見た。
「旅行って…
あの街に行ったのか…?」
お父さんはとりあえず三人分のコーヒーをそれぞれの前に置いた。そして、お母さんの背中を優しくさする。
「彼氏との旅行だったんでしょ…?」
お母さんは自分を落ち着けるために、胸に手を当てながら私にそう聞いた。
「…うん」
私も必死に自分の心臓をなだめる。ドキドキとうるさい心臓の高鳴りを息を吸いこんで聞こえないように蓋をする。
「お父さん、お母さん、私ね、今、すごく幸せなの…
恋人ができて、愛する事と愛される事の素晴らしさを、この歳で初めて知った。
その人は私の事を何でも知ってて、どんな事でも許してくれて、私を本当に愛してくれてる…
だから、私」
「その人は、どこの人?
市役所の方? 寧々と知り合うくらいだから、地元の人かしら?」
お母さんも動揺しているのか、私の話をちゃんと最後まで聞かずに自分の質問をかぶせてくる。
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