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桜の頃 …7
しおりを挟む流人は、研修センターと呼ばれるだだっ広い大広間の上座に、一人で座らされた。
きっと、島の有力者が全員揃っているのだろう。
流人の両側には、年配の貫禄のある男性陣がずらっと並んでいた。
きゆは、流人から遠く離れた下座の方に座っている。
家に帰って着替えてきたらしく、濃紺の清楚なワンピースを着ていた。
流人はこのようにかしこまった場は苦手だ。
大病院の息子に生まれたせいか、こういう窮屈な集まりの場によく連れて行かれた。
小さな頃はよく抜け出して、父親にこっぴどく叱られたものだ。
でも、大人になった今でも、隙あらば抜け出したいと真剣に考えている。
「では、池山流人先生に一言いただきたいと思います」
……またか。
流人は立ち上がり深々と頭を下げ、営業スマイルを貼りつけた顔で頭を上げた。
「一年という短い間ですが、皆様のお役に立てるよう頑張っていきたいと思っています。
今日、この島に降り立って、一目で気に入りました。
僕にとっても、いい経験になると思います。
よろしくお願いします」
流人はまた深々とお辞儀をして、頭を上げると同時にきゆを見た。
……は? あいつは誰だ?
流人の席から、きゆの席はよく見える。
たった一人、ど真ん中の上座に座っているわけだから、きゆと言わず全ての人を見下せる。
流人は、きゆの隣に座っているこの場で唯一の若い男が気になってしょうがなかった。
そんな流人の元に役場に勤める女性三人組がお酌に来た。
女性三人組と言っても、流人の母親位の年配の女性だ。
「流人先生、本当にこの島の来てくれてありがとうございます。
こんなイケメンの若い先生で、もう、私達、島の女性は久しぶりにドキドキしてるんですよ」
「いやいや、イケメンだなんて……
ありがとうございま~す」
流人は女性を目の前にすると、基本、明るくなるし、盛り上げたいと気負ってしまう。
それがチャラ男と呼ばれる所以であることは分かっている。
でも、そうなる自分が嫌いではないし、この特性は色々な意味で役に立つことが多かった。
「本当に、この何か月でこの島の若い人の人口が増えて、みんな喜んでるんですよ。
年末には足立さんの所のきゆちゃんが、綺麗な美人さんになって帰ってきてくれるし、村の大人達は瑛太と一緒にさせなきゃって躍起になってるんです」
「瑛太??」
流人はもうピンときた。
きゆの隣を陣取っているあの男が瑛太に違いない。
「きゆちゃんの幼なじみでね、小っちゃい時から仲が良くって一緒に育ったようなものなのよ。
瑛太はこの島で消防隊員として頑張ってくれてるんだけど、何せ出会いが全くない場所でしょ。
きゆちゃんが帰ってきて、一番瑛太が喜んでるの。
そんな瑛太を見て、この島の大人達はどうにかしてあげなきゃって色々考えてる。
これは二人には内緒ね」
……内緒って。
流人はきっと、無愛想で意地悪な顔になっている。
こんな話を聞かされて心中穏やかでいれるはずがない。
……瑛太ときゆをくっつける? そんなことあり得ないですから。
「そう、だから、先生にお願いがあって。
先生も独身でしょ?
あんな可愛らしいきゆちゃんが四六時中一緒いれば、先生だってきゆちゃんに惚れちゃうかもしれないけど、そこは、グッと堪えて下さいね。
きゆちゃんには瑛太がいるので…
よろしくお願いします」
流人は目を細め、確実に不機嫌な顔をしている。
「でも、もしもですよ。
もしも、僕がきゆさんを気に入って、そして、きゆさんも僕を気に入ったら?」
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