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花冷えの頃 …2
しおりを挟む年明けの最初の診療日ということで、病院を訪れる人はほとんどが年始の挨拶に来る人ばかりだ。
院長夫妻も午前中で病院での用事を済ませ、午後からは自宅へ戻った。
流人ときゆはいつものように二人になり、そしてこの病院での二人っきりが懐かしいような甘酸っぱいようなそんな不思議な気分になっていた。
「これからは、この二人の時間を大事にしなきゃね。
今までは二人が当たり前だったけど、今日からはそうじゃなくなったから」
きゆは久しぶりにかぶるナースキャップが凄く可愛かった。
今までは邪魔とか暑いとか言ってかぶらないことが多く、流人はその度に残念がった。
でも、今日は、きゆに言わせれば時代錯誤の看護婦さんになっている。
流人は何度見ても、きゆのその姿に心が踊り癒された。
「きゆ、きゆは何でそんなに可愛いんだ?」
きゆは照れ笑いして可愛いらしいポーズをとる。
「ねえ、ちょっとここに来て」
流人は自分が座っている椅子の近くに丸椅子を持ってきて、その椅子の座面をポンポンと叩いた。
きゆがその椅子に座るとすぐに、流人はきゆの手を握りしめる。
「きゆ、聞いてほしいことがある…」
きゆは流人の切羽詰まった顔を見て、胸がざわつくのを感じた。
「俺、来週に東京へ帰ることにしたんだ。
急だけど……」
「え?? 来週…?」
きゆは動揺を隠し切れない。
自分勝手で思い込んだら即行動に移す流人の性格はよく知ってはいるけれど、きゆに関してはいつも穏やかできゆの意見を尊重してくれた。
「帰るって…?
だって、まだ、ここの病院でする事があるのに…?」
きゆはそう聞くことが精一杯だった。
不安の波が少しづつ近づいてくるのが分かる。
「ごめん……
何も相談もしないで…
でも、俺自身、死ぬほど考えた。
この先、どう進んで行こうかと。
まずはこの島に残ることも真剣に考えた。でも、それはきゆが望んでいない。
俺がどういう道に進んでいくにしても、きゆが俺の側にいるってことが絶対なんだ。
帰るっていっても3月まではこの病院の職員だから、何回かはここへ帰って来るよ。
院長先生に言われたんだ…
君が守るものはこの島の病院じゃないって…」
流人はもう一度きゆの手を力強く握りしめた。
「俺が守るものは、俺の親父が必死の思いで築きあげた病院だ。
それはきゆの思いも一緒だろ?
まずは親父達をもう一度説得に行ってくる。
誠心誠意、真心をこめて話してくる。
あと、急にこの病院に来るわがままを許してくれたスタッフ達とも話してくるよ。
ちゃんと謝りたいし…
そして、俺が、この先どう進んで行くべきなのか、もう一回真剣に考えてみる」
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