イケメンエリート軍団の籠の中

便葉

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籠の中に住む意地悪な奴

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 トオルが分かりづらい設定をポンポンと操作すると、舞衣のページの自己紹介欄が画面に出てくる。


「ここに英語で自己紹介を書いて。
 何でもいいよ。
 とりあえずは、名前とニックネームと頑張りますみたいな感じで」


 舞衣は言われるままに、英語の文章で簡単な自己紹介を打ち込んだ。


「舞衣、ソフィアからもらった資料にEOCコインの説明はなかった?」


「EOCコインですか?
 あ、そういえば、架空通貨がどうのって書いてあったのを覚えてます」


「お、偉い! ちゃんと勉強してたな。
 そう、架空通貨もしくは仮想通貨って言われてる。
 日本のシステムで分かりやすく言えば、ポイントみたいなもの。
 ポイントを貯めれば、その系列のお店でお金として使えるシステムがあるだろ。
 EOCコインっていって、この会社系列の企業でそういう事をやってるんだ」


 トオルはそう言いながら、舞衣の自己紹介欄の公開ボタンを押した。


「舞衣のこのページは、今、EOCの全ての支社とグループ企業のサイトで公開になってる。
 見ててごらん」

 舞衣がそのページを見ていると、いいねのグッドマークがどんどん増えている。


「ま、SNSのいいねボタンだと思ったらいい。ほら、コメントも増えてきてるだろ?」


 舞衣は楽しくて嬉しくて、その画面に釘付けだった。
 色々な国の名前も知らない人達が「ようこそ」とか「頑張ってね」とか励ましのコメントをくれることが信じられなかった。


「このグッドもEOCコインと同じなんだ。
 1グッドが10ドルだから、今の日本円でいったら1500円くらいかな」


 舞衣は口があんぐり開いてしまった。

 グッドマークの1つが1500円???
 私の知ってるポイントカードは1ポイントは1円なのに~~
 

「ほら、ジャスティンやらここの皆がコメントつけてるよ」


 舞衣はどんどん増えていくコメントに目が釘付けだ。コメントと一緒にグッドマークもどんどん増えていく。
 もう軽く10グッドを超えている。10グッドって15000円??


「これは新入社員への投げ銭みたいなものだから。そんな息をするのも忘れるくらいに驚かなくていいよ」


「で、でも、トオルさん、あっという間に50グッド超えてます……」


 舞衣の声はわなわな震えている。トオルはそんな舞衣を見て、ゲラゲラ笑った。


「そんな驚くことはないから。ここらへんの企業になったら、こんなのはよくあること。
 舞衣ちゃんも早く慣れなきゃ」


 い、いや、中々慣れないです…


「アバンクールヒルズTOKYOに入ってる全店舗でこのコインは使えるからね。
 だから、今日の歓迎会のために、空いてる時間で洋服を買ってお洒落をすること。
 今夜はこのビルの54階のバーで歓迎会をするから、ちょっとだけお洒落した方がいいと思う。
 映司がつき合うって言ってたよ」


 え、映司さんが……
 それは、違う意味でちょっと怖いかも……


「あ、ほら、舞衣、コメント欄見てみて。
 こわ~~い凪からコメントがきてる。
 了解の一言だし、あいつらしい~~~」


 トオルはそう言いながら笑っている。でも、舞衣はその横につけられたグッドマークに鳥肌が立っていた。


「ト、トオルさん、凪さんからのグッドの数……
 ひゃ、ひゃっこなんですけど~~~」






「映司さん、本当に本当にこのコインで買い物してもいいんですか?」


 舞衣はまるで夢の中にいる感覚だった。
 今日初めて出社して、皆、初対面の人ばかりなのにこんなにコインをいただいて、そのコインを使って買い物をするなんて、一般人の常識からはあり得ないことだから。それもこんな超一流のブランド店で。


「いいの、いいの。
 EOCの人間ならこれが常識だから。
 マイマイの前にいた鶴谷さんなんて、コインを貯めて海外旅行とか行ってたよ。
 マイマイもじき慣れるさ」


「……そうなんですか。
 いや、でも、やっぱり、凪さんからのグッドの数は多過ぎだと…
 お返しするとかできないんでしょうか?」


 映司はショーウィンドーに飾られているワンピースを見ては、舞衣の姿を見て考えている。


「マイマイ、大丈夫だよ。凪の事は気にしなくていい。
 いい事教えてあげる。
 凪にとっての10万円は、マイマイにとっての100円と一緒なんだ」


「100円??」


 映司はそんな事どうでもいいみたいな顔をして、舞衣をまた違うブランドショップに連れて行く。映司が店に入ると、全ての女性スタッフが映司の周りに寄ってくる。

 “EOCの映司さんよ”とか“めちゃくちゃカッコいい”とか、舞衣にとってはモデルさんより綺麗だと思うスタッフの人が、映司の事を目をハートにして見ている。

 舞衣は少し恥ずかしくなった。見た目はもちろんのこと、気品さも育ちの良さも何も持ち合わせていない自分が恥ずかしくなった。


「マイマイ、僕が全部決めちゃっていい?」


「…はい」


 映司さん、もう何でもいいですので、早く帰りましょ…
 このショップのお姉さま達の目が痛くてしょうがないです。
 なんでこんな可愛くない女の子を連れてるの?って…

 可愛くない……

 あ、私、まだ開き直れてない……
 意地悪な凪さんに言われた言葉が、まだ心に刺さってるみたい…


「マイマイ、可愛いよ。めっちゃ、似合ってる!」


 私にとってはとても背伸びをした大人っぽいワンピース…
 でも、映司さんが私のために選んでくれたんだもの、うん、これでいいです。


「映司さん、選んでくれてありがとう…」


 ちょっとだけ、ううん、かなり大人びてるワンピだけど、この世界で生きていくにはこのワンピを着こなす努力をしなきゃいけないみたい……



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