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入籍記念日
…6
しおりを挟む風磨は私の動揺を見逃す事なく、舐めるように観察している。
でも、そんな事を単刀直入に聞かれたら、誰だって顔を赤くするし、挙動不審になってしまう。
世の中の真面目な女性なら、この反応は何も特別な事じゃない。
それでも、それなのに、私の困惑と動揺は中々治まらなかった。
「風磨、そんな事、まひるに聞く事じゃないだろ…?
そんなまひるを困らせるような質問は、やめてほしい」
風磨はミチャを見て、わざとらしくため息をつく。
「ミチャ、もう少し演技のできる彼女にした方がよかったかもしれないな。
おばさん達は騙せても、俺は騙せないよ。
俺のミチャへの想いは何も変わる事はない。
だから、今までどおりの俺でいるから」
風磨はそう言うと、私のグラスにカチンと自分のグラスを重ねて、私の耳元でとりあえずおめでとうと言った。
そんな風磨を見て、ほとほと参ったみたいなため息をつくミチャは本当に気の毒だ。
そして、風磨が他の招待客の人達と話し始めたのを確認して、私はミチャに囁いた。
「攻略法を練り直さなきゃ…」
ミチャは穏やかに笑った。
この優しいまなざしに風磨を騙し切る勇気が備わっているのかまだ何も分からないけれど、でも、私はミチャを助けたい。
だって、私は、ミチャが思いついたとんでもない計画にもう乗っかってしまって、そして、ミチャという美しい人間を知ってしまった。
それが、この先の自分の人生にどういう影響を及ぼすのか、それもまだ何も分からないけれど。
風磨はミチャが私から離れるのを待って、また、私に近づいてきた。
飲み過ぎたのか、顔が少し赤くなっている。
「まひるはミチャのどこに惚れたの?」
風磨って気が優しくて力持ちタイプなのだろう。
だから、きっと、ミチャが強気に出れない。
風磨の横顔はミチャの横顔とは対照的で、きりっと釣りあがった目元は男らしさを強調している。
でも、風磨は男の人が好き…
「ミチャの穏やかな笑顔が好き。
ありきたりだけど、ミチャの醸し出す全てが好き。
ミチャの持っている雰囲気は、私には絶対に無いものだから」
風磨はふ~んと冷めたふりをしている。
ミチャの事は俺の方がよく知ってるんだって、目で訴えながら。
「ミチャが考える事なんて容易に想像できるよ。
でも、まひるという人間は意外だった。
俺以外の単純な男どもだったら、完璧に騙せたかもな」
「え、意外って?」
私は、実を言うと、風磨の野性的な感性と女性的な表情に少し惑わされている。
こういう類の人間に、芸術を愛する人間は、たぶん、かなり、めっぽう弱い。
心に闇を持っている人間こそ、描きたい欲望が湯水のように湧き出てくる。
でも、その前に、風磨が思う私の印象を聞きたい。
風磨に私ってどう見えてるのかな…
「意外というか…
ちょっと恐怖を感じてる。
今まで、ミチャの周りに、まひるみたいな女の子はいなかったから。
その独創的なセンスと感性と夢を追うストイックな精神に、魅力を感じる男は多いと思うよ。
ミチャも含めて」
私はブンブンと首を横に振った。
「それはない、ない。
今まで、モテたなんて思った事は一度もない。
それは、きっと、この独創的で強烈な感性とセンスのせい。
皆、私の本性を知って逃げていきます」
「ミチャは?」
私はハッとした。
風磨の誘導尋問にまんまと引っ掛かりそうになっていた。
今の話の流れなら、私の恋人にミチャは含まれていない。
「あ、ミチャは、まだ、大丈夫みたい…」
風磨は左側の口角だけを上げて笑って見せる。
「まひる、俺はミチャを愛してる。
俺がこの世界に生を受けた意味が、例えば愛する人に出会うためだったとするなら、その相手はミチャだと思っている」
「で、でも、ミチャはそうは思ってない…」
ミチャが言って聞かせられないのなら、私が風磨に言って聞かせるしかない。
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