はじまりと終わりの間婚

便葉

文字の大きさ
19 / 97
七夕の日

…5

しおりを挟む



ミチャと私は並んで、風磨と先輩を眺めていた。
風磨は、先輩のスマホに収められた男性のコスプレ衣装の画像を念入りにチェックしている。
すると、風磨は急に笑い出した。

「ミチャにいいやつを見つけた」

風磨はそう言いながらミチャの隣に座り、先輩のスマホをミチャに見せた。
ミチャはその画像を見て、子供のように喜んでいる。

「何? 何?」

私と先輩もそのスマホを覗き込む。
すると、そのコスプレ画像は、鉄腕アトムに出てくるお茶の水博士を真似ているものだった。

「唯一、ミチャが尊敬する人。
それは、アトムを作ったお茶の水博士」

風磨の説明に、ミチャは恥ずかしそうに頷いた。

「古いアニメだったけど、CSでやってて何度も何度も観たのは確か。
僕は、アトムより、博士の方に夢中になった。
小さかった僕のために両親が鉄腕アトムの漫画を全部買い揃えてくれて、その漫画もすり減るほど読んだ」

風磨は先輩に目配せしている。
私は二人の怪しい動きを見逃さない。

「ミチャはお茶の水博士を愛してるけど、コスプレはしません!」

すると、風磨がミチャの腕を掴んだ。

「俺はワンピースのルフィに変身するけど、ミチャはどうする?」

「風磨はルフィが大好きだもんな」

ミチャは上手く風磨の質問をはぐらかす。
ほら、ミチャはコスプレなんてしたくない。

「道也さんがお茶の水博士に変身したいのなら、私、それ風の衣装は持ってきてますけど、どうします?」

先輩、無理強いはやめてって言いましたよね?
私は心の中でそう叫びながら、視線を逸らす先輩の事を睨んだ。

「いや~、でも、僕以外のみんながコスプレをするのなら、僕も合わせた方がいいのかな…」

ミチャは全く乗り気じゃない。
でも、ミチャの優しい性格は、そういう盛り上がりの状態に水を差す事に躊躇する。
それだけ周りの空気感を常に大切に思っている。

「先輩、私、ミチャの作ったお料理をもっと食べたいから、このキャットスーツ脱いでもいい?
これって、先輩も分かってるように、苦しくて何も食べれないから。
あ、先輩と風磨のツーショットの写真、たくさん撮ってあげる。
先輩、何なら、ナミに着替えちゃえば?
ルフィの衣裳があるなら、絶対に、ナミの衣裳もありますよね?」

私のマシンガントークに先輩はすっかりその気になっている。
でも、風磨は、ちょっとだけ不機嫌そうな顔をしていた。

私は自分の部屋へ行って、普段着に着替えた。
そして、先輩は風磨を連れ立って一階にあるゲストルームへ戻った。
その部屋に先輩の必須アイテムが置いてある。
今日はそれプラス男性用の衣裳も何点か揃えていた。
先輩って、コスプレに関しては、完璧で抜け目ない。
そんな先輩と風磨が気が合ってくれて、本当に良かった。


先輩と風磨が居なくなり、私とミチャは改めて乾杯をした。
ミチャにとっては、目まぐるしい数時間だったに違いない。

「コスプレのカミングアウトがこんなにミチャを驚かす事になって、本当にごめんなさい…」

ミチャは目を細め、物静かに笑った。

「まひると沙織さんのコスプレに関しては、僕は素晴らしいと思うよ。
二人ともクオリティが高過ぎて、ずっと見ていられる」

でも、私は首を横に振った。

「何か違ったの… 私の中では」

ミチャは下を向く私の隣にさりげなく座る。

「コスプレをする時の私は、違った誰かになりたい意識がすごく強い…
刺激がほしかったり、違う何かとして注目を浴びたかったり、その時に、素の神田まひるはそこにいない。
でも…
ミチャの前では、そんな刺激なんて全然必要なくて、違う何かにもなりたくなくて、神田まひるのままで、ミチャの傍にいたいってすごく思った…」

自分の中の正直な気持ちは支離滅裂で、きっとミチャには上手く伝わらない。

「でも、コスプレをするまひるも、それは神田まひるなんだろ?」

私は顎を親指に載せて、首を傾げて、そして頷いた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

『 ゆりかご 』 

設楽理沙
ライト文芸
  - - - - - 非公開予定でしたがもうしばらく公開します。- - - - ◉2025.7.2~……本文を少し見直ししています。 " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。 ―――― 「静かな夜のあとに」― 大人の再生を描く愛の物語 『静寂の夜を越えて、彼女はもう一度、愛を信じた――』 過去の痛み(不倫・別離)を“夜”として象徴し、 そのあとに芽吹く新しい愛を暗示。 [大人の再生と静かな愛] “嵐のような過去を静かに受け入れて、その先にある光を見つめる”  読後に“しっとりとした再生”を感じていただければ――――。 ――――            ・・・・・・・・・・ 芹 あさみ  36歳  専業主婦    娘:  ゆみ  中学2年生 13才 芹 裕輔   39歳  会社経営   息子: 拓哉   小学2年生  8才  早乙女京平  28歳  会社員  (家庭の事情があり、ホストクラブでアルバイト) 浅野エリカ   35歳  看護師 浅野マイケル  40歳  会社員 ❧イラストはAI生成画像自作  

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

25年目の真実

yuzu
ミステリー
結婚して25年。娘1人、夫婦2人の3人家族で幸せ……の筈だった。 明かされた真実に戸惑いながらも、愛を取り戻す夫婦の話。

おじさんは予防線にはなりません

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「俺はただの……ただのおじさんだ」 それは、私を完全に拒絶する言葉でした――。 4月から私が派遣された職場はとてもキラキラしたところだったけれど。 女性ばかりでギスギスしていて、上司は影が薄くて頼りにならない。 「おじさんでよかったら、いつでも相談に乗るから」 そう声をかけてくれたおじさんは唯一、頼れそうでした。 でもまさか、この人を好きになるなんて思ってもなかった。 さらにおじさんは、私の気持ちを知って遠ざける。 だから私は、私に好意を持ってくれている宗正さんと偽装恋愛することにした。 ……おじさんに、前と同じように笑いかけてほしくて。 羽坂詩乃 24歳、派遣社員 地味で堅実 真面目 一生懸命で応援してあげたくなる感じ × 池松和佳 38歳、アパレル総合商社レディースファッション部係長 気配り上手でLF部の良心 怒ると怖い 黒ラブ系眼鏡男子 ただし、既婚 × 宗正大河 28歳、アパレル総合商社LF部主任 可愛いのは実は計算? でももしかして根は真面目? ミニチュアダックス系男子 選ぶのはもちろん大河? それとも禁断の恋に手を出すの……? ****** 表紙 巴世里様 Twitter@parsley0129 ****** 毎日20:10更新

処理中です...