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七夕の日
…6
しおりを挟む「コスプレをするのは楽しい。
いや、楽しかった。
でも、よく分からないけど、今日はあんまり楽しくなかったの」
私は自分の中で、初めての感情が芽生えている事に気付いた。
ミチャに合わせたい。
ミチャの好む女の子になりたい。
今までは自分勝手で人に合わせるなんて自分の中に存在しなかった。
でも、今の私は、ミチャに好かれたい。
ミチャに愛してもらいたい。
そんな想いが心の中のコップから溢れ続けた。
ミチャは困ったふりをしながら、子供のようにあんまり楽しくないのと駄々をこねる私の髪を優しく後ろに流してくれる。
短くカットされたミチャの髪、柔らかい目元、料理が得意な綺麗な指…
もう、ミチャの事が好きで好きでたまらない。
まだ、出会って、たったの二か月なのに…
「僕はすごく楽しいよ。
僕にとって、まひるは、すごく刺激的で僕の狭い価値観を簡単に広げてくれるカッコいい存在。
今日の猫ちゃんも、めっちゃクールで最高に楽しかった」
私は隣に座るミチャの肩にもたれかかった。
結婚ごっこだとしても、今の私達は夫婦だから甘えてもいいでしょ…?
ミチャはそんな私の目元に残っているキラキラしたラメの粒を優しく取ってくれる。
いや、優しく取ってくれているはずが、こびりついているラメに四苦八苦してしまいには、お湯を含ませたおしぼりを持ってきた。
「ごしごしこすったら、まひるの綺麗な肌が赤くなっちゃうから」
ホットアイマスクみたいに、ミチャは私の目の上に静かにおしぼりを置いた。
「ミチャ…
私、もしかしたら、風磨よりもミチャを好きになっちゃうかも…」
ミチャの息遣いを近くで感じながら、私は初めて愛の告白をした。
ミチャの表情が見えない今の状況が、私には都合がよかった。
でも、ミチャは何も言わない。
その沈黙が涙が出るほど辛かった。
「ほら、綺麗に取れた。
まひるの白い肌も赤くならずに済んだ」
私の視界にミチャの笑顔が入ってくる。
ミチャは私の事は嫌いじゃない。
それは、それだけはちゃんと分かってる…
「まひる…
今日の、この七夕の日は、僕の記憶にずっと残るよ。
まひるの可愛い顔と一緒にね」
きっと、ミチャと別れる日まで、私の一方的な片思い。
この想いが爆発しないように、上手に上手に付き合っていくしかないんだね…
そこで私とミチャの静かな時間は終わった。
玄関のドアが開いたと思ったら、もう、そこはワンピースの世界だった。
今まで立ち込めていた重苦しい空気は、眩しいほどの先輩と風磨のコスプレによって鮮やかな虹色に色をつけてもらう。
風磨のルフィは思っていた以上にカッコよかった。
沙織先輩の完璧な技術と、風磨の持って生まれたイケメン素質がそうさせている。
そして、相変わらず、先輩のナミも色っぽい。
「ミチャ~、どう?
俺ってルフィ??」
風磨は本当に魅力的だ。
風磨に心惹かれる理由を数え出したらきりがないくらい。
ミチャの目に風磨はやんちゃな可愛い弟として映り、そして、ミチャの心には風磨の定位置は確実にある。
私はそんなネガティブな考えを外へ押し出した。
今日は、楽しい七夕の日。
きっと、ミチャと風磨と迎える最初で最後の七夕の日。
「じゃ、風磨と先輩、ベランダに出て~
青い空をバックにいい写真を撮るよ~~」
その私の掛け声とともに、沙織先輩にスイッチが入った。
いや、先輩だけじゃなく、先輩と風磨は、完全にルフィとナミの世界に入り込んでいる。
風磨の素人的なポージングに合わせる先輩の奇妙なポージングは、コント以外の何物でもない。
私はお腹を抱えて笑った。
風磨の筋肉質な体と幼い雰囲気、先輩の美しい顔とフェイクの大きな胸は、その世界観にピッタリ合い過ぎて、もう笑いが止まらない。
そんな二人を見て、ミチャもケラケラ笑っている。
風変りな七夕の日…
ひょんなことから夫婦になった、ミチャと私の大切なイベントの日。
私は先輩と風磨を撮るふりをして、ミチャを何枚か隠し撮りをした。
屈託のない笑顔と、目を細める素敵な癖と、そして、ミチャの全てを私は記憶とスマホに大切に保存する。
「先輩、今度は私とミチャを撮って~」
私はミチャと腕を組んで、頬を寄せ合った。
すると、お決まりのように、風磨が二人の間に割って入る。
「風磨~、邪魔だよ」
「まひるが邪魔だ~」
ミチャはまた笑う。
しばらくは、ミチャのその笑顔で我慢する。
好きになる気持ちを止める事はできないけれど、でも、もし、ミチャも私の事を好きになってくれたなら、なんて想像する事くらいはいいでしょう?
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