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まひるの誕生日
…2
しおりを挟むそして、今日は八月七日、私の誕生日の一日前。
沖縄にかろうじて降り立った私達は、天気の悪さに一気にトーンダウンした。
台風が通り過ぎたばかりの沖縄は、吹き返しの風と低く垂れ込むぶ厚い雲が街を覆っている。
そういうわけだから、ホテルへ向かうタクシーの中から見える海の模様は、決して綺麗とは言えなかった。
「ミチャ、明日は天気になるかな…
せっかく泳ぐんだったら、真っ青な空の下で、透明な海がいい」
ミチャも小さめのため息をつく。
「どっちにしても今日はどこかに行く時間はないから、ホテルでてるてる坊主を作ろう」
ミチャの瞳は真剣だ。
きっと、クオリティの高い立体的なてるてる坊主を作るはず。
私から言わせれば、それはてるてる坊主ではなく、てるてるロボットだと思うんだけど。
「ミチャ、簡単なてるてる坊主にしようね」
きっと、タクシーの運転手さんは、こいつらアホかって心の中で絶対に突っ込んでいるに違いない。
私はそんな事を一人で考えて、ちょっと笑った。
「二週間前に決めた旅行だったから、適当なホテルが見つからなかったんだ…」
昨日からミチャは私に何度もそう言った。
そんな事を何度も言うくらいだから、ビジネスホテルかどこかだと思っていたら、何と、タクシーが横付けしたホテルは、超一流のテレビでよく紹介されている有名なホテルだった。
「ミチャ…
このホテル、知ってる…
それより、よく取れたね…」
ミチャの世間知らずは天下一品だ。
一緒に暮らし始めて三か月、私が学んだ事は、ミチャの頭の中は八割がロボットの事。
残りの二割しか他の情報が入るスペースがない。
だから、必然と、興味のないものは頭の中に入らない。
沖縄のホテル事情とか、レジャー情報とか、ミチャの頭の中の辞書には、多分、絶対に存在しないはず。
そんなミチャがこんな素敵なホテルを?
私はタクシーから出てきたミチャにすぐさま質問をした。
「私が、この間、観たテレビでは、このホテルって一年先まで予約がいっぱいって言ってた。
ミチャ、どうやって取ったの?」
ミチャはタクシーの運転手さんにチップを渡し、丁寧に頭を下げてタクシーを見送っている。
そして、満足そうに私の方を見た。
外はもう雨が降り出している。
私達はロータリーの屋根のおかげで雨風はしのげているが、でも、今の天気を言葉で表すならば完全な嵐だった。
強い風に乗った細かい雨粒が、何かの拍子に私達の方まで飛んでくるくらいだから。
「僕は何もしてないよ。
秘書の町田さんの弟さんが旅行会社に勤めているっていうから、その人に全部任せたんだ」
ミチャはスーツケースをボーイさんに預けると、キョロキョロしながら正面玄関を探す。
「そしたら、町田さんが、一番人気のホテルの部屋が一個だけ空いてますっていうから、じゃ、それでお願いしますって言っただけ」
私は何だか嫌な予感がした。
秘書の町田さんは、きっと、社長というミチャのステータスだけで判断したに違いない。
「ミチャ、その部屋って、どんな部屋?」
ミチャの答えを聞くまでもなかった。
荷物を預けたボーイさんが支配人のような人を引き連れて私達の前にやって来たから。
「デラックススウィートルームの早乙女様、お待ちしておりました」
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