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まひるの誕生日
…4
しおりを挟む「まひる、スケッチブックは持ってきた?」
私は、とりあえず、うんと頷いた。
「僕は天気のいい景色も素敵だと思うけど、こんなどんよりとしたもの悲しい海の風景の方が、まひるの絵には合ってる気がする。
まひるだって、そう思ってるだろ?」
ミチャは、私が絵を描く姿を本当によく観察していた。
今まで私が描いてきたたくさんの絵を、私の実家へ赴きほとんど鑑賞したらしい。
ミチャは、画家、神田まひるのファン第一号だと自称している。
「確かに…
この景色は、ちょっとだけ、魂が揺さぶられてるかも。
でも、海の絵ってほとんど描いた事がないから…」
ミチャは一人用のソファを力づくで動かして、一面に海が見渡せるロケーションのいい場所にそのソファを移動させた。
「まひるは絵を描いて。
僕はてるてる坊主を作るから」
あ、てるてる坊主ね…
私はスーツケースの中から絵の具セットを取り出した。
ミチャは私の描く水彩画がお気に入りだ。
お気に入り過ぎて、実家から、いつ描いたか分からないような私の記憶にも残っていない平凡な水彩画を持って帰って来た。
ちゃんとまひるのお母さんに許可をもらったんだと、言い訳をしながら。
でも、油絵を描く人間としては、ちょっと複雑な気もするけど。
「じゃ、今日、描くこの絵はミチャにプレゼントするね。
こんな素敵なお部屋に泊めてくれたお礼」
私はベランダを向いた一人用のソファに座り、ミチャに聞こえるよう大きな声でそう言った。
そして、大きめのスケッチブックを開き鉛筆で下絵を描こうとした時、ミチャが作りかけのてるてる坊主を持って、私の前に座った。
「僕は、まひるの描く絵が本当に好き。
絵を描くまひるの姿を見るのも、めちゃくちゃ好き。
でも、僕がここに座ってたら邪魔になるのかな?」
私は苦笑いしながらコクンと頷く。
すると、ミチャは立ち上がり、私に顔を近づけてきた。
私はキスをされるのかと思った。
そう思って、一瞬、体が硬くなる。
でも、ミチャは私のスケッチブックを覗いただけだった。
鉛筆書きの下絵を見たかったみたい。
私はミチャが好き。
毎日、一緒に生活して、同じ時間と同じ空間を共有する事で、この気持ちは膨らむ一方。
そして、ミチャとキスをする事を、毎日、夢見ている。
こんなに近くにいてキスが遠い関係なんて、私にとっては修行みたいな日々だけど、だからといって、肉食系のオーラを放つ私がミチャを襲うわけにはいかない。
キスがしたいってそんな事ばかり考える私は、たぶん、欲求不満の塊で、そして、たまにそんな本能に抗えなくなりそうになる。
いつか、ミチャの方からキスをしてくれる日を信じて、毎日耐え忍んでいます。
「ミチャ、邪魔だよ。
いい絵が描けなくなっちゃうよ」
ミチャの吐息を近くで感じながら、私は息も絶え絶えでそんな想いとは逆の事を口にする。
全てにおいて鈍感過ぎるミチャは、きっと、私のこんな変化にも気づかない。
そして、ミチャは、ゆっくりと立ち上がる。
指には、二体のロボットにしか見えないてるてる坊主をぶら下げて。
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