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まひるの誕生日
…8
しおりを挟む「それで?
ピッタリだと思ったけど、どうしたの?」
ミチャは手を伸ばせばすぐそこにある私の頬を、躊躇もせずの優しく撫でる。
「まひるが納得する完璧な着ぐるみを作るには、三か月かかるって言われた…
絶対、間に合わない、残念ながら」
「着ぐるみを作ろうと思ったの?」
私はご当地マスコットの着ぐるみ達が目に浮かんだ。
いや、ミチャの事だから、そのシーサーは着ぐるみというよりゴジラとかの方に近い気がする。
それもちょっとロボット体型の…
「そう、でも、着ぐるみってシーサーの良さが出ないんだ。
だから、やめた。
まひるは、コスプレに関しては、完璧でストイックだろ?
それを考えたら、絶対に気に入らないって思った」
私は自分なりに納得しているミチャに、単純な答えをプレゼントする。
「ミチャ…
着ぐるみってコスプレじゃないんだよ。
着ぐるみって顔も全部隠れるやつでしょ?
全部隠れちゃったら、つまんないじゃん。
せめて顔だけは出さないと」
ミチャはちょっとだけホッとした顔をしている。
二人だけのシーサーのコスプレのイベントを決行しなくてよかったと。
「じゃ、この誕生日のイベントで正解だったのかな?
僕の中じゃ、すごい挑戦だったんだ。
今までの人生で、女性のために何かをしてあげたいって思った事が初めてだから。
何をどうしてあげれば、まひるが喜ぶのか何も分からなくてさ。
だから、まひるへの誕生日プレゼントだって、実は、何も準備してない。
今日のこの日に、まひるに聞こうと思ってた。
誕生日のプレゼントは何がほしい?って」
リクライニングシートに寝転んでいるミチャは、私の方を向いて片肘をつく。
お互い向かい合って片肘をついて、何だか不思議な気分。
でも、そんな不思議な何かが、私の閉ざしている心の扉を開いた。
「プレゼントは… 何でもいいの?」
ミチャは大きく頷いて、そして、私の大好きな笑みを浮かべる。
昼間の海辺を歩いたせいで、ミチャの鼻の頭は赤く日焼けをしていた。
私にはしつこく日焼け止めを勧めていたくせに、自分の事には無頓着なミチャが本当に愛おしい。
でも、こんなに近くにいる二人なのに、私達の関係性は遠く離れている。
ミチャを近くで感じたい…
「ミチャの…
ミチャのキスがほしい…」
キスなんて、こんな風にお願いして、してもらうものじゃない。
でも、どんな形でもいいから、私はミチャとキスがしたかった。
そんな切なる想いは、また涙を伴ってあふれ出す。
ミチャは何も言わず、私の事を見つめている。
私はそんなミチャを見る事ができず、自分が発してしまった言霊の行方だけを追っていた。
「キスなんてプレゼントには入らないから…」
ミチャはそんな言葉を残して、そっと私にキスをした。
それは、軽くて甘い高校生のようなキス。
でも、私はそんなキスじゃ満足しない。
「ミチャ、今、私達は夫婦だよね…?
偽物だとしても…」
私の言葉を聞いて困ったように微笑むミチャは、右手で私の頬を引き寄せた。
ミチャのキスは大人のキスだった。
こんなキス、初めて…
優しくて、控えめで、でも、何だか強引で。
ミチャの柔らかいくちびるは、私の全ての感情を支配する。
ミチャは私のもの…
私もミチャのもの…
たった一回のキスで、私の思考は完全に乗っ取られてしまった。
「ミチャ…?」
「…うん?」
キスを終えたミチャに、私はいきなり話しかける。
「ミチャって、キス、上手なんだ…」
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