はじまりと終わりの間婚

便葉

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秋分の日(風磨の引退試合)

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雲一つない真っ青な空が続く秋晴れの今日、私とミチャは、都内の山側に位置するラグビー場へ車で向かっている。
風磨の最後の試合を観にいくためだ。
 
風磨は、高校、大学、社会人の間、ラグビー選手として活躍してきた。
足が速く、俊敏性に長けていた風磨は、左ウィングのバックスとして多くのトライを決めてきた。
でも、三年前に膝の大けがをして以来、レギュラーとしてプレイする機会はなくなり、最近では、自らが率先して選手の体のケアやサポートに尽力してきた。
そんな風磨の最後の勇姿を目に焼き付けるため、ミチャと私はラグビー観戦を楽しみにしながら車を走らせた。
 
ミチャの愛車は快適に高速道路を走っている。
カーナビをそのラグビー場にセットしてナビの言う通りに車を走らせるミチャは、どこかご機嫌に見えた。
 
「ミチャは、今まで風磨の試合を観に行った事はあるの?」
 
ミチャお気に入りのユーミンの中央フリーウェイをBGMに流しながら、私は何となくそう聞いた。
 
実は、ユーミン好きは私も一緒だった。
母の趣味がいつの間にか自分の好みになり、自分が生まれる遥か昔に流行った曲を懲りずによく聴いた。
周りの皆には古臭いと言われながら、意地で好きを貫いてきた事は無駄じゃなかった。
だって、ミチャもユーミンが好きだなんて、こんな偶然には中々出会えない。
というわけで、ドライブにピッタリの一曲としてこの曲を二人とも選んだのだった。
 
涼し気な顔で音楽に合わせてリズムを取っているミチャは何だか楽しそう。
きっと、私の質問を完全に忘れている。
 
「ミチャ、聞いてる?」
 
ミチャは何だっけ?みたいに微笑んで私を見た。
 
「風磨の試合を観に行った事はあるの?」
 
ミチャは運転しながら、う~んと考えた。
その割には、即答だった。
 
「ないな~、たぶん、一度もない」
 
私は予想通りの答えにちょっとだけホッとした。
オタク系人間のミチャに、ラグビー場は似合わないし中々想像がつかない。
 
「風磨からは何度も誘われたけどね。
あいつには悪いけど、一度も行った事はないんだ」
 
ミチャは目を細めて遠くを見ている。
ミチャと風磨…
二人の長い歴史を私は知る由もない。
知りたいけど、知るのが怖い。
風磨の切実な片思いは、きっと、身を切るほど辛いものだと思うから。
 
「今日は風磨の引退試合だし、本当に最後みたいだから行こうと思った。
でも、まひるがいなかったら、たぶん、行ってない。
僕みたいな人間は、青空の下のグランドっていう空間がちょっと苦手みたいなんだ」
 
ミチャの私への想いだって、まだ何も分からない。
でも、確実に言えるのは、ミチャの想いのベクトルは風磨へは向いていないという事。
この偽物の結婚が風磨に対してのミチャの答えなのだから仕方がないのかもしれないけど。
 
「そっか…」
 
私はそれだけ言うと、もう口を閉じた。

実は、私の誕生日にミチャと二人で沖縄旅行へ行ったあたりから、風磨との関係がぎくしゃくしていた。
あの日、私とミチャが東京に帰り着いた日、風磨はミチャのマンションの前で、ずっとミチャを待っていた。
沖縄の最後の日は気持ちがいいほどの快晴で、高揚した気分のまま帰って来た私達は、東京のどしゃ降りの天気にげんなりしながら家までタクシーで向かった。
ミチャのマンションの正面玄関に面した緑の植え込みの所に、風磨はいた。
折り畳みサイズの小さめの赤い傘を差して、植え込みの段差の部分に座っていた。
その姿が私の脳裏にこびりついて、中々頭から離れてくれない。
風磨のミチャへの愛は本物で、それをまざまざと感じさせられたそんな夜だった。
 
タクシーがマンションのロータリーまで入ると、鈍感なミチャも風磨の気配に気付いた。
一瞬で、タクシーの中の空気が重くなる。
ミチャはそれでも普通を保ち、タクシーの運転手さんに代金を払い、いつものように丁寧にお辞儀をしてタクシーを見送った。
 
「風磨… ずっとそこに居たの?」
 
本当はミチャが先に風磨に声をかけるべきなのに、私はついそんな言葉を風磨にかけてしまった。
風磨は私の言葉には反応を示さず、降りしきる雨の中、ただひたすらミチャの事を目で追っている。

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