33 / 97
秋分の日(風磨の引退試合)
…3
しおりを挟む私達の絵に描いたようなトライアングルの関係は、風磨が一人だけ辛い思いをしている。
確かにそんな状況で、私のお節介な親切心は風磨の心を傷つけていた。
「ミチャとの旅行は楽しかった…?」
私は言葉に詰まってしまう。
「私の誕生日だったんだ…
だから、ミチャが沖縄旅行をプレゼントしてくれたの…」
うんともすんとも言わない風磨は、涙の粒が溢れそうな真っすぐな瞳で私を睨んでいる。
「偽物の夫婦なのに…?」
最近の風磨はよくそんな事を言った。
私達の計画がばれているのでは?なんて、たまにゾッとする事がある。
でも、そんな時でも、ミチャは普通だった。
まるで偽物の夫婦が嘘みたいに、言葉では返さずにただ鼻で笑うだけ。
私は、そんなミチャのクールさが大好きだった。
「風磨、いい加減にしろよ。
僕はまひると結婚したんだ。
だから、まひるの喜ぶ顔を見たいと思うし、まひるが望む事なら何でも叶えてあげたいと思う。
まひるの誕生日なんだ…
二人っきりで祝いたいって思うのは普通の事だろ?」
風磨の瞳から、また大粒の涙が零れ落ちる。
風磨のミチャへの想いを考えると胸が締め付けられた。
男か女かなんてそんな事何も関係なくて、ただ人を愛する純粋な気持ちが大切なだけ。
でも、ミチャはそんな風磨を見て見ぬふりをする。
「俺は…
まひるとの結婚は…
ミチャが俺を諦めさせるための、くそみたいな結婚だと今でも思ってる。
だから、俺は信じない。
ミチャの心はまひるのものなんかじゃない。
それは、見てればすぐ分かるよ…」
風磨の雨に濡れた髪が切ないほどに、セクシーだった。
眉間に皺を寄せる苦悩に満ちた表情も、私の感性をビシビシと刺激する。
そんなところが、私が変人と呼ばれる所以だった。
魂を揺さぶられるスイッチが、どうやら他の人と違うらしい。
そんな私の邪な考えを吹き飛ばすような辛辣な言葉を、ミチャは風磨に投げつけた。
「僕達の結婚が偽物だと断言して、見てればすぐに分かるなんて言っておきながら、何でそんなにめそめそ泣くんだ?
風磨は、僕とまひるの関係が偽物じゃないって分かってるから泣けるんだ。
そうじゃないと、そんな風に涙は出てこないよ」
風磨は横に置いていたタオルを握りしめている。
涙を流すまいと頑張っている風磨の姿は、見ていて本当に辛かった。
「風磨…
僕は何度も言うように、風磨の気持ちに答える事はできない。
でも、風磨は僕の大切な弟で友達で、その関係は死ぬまで変わらないし、大切にしていきたいと思ってる。
もちろん、風磨の事は愛してるよ。
でも、その愛情は、僕が両親を想う気持ちと一緒なんだ」
「いいよ、もう」
風磨はそう呟くと、急に立ち上がった。
「ミチャがなりふり構わずまひるの事を愛しているなら、その時はちゃんとミチャの事を諦める。
でも、今のミチャはそうじゃない。
それは、俺だけじゃなく、まひるだってちゃんと分かってる。
そんな間は、俺はミチャを諦めない。
ミチャの心は誰ものでもないからね…」
私は痛いところを突かれた気がした。
そんな私の表情をどうか風磨が気付いていませんように。
そんな重く暗い空気感を一掃したかった私は、またとんでもない事を口走ってしまった。
「風磨…
私、風磨を描きたい。
人物画なんて心から好きになった人しか描きたいって思わなかったけど、でも、何だか無性に風磨が描きたくなった。
風磨、私のモデルになってほしい。
ねえ、ダメ?」
確かに一瞬で、空気感を変える事には成功したみたい。
でも、モデルのワードに異様に反応しているのは、風磨よりミチャの方だった。
「まひる…
例のあれか…?」
もう、ミチャの頭の中は全裸のワードでいっぱいになっている。
私はうんともすんとも言えなかった。
だって、そのつもりだったから。
「風磨、考えてほしい。
返事は今日じゃなくていいから…」
泣きべその風磨に、ちょっとだけいつものいたずらっ子の表情が戻った。
「そんな事したら、まひるは俺に絶対に惚れる。
モデルって、そういう意味だろ?」
風磨はヌードモデルの事をちゃんと分かってる。
きっと、沙織先輩が面白がって話したに違いない。
「それは、やってみないと分からないけど。
じゃ、前向きに考えてね。
返事を楽しみに待ってるから」
私と風磨を取り巻く空気は軽いものに変わったけれど、ミチャの周りだけがまだどんよりとしている。
きっと、ミチャの頭の中は、風磨の全裸とそれをむさぼる様にデッサンする私の姿が渦巻いている。
そんなミチャを残して、風磨は笑顔で帰って行った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
『 ゆりかご 』
設楽理沙
ライト文芸
- - - - - 非公開予定でしたがもうしばらく公開します。- - - -
◉2025.7.2~……本文を少し見直ししています。
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
――――
「静かな夜のあとに」― 大人の再生を描く愛の物語
『静寂の夜を越えて、彼女はもう一度、愛を信じた――』
過去の痛み(不倫・別離)を“夜”として象徴し、
そのあとに芽吹く新しい愛を暗示。
[大人の再生と静かな愛]
“嵐のような過去を静かに受け入れて、その先にある光を見つめる”
読後に“しっとりとした再生”を感じていただければ――――。
――――
・・・・・・・・・・
芹 あさみ 36歳 専業主婦 娘: ゆみ 中学2年生 13才
芹 裕輔 39歳 会社経営 息子: 拓哉 小学2年生 8才
早乙女京平 28歳 会社員
(家庭の事情があり、ホストクラブでアルバイト)
浅野エリカ 35歳 看護師
浅野マイケル 40歳 会社員
❧イラストはAI生成画像自作
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
紙の上の空
中谷ととこ
ライト文芸
小学六年生の夏、父が突然、兄を連れてきた。
容姿に恵まれて才色兼備、誰もが憧れてしまう女性でありながら、裏表のない竹を割ったような性格の八重嶋碧(31)は、幼い頃からどこにいても注目され、男女問わず人気がある。
欲しいものは何でも手に入りそうな彼女だが、本当に欲しいものは自分のものにはならない。欲しいすら言えない。長い長い片想いは成就する見込みはなく半分腐りかけているのだが、なかなか捨てることができずにいた。
血の繋がりはない、兄の八重嶋公亮(33)は、未婚だがとっくに独立し家を出ている。
公亮の親友で、碧とは幼い頃からの顔見知りでもある、斎木丈太郎(33)は、碧の会社の近くのフレンチ店で料理人をしている。お互いに好き勝手言える気心の知れた仲だが、こちらはこちらで本心は隠したまま碧の動向を見守っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる