はじまりと終わりの間婚

便葉

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秋分の日(風磨の引退試合)

…3

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私達の絵に描いたようなトライアングルの関係は、風磨が一人だけ辛い思いをしている。
確かにそんな状況で、私のお節介な親切心は風磨の心を傷つけていた。
 
「ミチャとの旅行は楽しかった…?」
 
私は言葉に詰まってしまう。
 
「私の誕生日だったんだ…
だから、ミチャが沖縄旅行をプレゼントしてくれたの…」
 
うんともすんとも言わない風磨は、涙の粒が溢れそうな真っすぐな瞳で私を睨んでいる。
 
「偽物の夫婦なのに…?」
 
最近の風磨はよくそんな事を言った。
私達の計画がばれているのでは?なんて、たまにゾッとする事がある。
でも、そんな時でも、ミチャは普通だった。
まるで偽物の夫婦が嘘みたいに、言葉では返さずにただ鼻で笑うだけ。
私は、そんなミチャのクールさが大好きだった。
 
「風磨、いい加減にしろよ。
僕はまひると結婚したんだ。
だから、まひるの喜ぶ顔を見たいと思うし、まひるが望む事なら何でも叶えてあげたいと思う。
まひるの誕生日なんだ…
二人っきりで祝いたいって思うのは普通の事だろ?」
 
風磨の瞳から、また大粒の涙が零れ落ちる。
風磨のミチャへの想いを考えると胸が締め付けられた。
男か女かなんてそんな事何も関係なくて、ただ人を愛する純粋な気持ちが大切なだけ。
でも、ミチャはそんな風磨を見て見ぬふりをする。

「俺は…
まひるとの結婚は…
ミチャが俺を諦めさせるための、くそみたいな結婚だと今でも思ってる。
だから、俺は信じない。
ミチャの心はまひるのものなんかじゃない。
それは、見てればすぐ分かるよ…」
 
風磨の雨に濡れた髪が切ないほどに、セクシーだった。
眉間に皺を寄せる苦悩に満ちた表情も、私の感性をビシビシと刺激する。
そんなところが、私が変人と呼ばれる所以だった。
魂を揺さぶられるスイッチが、どうやら他の人と違うらしい。
そんな私の邪な考えを吹き飛ばすような辛辣な言葉を、ミチャは風磨に投げつけた。
 
「僕達の結婚が偽物だと断言して、見てればすぐに分かるなんて言っておきながら、何でそんなにめそめそ泣くんだ?
風磨は、僕とまひるの関係が偽物じゃないって分かってるから泣けるんだ。
そうじゃないと、そんな風に涙は出てこないよ」
 
風磨は横に置いていたタオルを握りしめている。
涙を流すまいと頑張っている風磨の姿は、見ていて本当に辛かった。
 
「風磨…
僕は何度も言うように、風磨の気持ちに答える事はできない。
でも、風磨は僕の大切な弟で友達で、その関係は死ぬまで変わらないし、大切にしていきたいと思ってる。
もちろん、風磨の事は愛してるよ。
でも、その愛情は、僕が両親を想う気持ちと一緒なんだ」
 
「いいよ、もう」
 
風磨はそう呟くと、急に立ち上がった。

「ミチャがなりふり構わずまひるの事を愛しているなら、その時はちゃんとミチャの事を諦める。
でも、今のミチャはそうじゃない。
それは、俺だけじゃなく、まひるだってちゃんと分かってる。
 
そんな間は、俺はミチャを諦めない。
ミチャの心は誰ものでもないからね…」
 
私は痛いところを突かれた気がした。
そんな私の表情をどうか風磨が気付いていませんように。
そんな重く暗い空気感を一掃したかった私は、またとんでもない事を口走ってしまった。
 
「風磨…
私、風磨を描きたい。
人物画なんて心から好きになった人しか描きたいって思わなかったけど、でも、何だか無性に風磨が描きたくなった。
風磨、私のモデルになってほしい。
ねえ、ダメ?」
 
確かに一瞬で、空気感を変える事には成功したみたい。
でも、モデルのワードに異様に反応しているのは、風磨よりミチャの方だった。
 
「まひる…
例のあれか…?」
 
もう、ミチャの頭の中は全裸のワードでいっぱいになっている。
私はうんともすんとも言えなかった。
だって、そのつもりだったから。
 
「風磨、考えてほしい。
返事は今日じゃなくていいから…」
 
泣きべその風磨に、ちょっとだけいつものいたずらっ子の表情が戻った。
 
「そんな事したら、まひるは俺に絶対に惚れる。
モデルって、そういう意味だろ?」
 
風磨はヌードモデルの事をちゃんと分かってる。
きっと、沙織先輩が面白がって話したに違いない。
 
「それは、やってみないと分からないけど。
じゃ、前向きに考えてね。
返事を楽しみに待ってるから」
 
私と風磨を取り巻く空気は軽いものに変わったけれど、ミチャの周りだけがまだどんよりとしている。
きっと、ミチャの頭の中は、風磨の全裸とそれをむさぼる様にデッサンする私の姿が渦巻いている。
 
そんなミチャを残して、風磨は笑顔で帰って行った。

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