はじまりと終わりの間婚

便葉

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秋分の日(風磨の引退試合)

…6

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「ミチャ、聞いてる?」
 
ミチャは前のめりになって屋台を見ている姿勢を、ちょっとだけ直した。
 
「いいよ。
別に隠す理由はないし、僕は叔母さんがここにいて風磨の耳にはもう入ってるんだって思ってたから。
 
それより、まひる、露店を見に行こう」
 
ミチャは先に車を降りた。
私は一人になった車の中から、風磨にメッセージを打つ。
忙しくてスマホを覗く事はないかもしれないけど、でも、私達がここに居たという形跡を残していたい。
ちゃんと風磨の事を見てたよって…
 
“風磨のセレモニーを観にここへ来てます
今、ミチャは露店のあたりをウロウロしてるよ(笑)”
 
そして、私も車を飛び出した。
お昼ご飯を食べていないせいで、香ばしい焼きとうもろこしの匂いばかりを求めてしまう。
私がミチャの元へたどり着くと、ミチャはもうすでに何かを買っていた。
 
「ミチャ、早いよ~
で、何、買ったの?」
 
ミチャは自慢気に少し大きめの紙袋を私に渡した。
私がその袋を開けると、そこには黄金のテカテカ光り輝く焼きとうもろこしが入っている。
私は感動で息が止まりそうだった。
 
「ミ、ミチャ…
私のために、これ買ってくれてたんだ…」
 
ミチャは眉間に皺をよせて、すぐに私からその袋を奪い取った。

「僕が食べるためだよ。
まひるも自分が好きな物買っておいで」
 
「私の大好物はそれなの、その焼きとうもろこし」
 
空腹って怖い。
私とミチャは、たかが、焼きとうもろこしの事で人生初の夫婦喧嘩のゴングを鳴らそうとしている。
焼きとうもろこしの香ばしい香りに、お互い思考回路を乗っ取られてしまったみたい。
 
「そうなんだ…
実は僕も大好きなんだ、これ。
それに、これは僕が買ってきたやつだから、自分のものは自分で買ってきて」
 
濃紺のTシャツにジーンズ姿のミチャは、細身のせいかシンプルな格好なのに素敵な大人の男性に見える。
でも、それは見かけだけで、今のミチャはお子ちゃまモード全開だった。
そういう私も、右に同じだけど。
 
十軒ほど並んでいる露店の中を、私達は自由行動をした。
ちょうどミチャの車を停めた駐車場の前にベンチがあったため、そこで待ち合わせをして。
私は焼きとうもろこしとステーキ肉の串差しを買った。
そして、冷たいノンアルコールのビールを買ってベンチへ戻ると、もうミチャが座っている。
それも、たくさんの紙袋を隣に並べて。
風磨の試合まで、まだ40分ほど時間があった。
私達の座ったベンチは、後ろに立つ木がちょうどいい感じで涼しい日陰を作っている。

「ミチャ、買い過ぎじゃない?
そんなたくさん、食べれるのかな~?」
 
今日の私は手作りのワイドパンツに手作りの七分袖のTシャツ、色合いは秋を意識してターコイズブルーとワインカラーでまとめていた。
髪はいつものようにアップにして、耳にはミチャお気に入りのモアイ像のピアスをぶら下げている。
というか、スポーツ観戦がほぼ初めての私は、何を着て行っていいものか悩んで悩んで、悩んだ末の今日のコーディネートだった。
そんなスポーツの場に馴染めない私達は、ウキウキ顔で露店をうろつき、そして、ベンチで贅沢なランチのひと時を送っている。
 
「僕が食べれなくても、まひるが食べるだろ?
食いしん坊のまひるのために、多めに買ってきたんだ」
 
ミチャはそう言いながら、ベンチの空いたスペースに美味しそうなご馳走を並べ始める。
私とミチャは、とりあえず乾杯した。
私は偽物のビールで、ミチャはお子ちゃまが大好きなコーラで。
まずは二人で焼きとうもろこしにかぶりついた。
粒粒のコーンが歯の隙間に引っかかって、すぐに爪楊枝がほしくなる。
私がそんな事を気にしながら、トロトロ食べていると、ミチャはあっという間に完食した。
 
「ミチャ、ちゃんと噛んでないでしょ!
そんなに早く食べ終わるなんて、コーンを飲んでるとしか考えられないよ~」
 
私は必死にモグモグしながら、そう叫んだ。
ミチャは笑っている。
笑った口元から見える白い歯に、コーンなんて一粒も挟まっていない。
ほら、絶対に飲み込んでるし…

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