はじまりと終わりの間婚

便葉

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道也の誕生日

…10

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「まひる…
誕生日なんて僕にとってはどうでもいい事なんだ。
このケーキは、まひるのためだけに作ってる。
僕のした事でまひるを傷つけたのなら、このケーキで許してほしいって思ってるけど、それって甘いかな?」
 
ミチャは器用な指先と腕力だけで、ふわふわのメレンゲを作り上げた。
そのメレンゲを自慢気に私に見せ、そして、私のコメントを待っている素振りを見せる。
 
「ちゃんとつのが立ってて、完璧なメレンゲだね」
 
ミチャは口角を上げて、私に軽くウィンクをした。
 
「まひるはシャワーを浴びておいで。
そんな絵の具だらけの手じゃ、僕の最高に美味しいケーキがまずくなっちゃうからね」
 
もう完全にミチャのペース。
このほんわかな世界観は、私の荒れ狂う感情をいつの間にかなだめてくれる。
冷蔵庫の中から色とりどりのフルーツを取り出して、ケーキのトッピングにするフルーツの飾り付けを考えているミチャは、何だかとても楽しそう。
 
ミチャは二面性があるから…
それは悪意に満ちたものじゃなくて、その訳の分からない魅力に引き込まれてしまうんだ。

風磨の言葉は今の私を納得させる。
ミチャの意地悪な部分も冷めた瞳も、それも全部含めてミチャの吸引力で、私も風磨もその引き寄せられる力には何をやっても抗えない。
 

絵の具を洗い落とし綺麗になった私を、ミチャは部屋の電気を消して待っていた。
私が部屋へ入った事を確かめて、ケーキの上に立っている細長いろうそくに火をつける。
 
「ほら、まひるもここに座って」
 
ミチャはそう言って、自分の隣をポンポンと叩いた。
たった二本の微かなろうそくの炎は、ミチャの顔を優しく照らし出してくれる。
私はケーキを見てため息が出た。
真っ白い生クリームでデコレートされたフカフカのパンケーキの真ん中に、まひる、ごめんねと書いている。
一気に切なさが込み上がる。
 
「こんな事されたら、何も言えなくなっちゃうじゃん…
それに、今日はミチャの誕生日なのに、何でまひる、ごめんね、なの…?
ミチャの誕生日ケーキなのに…」
 
「そんなに誕生日って大事?」
 
ミチャはまた同じ言葉を繰り返す。
そして、ゆらゆら揺れる炎にそっと息を吹きかけようとして、でも、止めた。
 
「僕は今までの人生で、誕生日についてこんなにも考えさせられた日はないよ。
確かに、僕が生を受けた日ではあるけれど、それは僕の中では全く記憶にはない事だし、だから、僕にとって誕生日は年を重ねる節目の日くらいの感覚しかない」
 
「ミチャ… 桜子さんと何を話したの?」

誕生日について一生懸命話していたミチャは、私の飛躍し過ぎる質問に目を点にする。
そして、フフッと鼻で笑った。
面倒くさそうに目を閉じて。
私はまた泣きそうになる。
だって、どう頑張ったって、桜子さんとミチャの関係が気になって気になって、それしか考えられないから…
 
「桜子は、ただの友達だよ。
五年ほどずっと北海道のロボット制作の会社にいたんだけど、そこを辞めて先月東京に帰って来たらしい。
で、就職先を探してる最中だって」
 
ミチャはそう言うと、短くなったろうそくの火を一息で吹き消した。
そして、フカフカのパンケーキを丁寧に切り分ける。
私の取り皿にはたくさんの果物がのった大きめのケーキを載せた。
 
「はい、どうぞ」
 
ミチャはケーキの横に、ワイングラスも置いた。
そして、私の大好きな長野産のマスカットワインを半分くらい注いでくれる。
薄緑の透明色が本当にきれいで、私の目はそのグラスに引き寄せられる。
食について、ミチャはぬかりがない。
他の事に関しては、無関心で隙ばかりなのに。
 
「…桜子さんは、ミチャの会社に就職するの?」
 
私はグラスを持ち、でも、視線はワインに向けたままそう聞いた。
隣に座るミチャの表情は分かっている。
マジで面倒くさい…
きっと、そう思っている。
 
「桜子はそれを希望してるみたいだけど。
でも、それは僕の一存で決めれる事じゃないし。
彼女が必要なのかどうなのかは、人事を担当している人間に任せるつもりだよ」
 
「ミチャの元カノなのに…?」

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