51 / 97
道也の誕生日
…10
しおりを挟む「まひる…
誕生日なんて僕にとってはどうでもいい事なんだ。
このケーキは、まひるのためだけに作ってる。
僕のした事でまひるを傷つけたのなら、このケーキで許してほしいって思ってるけど、それって甘いかな?」
ミチャは器用な指先と腕力だけで、ふわふわのメレンゲを作り上げた。
そのメレンゲを自慢気に私に見せ、そして、私のコメントを待っている素振りを見せる。
「ちゃんとつのが立ってて、完璧なメレンゲだね」
ミチャは口角を上げて、私に軽くウィンクをした。
「まひるはシャワーを浴びておいで。
そんな絵の具だらけの手じゃ、僕の最高に美味しいケーキがまずくなっちゃうからね」
もう完全にミチャのペース。
このほんわかな世界観は、私の荒れ狂う感情をいつの間にかなだめてくれる。
冷蔵庫の中から色とりどりのフルーツを取り出して、ケーキのトッピングにするフルーツの飾り付けを考えているミチャは、何だかとても楽しそう。
ミチャは二面性があるから…
それは悪意に満ちたものじゃなくて、その訳の分からない魅力に引き込まれてしまうんだ。
風磨の言葉は今の私を納得させる。
ミチャの意地悪な部分も冷めた瞳も、それも全部含めてミチャの吸引力で、私も風磨もその引き寄せられる力には何をやっても抗えない。
絵の具を洗い落とし綺麗になった私を、ミチャは部屋の電気を消して待っていた。
私が部屋へ入った事を確かめて、ケーキの上に立っている細長いろうそくに火をつける。
「ほら、まひるもここに座って」
ミチャはそう言って、自分の隣をポンポンと叩いた。
たった二本の微かなろうそくの炎は、ミチャの顔を優しく照らし出してくれる。
私はケーキを見てため息が出た。
真っ白い生クリームでデコレートされたフカフカのパンケーキの真ん中に、まひる、ごめんねと書いている。
一気に切なさが込み上がる。
「こんな事されたら、何も言えなくなっちゃうじゃん…
それに、今日はミチャの誕生日なのに、何でまひる、ごめんね、なの…?
ミチャの誕生日ケーキなのに…」
「そんなに誕生日って大事?」
ミチャはまた同じ言葉を繰り返す。
そして、ゆらゆら揺れる炎にそっと息を吹きかけようとして、でも、止めた。
「僕は今までの人生で、誕生日についてこんなにも考えさせられた日はないよ。
確かに、僕が生を受けた日ではあるけれど、それは僕の中では全く記憶にはない事だし、だから、僕にとって誕生日は年を重ねる節目の日くらいの感覚しかない」
「ミチャ… 桜子さんと何を話したの?」
誕生日について一生懸命話していたミチャは、私の飛躍し過ぎる質問に目を点にする。
そして、フフッと鼻で笑った。
面倒くさそうに目を閉じて。
私はまた泣きそうになる。
だって、どう頑張ったって、桜子さんとミチャの関係が気になって気になって、それしか考えられないから…
「桜子は、ただの友達だよ。
五年ほどずっと北海道のロボット制作の会社にいたんだけど、そこを辞めて先月東京に帰って来たらしい。
で、就職先を探してる最中だって」
ミチャはそう言うと、短くなったろうそくの火を一息で吹き消した。
そして、フカフカのパンケーキを丁寧に切り分ける。
私の取り皿にはたくさんの果物がのった大きめのケーキを載せた。
「はい、どうぞ」
ミチャはケーキの横に、ワイングラスも置いた。
そして、私の大好きな長野産のマスカットワインを半分くらい注いでくれる。
薄緑の透明色が本当にきれいで、私の目はそのグラスに引き寄せられる。
食について、ミチャはぬかりがない。
他の事に関しては、無関心で隙ばかりなのに。
「…桜子さんは、ミチャの会社に就職するの?」
私はグラスを持ち、でも、視線はワインに向けたままそう聞いた。
隣に座るミチャの表情は分かっている。
マジで面倒くさい…
きっと、そう思っている。
「桜子はそれを希望してるみたいだけど。
でも、それは僕の一存で決めれる事じゃないし。
彼女が必要なのかどうなのかは、人事を担当している人間に任せるつもりだよ」
「ミチャの元カノなのに…?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
『 ゆりかご 』
設楽理沙
ライト文芸
- - - - - 非公開予定でしたがもうしばらく公開します。- - - -
◉2025.7.2~……本文を少し見直ししています。
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
――――
「静かな夜のあとに」― 大人の再生を描く愛の物語
『静寂の夜を越えて、彼女はもう一度、愛を信じた――』
過去の痛み(不倫・別離)を“夜”として象徴し、
そのあとに芽吹く新しい愛を暗示。
[大人の再生と静かな愛]
“嵐のような過去を静かに受け入れて、その先にある光を見つめる”
読後に“しっとりとした再生”を感じていただければ――――。
――――
・・・・・・・・・・
芹 あさみ 36歳 専業主婦 娘: ゆみ 中学2年生 13才
芹 裕輔 39歳 会社経営 息子: 拓哉 小学2年生 8才
早乙女京平 28歳 会社員
(家庭の事情があり、ホストクラブでアルバイト)
浅野エリカ 35歳 看護師
浅野マイケル 40歳 会社員
❧イラストはAI生成画像自作
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
紙の上の空
中谷ととこ
ライト文芸
小学六年生の夏、父が突然、兄を連れてきた。
容姿に恵まれて才色兼備、誰もが憧れてしまう女性でありながら、裏表のない竹を割ったような性格の八重嶋碧(31)は、幼い頃からどこにいても注目され、男女問わず人気がある。
欲しいものは何でも手に入りそうな彼女だが、本当に欲しいものは自分のものにはならない。欲しいすら言えない。長い長い片想いは成就する見込みはなく半分腐りかけているのだが、なかなか捨てることができずにいた。
血の繋がりはない、兄の八重嶋公亮(33)は、未婚だがとっくに独立し家を出ている。
公亮の親友で、碧とは幼い頃からの顔見知りでもある、斎木丈太郎(33)は、碧の会社の近くのフレンチ店で料理人をしている。お互いに好き勝手言える気心の知れた仲だが、こちらはこちらで本心は隠したまま碧の動向を見守っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる