はじまりと終わりの間婚

便葉

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バレンタインデー

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クリスマス以降の私達は、やっと新婚さんらしい生活を送っていた。
でも、ひょうひょうとしたミチャの性格は何も変わらない。
掴みどころがなくて、無頓着で、ロボットの事しか興味がないミチャは、相変わらず淡々とマイペースに暮らしている。
だけど、一つだけ違うところは、ミチャの中に私の居場所がちゃんとできた事。
ミチャの心と体に私の納まる場所がある。
愛されていると感じる瞬間がたくさんある。
ミチャの空気感に包まれたこの生活は、私に究極の幸せをもたらしてくれる。
 
でも、時間が過ぎるのも恐ろしく早かった。
ミチャ手作りの美味しいご飯を食べて、キスをして、抱き合って、他愛のない話をして笑い合って、そんな夢のようなキラキラした時間はあっという間に過ぎて行く。
それは仕方のないことだけど…
 
そして、今日はバレンタインデー。
私は四人分の手作りチョコを作った。
ミチャと風磨と森魚と弟と。
もちろん、ミチャだけは真心を込めて豪華に仕上げた。
他の三人はいつもお世話になっているお礼の気持ちを込めて、友チョコを強調したチョコクッキー。
風磨と森魚には悪いけど、弟好みにちょっと甘めに作った。
 
ミチャには夜に渡す予定だけど、森魚と風磨にはどうやって渡そう。
とりあえず、午前中の内に二人にメッセージを送った。
 
“友チョコを渡したいんだけど、近々会えるかな?”
 
私は近々を強調したつもりだったのに、二人の返事に心の底から落ち込んだ。
 
“今日、まひるんの家に貰いに行くね~” by森魚
“今日は予定がびっしり入ってるけど、どっかで暇を作るから” by風磨
 
男子にとってバレンタインデーって嫌な日だと聞いた。
彼女がいる男子はハッピーで、彼女がいない男子は地獄だと…
今頃思い出すなんて、私もどうかしてる。
風磨も森魚も、ルンルン気分でやって来る。
予定が皆無の森魚と、女子には興味のない風磨に、ウキウキワクワクの予定を与えてしまった。
私はそんな二人に無駄な努力といえるメッセージを返す。
 
“別に今日じゃなくていいからね、いつでもいいよ”
 
示し合わせたように二人からの返信はなかった。
あ~、絶対、それもミチャの居る楽しいバレンタインの夜に、あのふたりはやって来る…



そして、夕方になり、ミチャは急いで家へ帰って来た。
バレンタインのチョコレートは私が作ったと聞いたミチャは、すごく喜んでくれた。
他のご馳走は僕に任せて!と、いつもに増して張り切っている。
 
キッチンで楽しそうに料理をしているミチャの隣に、私は静かに立った。
そんな私の異様な動きに、ミチャはコントみたいに私を二度見する。
 
「どうした? 何かあった?」
 
ミチャは生魚を上手に捌きながら、横目で私を見ながらそう聞いた。
 
「今夜…
多分だけど…
他に来客がある…」
 
ミチャはさほど驚かず、誰?と聞いてくる。
 
「風磨に… 森魚…」
 
私は蚊の泣くような小さな声でそう言うと、さすがのミチャも手を止めて私を見た。
 
「風磨に、森魚君??」
 
ミチャの動揺ぶりから察するに、きっと、風磨と特に森魚はミチャにとっては目の上のたんこぶみたいな存在なのだと思う。
目の上のたんこぶと言ったら分かりにくいけれど、私の感触で言えば、うっとおしい存在、立ちはだかる壁、おじゃま虫と言った感じ。
そして、特に、聖バレンタインデーの日には、あまり会いたくない。
それは、私も右に同じだった。
 
「ごめんね…
お礼の意味を込めて友チョコを渡したいって言ったら、二人揃って、今日、ここに取りに来るって」
 
「あ、そうなんだ…
よし、分かった、じゃ、皆の分の料理を準備しよう」

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