はじまりと終わりの間婚

便葉

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ホワイトデー

…7

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「じゃ、ミチャ、改めて乾杯しよう。
さっき、私、ワインクーラーがあるのを見つけちゃったんだ。
一本、開けちゃっていいよね?」

ミチャはもう知ってるぞと言わんばかりの顔で、そのワインクーラーから一番いいワインを持って来た。
私達は何度もグラスを合わせた。
幸せ過ぎて、何回乾杯しても足りないくらい。

「まひるがフィレンツェで頑張ってる間、僕も、今、開発しているロボットを商品化まで持っていきたいって思ってるんだ」

「チームで取り組んでるやつ?」

ミチャは自信たっぷりな目をして大きく頷いた。

「まひるの生き様は、僕の制作意欲をビシビシと掻き立てる。
最高の相乗効果だと思うよ。
僕ももっと自分の作品を作り出したいって、やる気が湧いてくる。
そんなキャラじゃないんだけどね」

私は、またミチャのグラスに自分のグラスを重ね合わせる。
そんな事を言われると、自分の甘い考えがダメな事のような気がするけれど。

「まひるが居なくなったら、たぶん、会社に泊まり込む日々が続くと思う。
まひるが居なくなった後の生活や自分の気持ちが、今は、まだ全く想像がつかないけど、家に居たくないだろうなっていうのは分かるから」

私は目頭が熱くなる。
多分、これは確実に酔っているせいだと思う。

「ミチャ…
寂しいからって、他の女の人を求めないでね…
私の問題じゃなくて、ミチャの問題でもあるんだからね。
ミチャだって、私と離婚したくなる時が来るかもしれない。
私が居ない間に、女性に優しくされたら、ミチャはきっと騙される…」

私は、確実に墓穴を掘っている。
私の優れた想像力は、必要のない場面でもフルに活動してしまう。

「大丈夫だよ。
僕はロボットの事しか考えない人間だから」
うん、それは分かってる。
分かってるけど…

「あ、ヤバイ、思い出しちゃった…
ミチャ、桜子さんはどうなった?
就職先、どこに決まったの?」

ミチャの顔が一瞬で曇った。
鈍感で無頓着で空気が読めない人間なのに、何でこんな時にだけ分かりやすいの?
ミチャは自分で自分のグラスにワインを注いだ。
飲んで記憶をなくしたいと思っているみたいに。
なみなみに注いだワインをおっとっととふざけてグラスに口をつけるミチャは、本当に、残念なほど分かりやすい。
逆に笑いが出てしまう、まるでコントのようで。

「う~ん、どうだったかな…
多分、うちに決まったような気がする」

「え~~、嫌だ~~」

本当に嫌だ。
私のミチャへの心配事が百倍に膨らんでしまう。

「何が嫌なの?
何も心配ないよ、僕はまひるのファン第一号だし」

「ファンじゃなくて、最愛の妻でしょ?」

ミチャは肩をすくめて苦し紛れに笑った。
もう余計な事は言いませんみたいな顔をして。

「それで、桜子さんは?
まさか、ミチャと同じチームじゃないよね?」

ミチャは黙ったまま、またグラスにワインを注いだ。
今度は私のグラスに、だけれども。

「まひる、何も心配する事なんてないよ。
確かに、桜子は僕の会社に四月から入って、僕のチームで桜子の得意分野のアームを担当してもらう事になるけど、でも、それは仕事だから」

私は泣きたくなった。
桜子さんのあの闘志がみなぎる言葉と表情を思い出して、心が重くなる。
私はミチャが注いでくれたワインを半分ほど飲んで、ミチャの腕に絡みついた。

「ミチャ、約束して…
桜子さんと仲良くならないって…
私達の家にも絶対に入れないで。
一緒に食事に行くときは、必ず風磨を誘って。
桜子さんがどんなに困ってても、優しい言葉もかけないで。
抱きしめる事も、キスする事も、絶対に禁止だからね…」

ミチャはろれつが回らなくなっている私を、そっとソファに座らせた。
そして、私の頭を優しく自分の肩にのせる。

「約束するよ…
だって、まひるは僕の最愛の妻なんだから…」

私はワインが血管を巡っているのが分かった。
頭はぼんやりとしているのに、心臓はドクドクとうるさい。

「もし、桜子さんが、ミチャに一緒にお風呂に入ろうって誘われても、絶対にダメだからね…
ミチャと一緒にお風呂に入るのは、私だけだから…
私が居なくて寂しくなっても、桜子さんとお風呂に入っちゃダメだからね…
いくら誰かと一緒に入るお風呂が気に入ったからって…」

耳元でミチャの笑い声が聞こえる。

「まひる、飛躍し過ぎだよ」

ミチャの笑い声は本当に心地よい。
そんなに楽しそうに笑ったら、私は気持ちよくて寝てしまいそう。
ミチャとの離婚の危機を乗り越えて、これで私は清々しい気持ちでイタリアへ旅立つ事ができる。

って、そんなシンプルなわけないじゃない。
どんなに上手に自分に言い聞かせても、私の本能は言う事を聞いてくれない。
イタリアになんか行きたくない。
そんな事を考えていたせいで、私は苦悶の表情で眠りについたらしい。
それは、翌日、ミチャが笑いながら教えてくれた。

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