はじまりと終わりの間婚

便葉

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出発日前日

…1

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私とミチャはどうやら神様に嫌われているらしい。
あのホワイトデーを境に、二人とも急激に忙しくなった。
 
特に、ミチャは、ロボット研究を共同で行っているアメリカの大学に、急遽二週間も行く事になり、その準備のため、超が十回以上つくほど忙しくなった。
 
私の方も留学の手続きはもちろんの事、大学の教授から頂く紹介状をもらいに大学へ行ったついでに、そのまま昔の仕事仲間と朝まで飲んでしまったり、高校の美術部仲間が集まって二日にかけて送別会を開いてもらったり。
ま、私に関しては、ほとんどが飲み会なんだけど…
ミチャにイタリアへやっぱり行きたくないと駄々をこねる暇もなく、目まぐるしくあっという間に、四月の二十五日になった。
 
その前日の金曜日の夜は、ミチャは不在のまま、ミチャの実家でミチャのご両親と私の母と弟で食事会をした。
ミチャのご両親は私の事が本当に自慢らしく、私の母に何度もお礼を言った。
私の母はその度に涙ぐむ。
そして、そんな母に必ず弟がツッコミを入れる。
大好きな母の涙は、私の感情にいつも火をつけた。
絵を描く事が好きな私を、いつも応援してくれた母。
色々と出費が多い時も、いつも笑顔でお金を出してくれた。
そんな母のためにも絶対に画家になりたいと思った。
色々な意味で、母に後悔はさせたくない。
 
「いえいえ、こちらの方こそ、結婚したばかりなのにイタリアへ行くわがままを聞いていただいて、道也さんにはお礼のしようがないです」
 
母がそう言うと、ミチャのお父様は首をブンブンと横に振る。
 
「道也もまひるさんと同じタイプの人間なんですよ。
ロボットの事になったら、地の果てでも行ってしまうような…
だから、二人が惹かれ合うのも納得できました。
何せ、あの道也は色恋なんて縁のない人間だったので」
 
皆でハハハと笑う。
うん、今日はミチャが居ない方かよかったかもしれない。
とてもいい雰囲気で時間が流れているから。
 

そう、それが昨日の話…
でも、土曜日の今日は、さすがのミチャもちゃんと休みを取ってくれていた。
だって、今日は、この家でパーティを予定しているから。
メンバーは、そういつものメンバー。
何か一波乱ありそうなそんな予感がするのは、私だけ?
 
今日のパーティの主催者はミチャで、ミチャの中で色々と段取りがあるらしかった。
まずは、皆より、一時間早く、沙織先輩を家へ招いた。
 
「あれ、まだ誰も来てないんだ?」
 
先輩はリビングに入ったと同時に、私とミチャを見てそう聞いた。
 
「実は、沙織さんだけ早めに招待したんだ。
皆が来る前に話しておきたい事があったから」
 
沙織先輩のにやけ顔が可笑しかった。
ミチャはそんな先輩に、とりあえずコーヒーを淹れて持って来る。
そして、示し合わせたわけでもないのに、四人掛けのテーブルに先輩一人、私達二人というそういう形で座ってしまった。
 
「前回、遊びに来た時は感じなかったけど、今日は、何だか新婚さんの空気がうっとおしい、かも」
 
先輩のその表現にミチャは楽しそうに笑う。
でも、すぐに姿勢を正して真面目な顔つきになる。
 
「沙織さんには、ちゃんと説明しておきたいと思って…」
 
先輩はコーヒーを一口飲んで、わざとうんと大きく頷いた。
 
「その気持ちはありがたく受け取っておきます。
でもね、ミチャさん、私、ミチャさんの説明は要らないかもしれない。
どうしてかというと、二人の今日までの経緯は事細かにまひるから報告を受けてるから」
 
先輩のその言葉を聞いて、ミチャは私を見る。
私は罰が悪そうに肩をすくめた。
 
「二人がこういう形で結婚を続けていく事に、最初はすごく驚いたけど、でも、今が大事なんだよね…
その時その時で、判断していけばいいと思う…」
 
先輩の含みを持たせる言い方に、私よりミチャの方が反応した。
 
「沙織さんの見解を聞かせてほしい」
 
先輩は、ミチャの真面目な言い回しにちょっと驚いて笑った。
 
「見解って言われればちょっと分からないけど、でも、まひるの事をよく知っているまひるの先輩として、ミチャさんにアドバイスしてもいい?」
 
私は先輩を睨んだ。
お願いだから余計な事は言わないでと。
 
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