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出発日前日
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そんな風に言っちゃうミチャは、やっぱり可愛らしい。
「二人が離婚届を準備していつでも出せるようにしておくっていうアイディアにはすごく驚いた。
でも、驚いたけど、すごくホッとした…」
ミチャの顔色が少し変わった。
そして、すぐに質問をする。
「ホッとした…?」
沙織先輩はうんと頷いて、窓の向こうに目をやった。
「ミチャさん…
その離婚届け…
そんな遠くない未来に出す事になると、私は思ってる。
だから、ミチャさんは、そのつもりでいてください。
その方がお互いのためだと私は思うから」
「沙織先輩、それはないよ!」
すると、ミチャが私の腕を優しく掴んだ。
そして、先輩にどうぞ続けて下さいと目で合図する。
「まひるが、今、誰よりも何よりもミチャさんの事を愛してるっていう事は、私が一番よく知ってます。
今のまひるは、絵を描く事よりも、ミチャさんと一緒にいたいって思ってる事も…
まひるって、こんな感じでいつも全力投球で、だから長続きしない」
「もう、だから、ミチャは違うんですって」
私の泣きそうな顔を見て、先輩は笑った。
でも笑顔の先に怒った顔も見える。
私は怖くなって、ちょっと黙った。
「ミチャさん、絵を描いてる時のまひるを知ってますよね?
人格が変わったみたいに、自分の世界に没頭する。
本当にすごい作品を描いてる時なんて、一か月は軽く家の中から出て来ない。
その部屋は、絵の具の油っぽい匂いとまひるの情熱と魂しかない。
本物の芸術家なんです。
だから、大学の教授も友達も家族も、まひるがこれだけの賞を取って世界へ羽ばたいて行く事は、ちゃんと予想してました。
まひるは、絵を描くために生まれてきた。
絵を描く事がまひるの全てなんです。
その実力は、新進気鋭の若手画家として、日本ではもう有名です。
そんなまひるが、憧れていたヨーロッパへ行って一流の先生達から絵を学んで、のめり込まないわけがない。
今、ミチャさんへ寄せている想いだって、その勢いに押されていつの間にか消えてなくなってしまう。
まひるの中で、絵を描く事以上のものはないんです。
それが、ミチャさんであっても」
私は何も言い返せなかった。
ミチャと結婚してから、油絵はほとんど描いていない。
結婚当初に、描きかけの作品をちょっとだけ描いた時期があったけれど、絵を描く私がモンスターのようだって言ったミチャが気になって、油絵を描く事はしないで水彩画ばかり描いていた。
ミチャに、私の事を好きになってもらいたかったから。
「だから、ミチャさん…
ミチャさんの方が覚悟しておいてください。
捨てられるのはミチャさんの方だって事を」
「もう、捨てるとか言わないでよ。
そんなひどい言い方…」
ミチャは呆然と先輩を見ている。
先輩の言葉はミチャの心臓を突き破ったみたい。
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